18.一方そのころ
場面は変わり、獣人族のコロニーであるビズポリスである。
「指令。事前情報通り、ビズポリス第一攻撃隊がビズポリス南1km地点に布陣しました。現在、陣形を調整している模様で、混乱しつつも当初の分散陣形から密集陣形に変更を進めています。セントユーノからの連絡が入っており、第一波攻撃の失敗により隊列の見直しを行っているとのことです。また、敵の交信周波数の共有もあり、敵通信の傍受に成功しました。」
「承知した。陣形変更以外は概ね予想通りに進んでいるということだな。」
熊のような容貌を持つビズポリス防衛隊指令ディアベがマックスに負けず劣らずのイケボで応える。
「後衛部隊の布陣確認、弾頭補給経路の特定を急いでくれ。」
「了解いたしました。現在、第2次降下部隊が第1布陣の後方20kmにて集結中です。ビズポリスまでの行軍中に溶解材料を収集するものと想定されます。ビズポリス侵攻後は、建物を破壊して弾の原料にする可能性が高いと戦略AIは推算しています。」
ビズポリス攻防戦が始まる。
ユピタ軍の弾頭補給は土やコンクリート等を熱溶解させて弾頭形状に成型するものであることは以前述べた。爆薬を持っていないことから、水があれば水蒸気噴射、泣ければ圧縮空気噴射によって弾頭を射出する。このため、防護壁にできるだけ近づかなければ効果が弱いという、致命的な弱点がある。それもあっての第一波攻撃だったのだが、このままでは時間ばかりがかかることはユピタAIも理解していた。
そこで、ユピタ軍がビズポリス攻略に新たに考えた作戦が、『溶岩の雨』である。ビズポリスに建設された防護壁は空爆で破壊するには精密射撃で同一個所に少なくとも1000発の榴弾を命中させる必要がある。航空ドローン1機が一度に搭載できる弾数は20発。これを補給するのに必要な時間は6時間であり、連続波状攻撃を行うにしてもビズポリス側の防壁修復による妨害を一切行わせずに攻撃を続けるには無理があった。このため、ユピタAIが考案したのが、榴弾を形成せずに溶岩状態の原料を溶解液状態で降り注がせる戦法である。これでは砲身が熱に耐えられないし、砲塔内に残った溶岩が弾の発射を阻害するので溶岩攻撃以外できなくなってしまう。短期間に成果を出すため、航空兵力の1/5に相当する10000機を溶岩攻撃に充当したのであった。
さて、第1次攻撃の開始である。溶岩攻撃のために、すでに弾倉に入っていた弾を溶鉱炉に逆流させつつ、ビズポリスに接近。この攻撃においては位置エネルギーが不要なため、低高度爆撃が計画された。したがって、攻撃位置の精度も格段に高くなり、かつ、地上部隊との連携も高いレベルで期待される中、最初の溶岩落下攻撃が行われた。10000機のドローンによる波状溶岩雨攻撃に加え、地上からの砲撃が行われる。熱により強度が低下した防護壁は当初の強度を維持することができず、1回の攻撃により10%近くの損壊を与えられてしまうのであった。ただし、ユピタAIは1回の攻撃で25~30%の損耗を与えることを想定していたため、攻撃が成功したか否かの観点では、『否』に近い戦果と言えよう。
ビズポリス側でも、溶岩状液体を降らせる攻撃は起きうることは想定していたため、耐熱性能も考慮した防護壁を構築していたことを奏功し、ユピタAIの想定を大きく下回る戦果しか得られなかったのだった。
「指令。ユピタ軍の弾原料補給地点の複数割り出しに成功しました。直ちに鹵獲部隊を向かわせます。計画通り、航空ドローンの鹵獲を優先させます。」
ユピタ軍の航空ドローンは機体前後左右に2基ずつ、計8基のジェットエンジンを搭載している。エンジンの噴射方向が可変であり、垂直離着陸が可能である。言い換えると、着陸しているとき、ジェットエンジンの吸気口は『上』を向いている。これが、整備された滑走路に着陸できていれば『横』向きだったのだが、侵攻先における不整地に着陸するのだから、垂直着陸の一択であるのは仕方がないだろう。
簡単な問題である。制空権を得るための高軌道型航空兵器が無く、支援用の弾幕を貼れるような機関銃を備えた戦車もなく、池から顔を出した鯉のように吸気口をさらけ出している状態であれば、何が起きるだろうか。ユピタ軍はなぜこんなにも簡単な問いをせず、対策をしなかったのだろうかと言うほどに迂闊である。
「隊長、敵さんですが、食堂でお行儀よく着席しています。食事の邪魔をしてもよろしいでしょうか。」
「お行儀良くしているかもしれないが、無銭飲食だからな。決して食事をさせないように、また二度と食堂に来れないようにしてやれ。」
といった軽い会話が行われていたかどうかはわからないが、ビズポリス軍の個別操縦タイプ飛行ドローンがユピタ軍ドローンのジェットエンジンに対する精密射撃を行っていった。ユピタ側は、3基のジェットエンジンで飛行可能と想定されていたため、5基のジェットエンジンを着実に破壊していくビズポリス軍であった。
次は地上軍への対処である。陸上ドローンはクローラー機動なので、移動力を喪失させるにはベントが行ったようにクローラーのベルトを切り離せれば良い。と言うことで、機動力を削ぐための方策として、榴弾を当て、機体内部への影響を最小限にしつつ駆動部分に損耗を与えるようである。対戦車地雷を予想経路に埋めまくるという案も考えられたのだが、起動方法が4足歩行だったら避けられるんじゃね?というロマンあふれる反対意見が提出され、それがなんと承認されたのだった。そんなわけで、補給地点で動きが鈍った敵部隊を包囲しつつ行動不能に陥らせる作戦がとられることになった。
ビズポリス攻防戦でビズポリスが幸運だったのは、ユピタ軍が攻撃中に対応したのではなく、補給地点における迎撃でかつ組織戦闘だったことで、ユピタAIが囮作戦を展開しなかったことであろう。その分都市は攻撃されてしまってはいるのだが。
ユピタ軍は、ビズポリス軍に対して迎撃隊を編成した。そもそも、100000機もドローンがいたらその半分くらいは攻撃待ちなので、補給地点周囲を哨戒させることにしたのである。
ただ、ただ、である。蒸気砲は射程が短いのだ。防護壁まで1Kmに迫って布陣したということは既に述べた。つまりは、その程度には近づかないと一定の効果を得ることができないのである。一方、ビズポリス側は普通に火薬式の砲弾をふんだんに使うことができる。遠方から一方的に砲撃を加え、哨戒部隊をも次々と行動不能にしていけばよいのである。
航空戦力も、地上戦力も、非常に物々しい感じで侵攻してきたのだが、ルーティン作業のようなビズポリス側の作戦行動によって軍としての行動ができなくなったユピタ軍なのであった。その後、βとノンによって各機吸収され、軍そのものが消滅していくのであった。
遅くなりました。




