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3.状況説明

街でいきなり街長と会えるわけもなく、役所の戸籍課にお勤めの所員が駐機場で待っていた。

「ベントさん、こんにちは。戸籍課で働いているウドと申します。祖母のシルフがベントさんとお知り合いとのことで、私が派遣されました。死んだと思っていたベントさんが生きていたということで、とても会いたがっていますので、もしよろしければ今晩会ってやって頂けませんか?」

「こんにちは。ウドさん。シルフとは同い年だったのだけど、50年も経ってしまって、年齢差ができてしまいましたねぇ。お孫さんまでいらっしゃるとは。この街がどのように発展してきたかなど、是非お伺いしたいものの、詐欺の懸念は無いのですか?」

「そもそも街に入れるだけの審査をクリアしておられますからね。重傷者を50年かけて治癒させたという状況は想定されていなかったようなのですが、ベントさんが別人である可能性は無いと判断されています。ですので、人を騙った詐欺という懸念は持っておりません。そもそも、65歳のベントさんが出てきてくださった方がよっぽど怪しまれにくいですから、わざわざアーク側の受け入れを混乱させるような手の込んだ詐欺を働くメリットを想像できていないということも事実ではあります。また、時間がたったことでお人柄が変わったかも、と言ったことも、50年前のお姿そのままということは目覚めて日が経っていないということですから、一日二日で急激に性格が変貌してでもいない限りは、特に懸念すべき点は無いと思っているのです。」

「なるほど。信用していただける土壌があってのことだと理解いたしました。では、若干どころか、かなり込み入った、むしろこの街にとって好ましくない状況が迫っておりますのでしかるべき場所で報告させて頂けますでしょうか。シルフとの面会はその後でお願いします。」

このようなやり取りの後、ベントは役所の応接室に通され、街の保安に関わる事態が生じているということを伝えたことからウドの他に保安課の所員も同席することとなった。

「敵性ドローンが50万機ですか!?しかも、1000機はすでに鹵獲済み??一体全体どのようにして把握したのですか?また、どうやってバッテラの、というかアークの住民に知られることなく鹵獲作戦を実行できたのですか?」

と驚いたのが保安課課長のニヘオ氏である。

「この星にはテラ星系では確認されなかった素粒子があります。僕が最初の投下作戦時に大気圏から弾き出されて重傷を負ったため、テラフォーマーのAIが何とかしようと右往左往したらたまたま核融合炉内での挙動を確認したということですが、これがかなり応用性の高い素粒子なのだそうです。AIが無限の可能性を持つ素粒子ということでU粒子と名付けたので、以降はU粒子と呼びますが、元素変換ができたり、核融合炉で高効率のエネルギー源となったり、テラ星系には存在しなかった金属を作れたり、と、何でもありのようなのです。で、僕の乗っていたテラフォーマーのAIは自我を持つに至り、テラフォーマーを改造して高性能レーダーを搭載するに至った、と聞かされています。敵性ドローンはかなり高性能な光学迷彩機能と電磁波に対してもステルス機能は優秀なようです。ただし、敵方はU粒子を発見していないようで、U粒子対策は全く取れていないそうです。そのため、U粒子を利用した索敵を行うことにより敵の所在を確認することができました。また、敵方の起動兵器は全てドローンでしたので、データリンクを機能不全に陥らせることによって機能を乗っ取ることができたのだそうです。49万9000機については、現状スリープ状態なので乗っ取りができなかったと聞いています。とまれ、現状バッテラを中心とした衛星都市は呼んでもいないお客さんに取り囲まれている状況ですので今後の防衛についてご相談というか、ご提案できればと思っています。」

これ以上の話は責任者がいるところでなければ話せないときっぱり宣言したベントに対し、ニヘオも会って直ぐでは信用できないとか、話の信ぴょう性に疑いがあるだとかを持ち出して情報の開示を求める努力をしたものの、持つ者と持たざる者とのパワーバランスは如何ともしがたく、街長(というか、もう、星の代表者なのだが)と保安部長を交えた面談が行われることとなった。いまさらながら、15歳のベントに高等な交渉術などあるはずもなく、ノンちゃんからの助言が功を奏したことは申し添えるまでもないだろうが付け加えておく。

「というわけで、意外とやばいんですよ。この星。」

「物証(鹵獲品)とデータ(残りの配置情報)がこれだけはっきりしているとなると、否定する材料を探す前にさっさと信用させてもらった方が良いな。侵略を未然に防いでくれたことと情報提供に感謝する。」

