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1.公爵令嬢フェリシアの婚約破棄(1)

結局のところ、貴族令嬢の運命など後ろ盾次第だ。


幼くしてお母様を亡くし、公爵だったお父様を12歳で亡くして5年。


わたしはよく持ちこたえた方だと思う。



「フェリシア・ストゥーレ。……キミとの婚約は破棄すると、ストゥーレ公爵に伝達したはずだが……?」



わたしの婚約者、第3王子マティアス殿下が苦々しげな、だけども申し訳なさそうに、要するに困惑した声を出した。


殿下の後ろで、わざとらしい悲痛な素振りで顔を背けたのは従妹のディアナだ。


楽団の音楽は鳴り止み、華やかな舞踏会は静まり返っている。


ストゥーレ公爵――つまり、わたしが18歳になるまで爵位を代行している叔父が、殿下の婚約者を、自分の娘のディアナに差し替えさせたのだろう。


兄の死後、弟が姪から本家を乗っ取る。


よくある話だ。


そして、婚約破棄の事実をわたしには伝えず、公の場で殿下の口から告げさせて、社交界に居場所をなくさせる。


これも、よくある話。


わたしは空色のドレスを広げ、殿下にカーテシーの礼を執った。


ハラリと垂れる銀髪が、わたしの表情を殿下から覆い隠す。



「これまでマティアス殿下より賜りましたご厚情に、ひと言お礼申し上げたく、場も弁えずに参上いたしました」


「そうであったか……」



殿下の感極まった声が、わたしの心を冷え冷えとさせる。


別れを告げた女からも愛されていたいという甘えに、胸焼けがしそうだ。



「……達者でな、フェリシア」


「ええ。殿下も」



きっと、殿下の後ろではディアナが赤い舌を出していることだろう。



――フェリシアは伯父様の娘っていうだけで全部持ってて、ズルいのよ。



お父様が事故で亡くなる直前、ディアナが一度だけわたしを詰ったことがある。


そのあと、ディアナがわたしに本性を見せたことはない。


いまだストゥーレ公爵家の継承権第一位を保持するわたしを懐柔しようと、叔父一家は表面上、わたしを手厚く遇してきた。


そして、お父様が亡くなった2年後、叔父が爵位を代行するようにとの勅命が降りた。


王宮に出仕している叔父の運動が実ったのだろう。


そのとき、わたしは14歳。


亡くなったお母様の実家から後援を受け、社交界にデビューした。


もちろん、叔父による公爵家乗っ取りに対抗するためだ。


表面上は優雅で華やかな公爵家。


だけど、裏では爵位継承をめぐる暗闘が繰り広げられてきた。


わたしは踵を返し、大広間をあとにする。


背後から、再開された舞踏会の音楽が軽やかに響き始めた。


きっと、わたしに同情して傷付いたフリをするディアナを、マティアス殿下が慰め、周囲はふたりを持ち上げている。


かつて、ディアナは「女が余計な知恵をつけるだなんて可愛げがないわ」と、わたしに賢しらげに説いてみせた。


さぞや美しい涙で、場を盛り上げていることだろう。


ともあれ、来年に控えるわたしの爵位継承を前に、10歳の頃に定められた婚約者を奪われた。


マティアス殿下との間に、楽しかった思い出がない訳ではない。


だけど、ここで見苦しく騒いでは、お父様とお母様の愛したストゥーレ公爵家の家名に泥を塗ることにもなりかねない。


わたしの性分も読み切った謀略に、いまは負けておいてあげる。


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