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2.周辺の状況とは

ひとしきりの自分の身におきた様々な状況変化を確認した後は、自分たちを取り巻く環境を把握するための時間となった。

50年前の播種船の到着後、テラフォーマーの作業によりテラフォーミングは無事終了した。播種船は当初の計画通りアークに入星し、人類が生活するうえで適当と思われる場所に着陸した。その後AIコアを配置したセンタービルの建設を皮切りに播種船の部品を建物の建設に利用して街づくりが行われた。

現在、入植者は10街区に分かれて生活していて、首都として位置付けているバッテラを中心に同心円状に9街区が作られているとのことである。

播種船には300万人の移民者が乗り込み、入植後の人口増加は順調で現在450万人が生活しているとのことである。ベントは15歳の時に播種船に乗り込んだため、同期は65歳のベテランということになる。一方、友達を作ろうとするとその祖父母が実はかつての友達だったという微妙な人間関係が構成されるかもしれないが、ベント自身はαとノンの性能把握に夢中で人類との接触にはそれほど執着していないのであった。

「さて」

と、ベントが街とのコンタクトを試みようとノンに相談を始めた。ノンとしてはベントの身の安全を確保したいこともあり、バッテラ周辺の脅威有無を調べるためにαの子機を生成し、哨戒に当たらせることにした。

いまさらではあるが、播種船は侵略者であってはならないという信念のもと、敵対的知的生命体がいる星は移住先の候補からは除外していた。そのため、アークには入植に対して武力反発する生命体はおらず、食物連鎖のうえで頂点に立てれば僥倖と言った比較的温厚な入植ができることとなった。すなわち、異文化交流などは全くなく、だだっ広い土地に自由に家を建て、街を作れるという状態だったわけである。

ベントとしては、バッテラまたは周辺都市とコンタクトして、市民権を得ることを考えていたのだが、ノンからもたらされた情報はいささか剣呑であった。

バッテラおよびその衛星都市群はアークの大陸に街を作っているようなのだが、大陸を包囲するようにテラとは異なる知的生命体により製造された武器に包囲されているようなのである。ちなみに、テラ連邦は増えた人口を戦争で減らすという愚は人道的とは全く異なる論点で犯さないように考えられていたため、播種船に搭載したあらゆる機械は戦闘を目的としないものであった。したがって、現在アークにおける包囲状態はいつ殲滅されてもおかしくはないほどに危機的状況であった。

ベントは包囲状況についてさらに確認する。

「ノン、敵対的勢力の規模と、アークに対する脅威度はどのくらいなの?」

「現時点で、アークに降下しているドローン殲滅部隊は50万機ですが、アクティブな機体は1000機です。地上からの殲滅を目的とした走行型ドローンで一都市ごとにその機能を奪い、植民地化するようです。人類は労働力として考えているようで、生命の殲滅は現時点での戦術目標とはなっていないと思われます。」

「ドローン部隊主体だったら、都市殲滅後に入植すればいいように思えるけど、ドローンを制御しているブレインの意図なんかは判らないかな?」

「相手も生命体は冷凍睡眠しているようです。ドローンへの指示はAIから出されており、このAIはどうも侵略、植民化ということをタスクとして組まれていると思われますので、入植という概念はない者と推察します。」

なるほど、寄生虫または外道な感じの連中であるのだと断定したベントは理性的なやり取りによる平和的解決策を検討することをやめた。そうなると、ベントとしてはロマン武器の活用ができないかと心を躍らせるのである。

「ノン、とりあえず1000機を一瞬で葬り去るために拡散ビーム砲を作ってαに実装してくれ」

「ベント様。ビーム砲はエネルギー効率が悪いですし、光学迷彩を施しているドローン部隊にはさらに効果が低くなってしまいます。アークでの効率性を考えると、U粒子を暴走させてドローンのデータリンクを焼き切る方法が地味ではあるものの最も効果的なのですが、いかがいたしますか?ちなみに、有効打を与えられる拡散ビーム砲を発射するのに必要なエネルギー量は100ペタワットで、U粒子動力炉から創出したとして10か月程度の日数がかかると推算されます。」

ベント君、(ぐぬぬ)と思いながらも「ぐぬぬ」を言った人は知らないし、初めての人にもなりたくないし、などとどうでもいいことを考えていたものの、はたと思いついたらしい。

『いつの間にか殲滅されていたってすごくね?』

ここからは、拗らせに拗らせた持病に従い突っ走るのみとなった。

「OKノン。いい判断だ。U粒子を敵方ドローンのデータリンクを焼き切る作戦で機動力を徹底的に削いでくれ。」

「ベント様。了解です。敵性ドローンへのU粒子オーバーロードを開始。終了いたしました。」

ちなみにベント君、これまで外の映像を見ることなくノンちゃんと話していたことにいまさらながらに気づいたらしい。脳内リンクによって共有できていたのでいまさら見る必要ってないというのもあるのだが。

「ノン。状況把握のために視認したい。モニターへの投影を頼む。」

「了解しました。」

ベントは唖然としなかった。いや、できなかった。

死屍累々を想像していたのだが、単に整然と並んだ獣型ロボットが甲箱座りのような形で整然と並んでいたからである。

で、ここから唖然とした。

「ベント様。ドローンの支配権はすべて奪っております。ベント様の命令一つでいかようにも動かすことができますので、今後の防衛、侵略なんでもござれで活用してください。」

戦う前に戦争が終わってしまっているってどうなのよ、と、持病があるので言いたいところではあるが無血解決っていいよねと思い直して、1000機の仲間をうまく活用できたらいいよねーということでノンとのミーティングが始まるのであった。

まだまだ敵方には499000ユニットが生きているので、のほほんとはできないものの、哨戒目的で各都市に100機を配置することにして、当初の目的であるバッテラとの交信を試みようという話になったベントである。

「バッテラ治安部(?)、当方、テラフォームTFM05ZZである。交信願う。」

・・・

「TFM05ZZだと?行方不明の欠番機を騙るとはどういうことだ?」

「応答感謝する。長らく活動を停止していた機体が復活したということである。詳細の説明には無線通話は不適と考えるため、無線通話ではない形でのコミュニケーションを希望する。具体的な提案について暗号筒を発信したいがよろしいだろうか?」

「承知した。発信の際は、発信地点の通知・受領、筒の到達地点に関する情報をテラ連邦暗号手法に基づき連絡するように。」

「もちろんだ。こちらには敵対する意思がないことを、理解してもらえるとありがたい。」

という、古式ゆかしそうな、最先端のような、テラ連邦出身者でなければ運用できない方法で面談が叶い、お互いに疑問が晴れて、ベント一行の入街が認められた。

街に入るときにひと悶着あったらこまるので、外骨格をテラフォーマーに変形させ、当然武装も一切持たずに合流地点に向かった。合流地点には治安維持用にわずかながらの武装として水圧銃とスタンガンを持った飛行型ドローンがやってきて、αのスキャンを行い、特に問題ないとの判定を受けることができた。

街ではテラフォーマー用の駐機場の一区画を借りることができ、ベントはようやく街の住民と会うこととなったのである。


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