19.次の一手
作戦行動の後半は完全に消化試合となったので詳細は割愛するが、結局はユピタ軍の兵種があまりにも少なすぎ、戦局への対応力が無さ過ぎた。
ユピタAIはそのような中でも頑張った方じゃないかなと思うベントではあるが、ともあれ降下後2週間ほどですべてのドローンの吸収を完了したのであった。
あまりにも大量のドローンを吸収したので、ノンの提案でαの大型化が行われ、10名程度の生活が可能な宇宙航行クルーザーへと変身を遂げた。
ここは、そんな変身を遂げたαの談話室である。
セントユーノからサーシャがαに戻ってきた。
「ベント君。久しぶりー。おつかれー。ケガとかなくてよかったよー。ただいまのちゅー!希望!!」
サーシャが抱き着いてきた。ついでにキスを求めてきた。
「うん。おかえりー。ちょっとと言うか、大分予想と違った動きをしてきたところがあってびっくりしたけど、大きな損害が出なくて良かったよ。ドローンを大量に吸収できたから宇宙航行用の子機もかなり用意できることになったから、センガキの人たちの移住も現実的になってきたね。」
と言いつつ、ちゃっかりサーシャを抱きしめ返し、軽いキスを交わすベントであった。婚約者設定を今さら崩す気などなく、とことん既成事実を作ってやれ、と開き直っているのだった。あれ?これってファーストキスじゃね?と思いながら、脳内リンクが確立されてしまっていたので色々と赤裸々にお互いを知ってしまっていて、ちょっと残念なお二人さんではあった。
「ベント様。3日後は予定通りセントユーノでの会議ですが、予定通りやってしまいますか?」
「うん。そのために子機もたくさん作ったしね。ノンさん、αさん、やっておしまいなさい。」
「なにそれー。」
またもやおかしなことを言いだしたベントだが、サーシャは優しくもお付き合いして突っ込みを入れつつ、何をする気かと聞いてみる。
「とりあえずユピタの砲撃衛星、軌道エレベータ、宇宙ステーションを破壊しようかと思ってるんだ。ヨハンソンさんからは、好きにしていいよって言われてるし。子機を10機くらい送り込めば余裕かなって。あと、ユピタの星状も確認したいと思ってる。どうにも人族至上主義の専制体制を敷いているようで、虐げられている種族がいるような気がしているんだよね。と言うか、被差別対象がいないとああいった政治って成り立たないから、必ずいると思っていて、助けられるものなら助けたいとも思っているんだ。」
「承知いたしました。では、以下のプランでいかがでしょうか。」
ノンが提案したプラントは以下の通りだった。
①宇宙ステーションへのハッキング
②星状の詳細分析
③攻撃衛星と宇宙ステーション、軌道エレベータの同時破壊
宇宙ステーションへのハッキングは超小型子機を使う、物理的侵入作戦である。この時、子機を液体化してステーションのエアロックに侵入したいんですよねぇと言うノンの希望があり、感応波を届ける必要が発生してしまった。このため、ベントも同行することになった。となると、かわいいサーシャを一人ユーノスに残していくのはかなり抵抗を持つようになったベントは、一緒に来てもらうことにしてお願いしてみたところ、二つ返事で快諾。結局センガキの当初戦力が全てユピタ星系に遠征することとなった。
「ノン。αは10人搭乗サイズにしてくれ。ステルス及び光学迷彩機能は最初から起動して最大船速でユピタに向かってくれ。」
「了解いたしました。6時間後にはユピタ衛星軌道に到着予定です。」
「ベント君。6時間もあるならご飯食べない?わたし、おなかすいちゃってるー。」
「と言うことはレーションじゃなくて料理を作るってことだね?何食べたい?」
「ベント君の得意料理って何??」
「うーん。ノン。ひき肉、玉ねぎ、にんじん、トマト、セロリ、塩、コショウ、砂糖、にんにく、唐辛子、パルミジャーノチーズ、赤ワインって用意できる?」
「はい、全部あります。ベント様は515歳ですが肉体年齢は15歳なので赤ワインはお勧めできませんが。」
「いや、飲むつもりはないよ。食材がそろっているから、あれができるな。ノン、調理室に重力が欲しいから自転用ポッドを作ってもらえる?」
「承知いたしました。この部屋を改造します。」
ベントたちの部屋が調理室に改造され、αの船体に対して円運動できるように開店アームと接続された。回転が始まり、重力が形成された。
「おぉ。宇宙空間で重力が感じられるのはちょっと違和感があるけど、いいね。では作っていこうかな。」
ベントは包丁とまな板を取り出し、にんじん、セロリをみじん切りにしていく。玉ねぎを粗みじん切りにしてにんにくで香りづけしたオリーブオイルで弱火で炒める。玉ねぎがあめ色になったところでセロリを投入し、水分を飛ばす。水分は早めに出し切りたいので塩をパラパラと。水分が染み出てこない程度までに炒められたらにんじんを投入し、さらに水分を飛ばしていく。もちろんこの時も追い塩だ。野菜の水分を飛ばしつつ、ひき肉を炒め、出てきた油を捨てる。野菜とひき肉を合わせてさらに火を入れていく。ここでトマトをフードプロセッサでジュース状に。みじん切りだとトマトの果肉がしっかりしているところと果汁のところとで食感に違いが出るんだよねぇ。とはベントのこだわりのようだ。即製トマトジュースを投入し、赤ワインも投入。トマトの酸味ははちみつの方が相性がいいんだよなぁと思っていたらノンからはちみつあるよーとの話で、はちみつを投入。コショウを投入しながら味を調え、唐辛子でちょっと辛みのアクセントをつけたら煮込んでいく。
「野菜たっぷりラグーソースだぜ!」
「おぉ。おいしそう!でもパスタってあるの?」
「ノンがご都合主義者だから、ラザニアを用意してくれた。牛乳に近い飲み物も元素変換を駆使することで何とか作ることができたからホワイトソースも作れたので、今日の飯はラザニアだぜ。」
オーブンで15分焼き上げ、ラザニアが完成した。
「あっつっつ。熱いけど、おいしいねぇ。野菜が多いからあんまりモッタリしていないのかな?たくさん食べられる気がするよー。」
「そうだろう。そうだろう。スジ肉を使ってもおいしいんだけど、今日は煮込み時間が少なかったからまた今度な。」
「うん。ありがとう。満足満腹だよぉ。」
何とも緊張感が無いのだが、いつものことなのでノンもかなりこの状況に慣れてしまっており、注意する気も起きていないようだ。
さて、
「ベント様。そろそろユピタ衛星軌道に到着いたします。宇宙ステーションへの接近を行いますので、子機の調整をお願いします。」
「了解。宇宙ステーションは静止衛星軌道に設置されているんだね。と言うことは軌道エレベータはあくまでも往還用シャトルをつなぐための『縄』で構造部材として機能しているのではないようだね。これなら、破壊というよりも切断という処理で良さそうだから破壊工作は幾分か楽になりそうだね。」
ベントは子機を生成し、ユピタ宇宙ステーションに潜入させた。子機は液体金属から固形化し、宇宙ステーションのデータルームに到達して、細かい情報を入手するのであった。




