5.潜入
機体前部を尖鋭化させた子機は自転するままに敵マザーシップに突っ込んだ。敵マザーシップの船体に穴を開けたタイミングで外殻形状を変形させ自転と前進運動を停止させた。子機とは言えそれなりの質量を持っていたことからちょっとした穿孔用削岩機が明けたような穴を穿ちながら数百m侵入して停止した。
弾丸形状のままコアルームまで行ってしまえば良さそうなものなのだが、冷凍睡眠している生命の維持にはこだわりたかったベンドの要望に基づき、コアをあまり傷つけずに済ませるための対処として、このような冗長な手段をとることにした。
ここからはいわゆる白兵戦である。
ベントは戦闘服を装着し、子機船外に出る。サポート用の獣型ドローンもその横に並び立つ。
「ノン、コアルームまでのマップ表示を頼む。」
「了解しました。脳内リンクにて視覚にオーバーレイ表示いたします。」
ベントは何だか人間をやめている気がするなぁと思いながら表示に従い移動を開始する。
侵略型ドローン50万機、ミサイル発射孔100門(+ミサイル多数)を備蓄しているのに、まだあるのかよと言いたくなるベントに些か同情の余地があるが、白兵戦タイプのドローンがわらわらと出てくるのであった。
白兵戦においてもロマン武器を求めたベントであったが、「光学兵器って効率が悪いと申しませんでしたっけ?下手にレーザーを当てると反射光で自分が破壊される可能性もあるんですよ?」の理路整然としたノン様の説明によりあえなく撃沈。かといって銃器を持たせてもらえたかと言うと、「弾がもったいない」という何ともしょぼい理由によりこれまた却下。結果として持たせてもらった武器が、長距離武器として槍、中距離武器として大ナタ(剣や刀は狭い通路で振り回すのに邪魔でしょ?だそうだ)、近距離武器としてパイルバンカー(ついに来た!とベントは喜んだようである)となった。補足すると刃こぼれ等は戦闘服に装備しているU粒子動力炉が修復してくれるらしい。一方で、銃器の弾は消費と補充の速度バランスが取れないので長期戦を戦うには適さないということのようだ。
ベントは後方守備にドローンを配置し、移動を開始する。
敵ドローンが守備隊形を整えて通路で待ち構えているが、形状変形合金製の大槍は触手のように伸びて敵ドローンの行動を不能にしていく。長距離と言ってもちょっとルール違反な長距離特性があり、弾の消費が無いとなれば、銃器よりもよほど有用だなぁと思いながら前進を続けるベントである。
もっとも、それほど簡単に進めるような甘い設定でないことはノンからの情報提供によりわかっていることで、このまま進むと開けた場所に出ることになる。そこは数百体のドローンが待ち構えているエリアである。
大槍で一回に攻撃できる数は十体程度であり、エリアに突っ込んでしまうと囲まれて終わり。獣型ドローンは一体のみなので、範囲殲滅は想定されておらず、あくまでもサポートドローンとの位置づけだ。
広範囲攻撃用の爆弾は持ってきていないし、どうしたものかと悩んでいるかと思いきや、あまり悩んでいないベントとノンであった。まずは、釣り作戦により数を減らしていこうぜ、である。
エリア入り口付近から大槍を伸ばして適当に手あたり次第に刺さる敵に大槍をぶっさしていく。通路を曲がって触手のように伸びてターゲットを刺し壊す武器って悪役が使う武器だよなぁと思いながらも便利だね、と、この局面でも暢気に構えているベントである。とは言いつつ、次の一手はなかなか難しい。敵ドローンは迎撃のためにエリアから出てきてベントに襲い掛かる。槍を戻しつつ、槍の石突を左腕に絡ませながら、後退する。一対一の体制を作り、迫りくる敵ドローンを大ナタで薙ぎ払っていく。それでも追いすがる個体に対して左腕に装備したパイルバンカーを打ち込み接近を許さないように敵数を減らしていく。
エリア外は通路なのが奏功して、敵ドローンに囲まれる状況が作られにくく、後方からの敵には獣型ドローンが対応しているので前方の敵に集中できる状態が維持できていた。
さらに、なんともこすっからいのが、獣型ドローンが敵ドローンを鹵獲し、U粒子動力炉に放り込んで・・・殲滅型攻撃武器を構築するという作戦なのであった。ある程度釣ってしまえば敵AIも戦法に気づくはずで、そうなると釣り効率は落ちていく。なので、U粒子のトンデモ性能を利用していきなり攻撃方法を変更するということなのである。
敵ドローンを50体ほど鹵獲したところでエリア内を殲滅できる程度の広範囲攻撃武器が完成した。ここでまたなんともこすいのが、エリア内にいる敵ドローンに武器を移植して、エリア内中央部付近で起動させるという悪辣さである。ご都合主義的に、攻撃武器が敵ドローンのAIをハッキングすることで行動を制御して最も破壊効率の高い位置に移動させてからの武器起動である。なんとも主人公っぽくない戦法である。
とは言え、がきーんばきーんしゅぱーで数百体のドローンが切り伏せられましたとは、武器の損耗度やベントの運動性能、体力、戦闘継続時間などを考慮するとなかなか非現実的であるのも事実であり、効率重視の戦法を採用することが確実であるというベントの言い分としてはさもありなんというところだろうか。
加えて蛇足ながら説明するならば、敵AIはマザーシップ内を大きく破壊することができないという事情もあり、ベントたちに対して銃器を使用しない白兵戦を挑んだことも、今回の潜入作戦を容易足らしめた要因であることも大きい。蛇足ついでに、エリア内のドローンを大量破壊した武器は爆弾ではなく穿孔用の棘が四方八方に飛び出すものであり、敵マザーシップ内を破壊したくないという点ではベントたちと敵AIの思惑は変なところで一致しているのであった。
さて、U粒子のチートに助けられて大した苦労もなくコアルームに到着したベントである。
AIの洗脳と言う珍しい作業が始まるのである。