9.話し合い
ドローンのスピーカーからイケボが流れる。
「我々の事情を斟酌してくれた行動に感謝する。私は君が目指している街の代表のような役割を担っているマックスという。さらに事情を確認させてもらいたいのだが、このような形でインタビューさせてもらってもいいだろうか?」
「話してくれて感謝する。と言うか、マックスか!同期のベントだよ。覚えていないか?」
「あぁ。覚えているというと嘘になるかな。機体番号の連絡を受けてデータを検索して、搭乗者の情報を再確認して思い出したというのが事実だ。データベースと照合したところ、昔のいでたちそのままであったため、高性能なアンドロイドでも作って工作員を潜入させようとしたのではないかと正直ビビっていたところだ。ただ、欠番機体を使ってアンドロイドを作って、などと言う行為は怪しすぎるし、ベントの行動が無理に潜入と言うか侵入を試みようとはしていないことから、接触してそちらの希望などを確認することにさせてもらった。」
「おぉ。マックスっぽいな。慎重で大胆な感じで皆の先導役だったもんな。冷凍睡眠から覚めたばかりだから、昨日のことのように覚えているぜ。」
ベント君、洒落のセンスは壊滅的であることを露呈してしまった件。
「ベント様。くだらない話をしている暇があれば情報交換するためにAIにアクセスする権限をもらうなど、建設的な話を進めて頂けませんか?」
「何を無味乾燥なことを。くだらない話をするのが人間の本質なんだぜ?あんまり要件ばっかり話していたら心の通じ合いが無くなってしまうのだから、ちょっとした無駄話はコミュニケーションをとるには必要不可欠。必要良だよ!」
「そんな言葉、聞いたことがありません。とにかく話が進めてください。」
「硬いなぁ。まぁいいか。
マックス。僕の搭乗機のAIがバッテラにおける情報を記録しているので、そちらのコアにデータを転送したいのだけど、受け入れてくれるかい?」
「ウィルスの可能性を考えると、さすがにコアへのアクセスを認めることはできないので、何らかの表示デバイスを用いてこの場で共有させてもらうことはできないかな?」
「ふむ。なるほど。前時代的な情報共有のやり方で、面白いね。ノン、ドローンの光学センサーと感音センサーにダイレクトに映像と音声を送ってもらえるかい?」
「はい。承知いたしました。マックス氏の受け入れ態勢が整ったら転送を開始いたします。」
「マックス。こちらのAIの情報をドローンのセンサーに転送するので、動画を見る体制ができたら教えてくれ。ほぼ16時間の動画になるけど、無駄話や経緯の趨勢に影響のない情報などは省いて、さらには1.5倍速で再生するように設定するから、多分1時間程度で視聴は終わると思う。」
「承知した。こちらは準備できているので再生してくれ。」
と言った経緯で、センガキの代表者マックスに対してこれまでのあれこれを紹介することになった。
「グス。酷い。折角アークを侵略者から守ったのに排除するなんて・・・。」
マックス氏、なぜか泣いている。
(暑苦しい奴だったけど、50年経っても暑苦しさは変わらなかったんだな。まぁだからバッテラから離脱して独自組織を立ち上げるなんて離れ業を披露しているのだろうけども。それにしても暑苦しいな。)
真摯なマックスに対して割とドライなベントであった。
「まぁ、酷いのはアークAIで、それってマックスも知っていたからバッテラから離脱したのだろうから、まぁ予定調和みたいな?少なくとも泣くほどのことではないんじゃないか?」
「何を言う!真っ当な働きに対する真っ当な報酬!それが覆れば真っ当な政治など行われないではないか!!あ、でもそうか。AIが暴走を始めたので真っ当な政治が期待できないとあきらめてバッテラから逃走したのだから、あいつらと言うかアークAIに真っ当な判断を求めること自体、無理があったな。落ち着いて考えれば泣くほどのことはなかったな。」
「まぁそうなんだけど、悔しがってくれてうれしかったよ。で、ノンからの情報には追加されたCG等は無いことは確認できたと思う。かといって、情報を適宜割愛しているので切り取り情報が含まれていると思われた場合に反論できない状況だ。フルにすべての情報を開示することは可能だし、そのくらいの冗長性があってもいいと思っているのだけど、より詳細な確認は必要かい?」
「うむ。実は、私のいる場に既に街の運営を司るものが集まっており、ダイジェストの動画は確認させてもらっている。だが、ことがことなだけに、非圧縮版の動画を拝見したいがよろしいか?当方でも色々と確認したいため、今回はドローンのデータストレージにデータをコピーしていただきたいのだが、この点も含めて検討してほしい。」
ベントとしてはデータをコピーして提供することに何らの問題点も感じていなかったので諾意を示し、センガキ代表者達の判断を仰ぐこととした。
センガキとしては、恣意的な編集が無いことと言うか、その痕跡を見つけられなかったことから、本当に情報の改ざんが無いことを信用するか、センガキの技術で把握できないほどの技術格差のある改ざんを行っていたとすれば、このように冗長な手段をとらずに自分たちを欺くことができるだろうという二点に落ち着き、結局はベントたちが自分たちセンガキに対して有効的な関係を築こうしているという論に信を置くことにしたのであった。
この結論により、ベントはセンガキへの入街を認められることになり、ようやくリアルで面談が叶うこととなった。
場所は移り、センガキの役所のような建物の一室にて。
「ほい。とりまお土産。」
「お?肉の塊!昨日解体していたクマだな。ありがたくいただくよ。」
センガキ周辺は森林地帯が広がっているため、野生化したテラの動物はそれなりの数が生息しているようだが、生態系の把握が不十分でどの程度どの動物を狩ってよいかを把握できていないために、野生化した動物については、積極的な狩りは禁止されているそうである。また、AIが武器の製造を良しとしないため、街の外に生息している動物の肉はなかなか手に入りにくいようである。
今日は久しぶりにステーキかなぁと暢気なことを考えていたマックスだが、部屋の扉がノックもなしに豪快に開けられる。
「お父さーん!ベント君に会いに来たよー!!」
何だか微妙に言葉がおかしい発言をしながら元気よく入ってきたのは十代半ば程度の女の子。会議室に乗り込んできたのは、肩にかかる程度のセミロングヘア、黒髪黒目で日焼けバッチリのなんとも活発な元気娘であった。