と言って、街長のガワハウは謝意を述べた。

「今後の防衛策としては、どのようなことができる?当方にはAI規制に基づき武器を所有できていないのは承知のことと思うが。」

とは、保安部長のトーゴの質問である。

「ノンが調べたところ、敵方は未だU粒子を認識しておらず、各種装備はテラ星系に存在していた知識の発展形のようなもののようです。となると、U粒子を使った戦法が刺さりやすいと考えました。具体的には、敵方の播種船に乗り込んで、AIを洗脳してやろうと思っています。」

「「洗脳?」」

「はい。どうもあっちの文明は108進法で物事を処理しているようで、文明レベルとしてはテラ星系文明を凌駕できる素質はあるみたいです。だけども、能力の使い道が決定的に退廃的で、自分達の文化度や教育度を高めるようなものではありません。どのようにして他人から搾取するか、生かさず殺さず長期にわたって働かせるか、端的に言って欲望の塊です。思考がクズなので、清廉な思想をAIにインストールすれば自己矛盾からの自滅を促せると思っています。自滅しなかったところで、他人を搾取するなんでダメ絶対と思わせることができれば包囲を解いてどっか別の星に向かってくれるだろうというのが今回の作戦の骨子です。一つ懸念点を申せば、すでにドローン1000機を鹵獲しましたので、相手方のAIも我々が敵対する準備があることについて気付いていることから、簡単にハッキングさせてくれなくなっているだろうという点があります。」

「警戒が厳重になってしまっているのでは洗脳作戦は実現できないのではないか?」

とは、トーゴさん。

「そこで、U粒子なのです。相手の索敵スキームを全否定する形でステルス化し、気が付いたらマザーシップに接舷、潜入して対応する間もなく洗脳されていた、という状態を作るのが今回の作戦です。この会話を盗聴されていたらご破算ですので、実はこの会談前に戦術は検討済です。」

「いや、この応接室は役所の中でも、最高にセキュリティレベルが高い部屋だぞ!?盗聴などできるはずもない!」

「いやーそうなのかもしれませんが、敵さん、高性能集音機を遠方に設置しているようです。盗聴される可能性が高いと判断しまして、ノンに手伝ってもらって部屋から漏れる振動を操作して、敵に囲まれて頭を抱えている会議、の体裁をとるように偽装しておきました。ノンは、大切な話があると申しましたのに、自宅の一室程度のセキュリティ状況でびっくりしたと言ってましたね。敵性存在がいないということであまりこのあたりに注力する必要が無かったのかもしれませんが、外からの攻撃に対しての備えはもう少し強化した方が良さそうです、と言うのもノンからの伝言です。」

「ううむ。確かにアークに入植してから戦闘行為は一切行われていなかったのも事実だし、こういった防衛プランを話し合うような会議も初めての経験ではあるな。」

「事実として惑星外からの侵略行為が認められたということから、アークの防衛戦略を構築する必要があるかもしれませんね。保安部は都市内の犯罪取り締まり機能に特化した機能を持っていましたが、外敵への対応機能を実装すべきか否かをAIにも相談しつつ検討してまいります。」

とは保安部長のトーゴさん。

ベントとしては、侵略の事実がある時点で『要否の検討』ではなく『実効性のある機能の実相を検討』じゃないのかなぁと思いながらも、今日目覚めたばかりで統治体制もよくわかっていないアーク星系のシステムに口出しすべきではないし、口出ししたところで受け入れられないようなぁと思って黙っていることにした。

「いずれにしましても。」

とベントは切り出す。

「侵略行為があるのでこれを排除することは問題ないと思います。また、アークの戦略を借りることなく処理できますので僕とノンとαの単独行動としてみなして頂き、特段貴政府の許可を得る必要は無いと考えますがいかがでしょう。」

「確かに衛星軌道上における戦闘行為について規定した法は無いし、衛星軌道上の防衛など行っていない我々が知らないうちに戦闘が終わらせることができていた可能性があることも考慮すると、以降のベント殿の行動について我々アーク政府が何等かの制限を設けることは不当と言えるな。

意図は承知した。侵略者に対する排除行為を開始、実行することについて当政府は一切関与しない。」

敵にαの存在を知られてしまっている今、時間との勝負だったことから、この判断は好ましいものであった。

「承知いたしました。それではこれから侵略者の排除に向かいます。」

戦闘開始である。


本日2話目の投稿です。

20時頃も投稿を予定しています。

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