17.戦闘開始
ベントは連邦首都のセントユーノに進行してくるユピタ軍に対応することになる。降下中に攻撃を加えることで原子炉を破壊しては危険と言うことで、ユピタ軍の配備が完了するまでしばし待機する。
数時間後、ユピタ軍セントユーノ侵攻軍第一次攻撃隊の配備が終わった。当初の計画は、第一次攻撃隊の弾を打ち尽くさせることにしていたのだが、どうにも動きが遅く、攻撃開始前に十分攻撃できるんじゃね?と思いながらノンと情報を共有する。
何をだらだらやっているのかと思ったら、データリンクが存在しないため、無線で体調気と攻撃の順番やら攻撃目標やらのやり取りを行っているので、色々と時間がかかっているようです。んなもん、降下前に済ませとけよと思ったが、第一波攻撃で損耗ゼロのため想定した攻撃目標地点が十分に防御力を持っていることから、このまま攻撃を開始しても期待効果が得られないと判断しての混乱らしい。それにしても、第一波が失敗することくらい想定しておけよなぁと思いながら、まぁユーノスにとってはいい情報でもあるよね、と思いなおし、積極攻勢に出ることに方針変更。ユーノス首脳部からの許可も得られたことからステルスと光学迷彩を起動し、第一次攻撃隊に迫る。武器は何と超音波振動斬馬刀!
『切って切って切りまくるぜぇ!ヒャッハー!』
と声に出したら聞こえちゃうので折角のステルス機能が無駄になってしまうので、ぐっと我慢して脳内リンクで叫び、しずしずと接近。陸上ドローンのクローラーに切りつけ動きを封じていく。敵方形布陣に対し、外縁を行動不能にする包囲殲滅戦法を採用。また、砲塔はひずみを与えるようにしてたたき切ることにして、発射機能を封印していく。戦闘服の機能を最大限活用し手の届く範囲からどんどん切り裂いていく。
ユピタ側は混雑による機動力の減少を避けるため、当初計画は機体間の間隔を10m以上空けるようにして布陣していたが、先の事情の通り防御力の高い都市への攻撃となると突貫力が足りないという問題が生じた。このため、弾幕の突貫力を上げるべく、配置を調整すべく、密集陣形に配置換えを行っていた最中であり、そこに突然見えない敵からの攻撃により行動不能となる機体が続出した。
ユピタ側AIもなかなか優秀で、攻撃者が存外小さいこと、近接戦闘により行動・攻撃力を削いでいることを即座に認識し、対応を検討する。地上部隊では僚機が障害となり狙撃的攻撃も含めて攻撃を当てることが極めて困難であると判断した。航空兵力を用いて上空からの狙撃を敢行する。
ここにベントとノンの誤算が露呈する。ベントとノンはフレンドリーファイヤーにより、原子炉の破壊とそれに伴う環境破壊は許容されないものと考えていた。そりゃそうだ。侵略戦争で植民地化しようとしている土地が放射能と放射線で焼き尽くされて草の一本も生えない焼け野原になってしまったら侵略そのものに意味が無いと考えるのが合理的である。やけっぱちになった逆切れシステムの不合理性を見出せなかったところが、ノンが優秀すぎたと考えるか、多面的に物事を想定できていなかったというべきか。
ともあれ、見えない敵に対する絨毯爆撃が始まることをノンから告げられた。
『まじか。本当にめちゃくちゃな戦略だな。』
『はい。はっきり言って考えが短絡的過ぎて、逆に考えの先を読むことができません。』
『まぁ、それならば逆にやりようがあるね。ステルスと光学迷彩を解くから、奴らの交信に介入して攻撃対象を確認できること、位置の二つを教えてあげて。陸上攻撃隊から一旦離れるぞ。』
『了解しました。交信に介入し、正体不明の敵機のステルスが解かれたことを伝えました。ご武運を。』
ベントの次なる計画は、それこそ、航空戦力の弾切れを狙ったものである。地上部隊は航空部隊が去った後にゆっくりと行動不能にしていくことにしていた。
が、ここで、再度の誤算が生まれる。
なんと、攻撃目標を地上部隊に固定したまま、行動不能=今後の戦力とならない機体への攻撃を敢行しようとしていたのだ。ユピタAIはベントの攻撃パタンから原子炉を傷つけずにドローンを行動不能に陥らせようとしていることに気づいてしまったのだ。原子炉を破壊しようとすれば、自分からドローンを守るために隊の中に戻ってくると予想したのだ。僚機を囮に使うが、もし囮に使えなかったとしても放射能をばらまけばそれなりにセントユーノに対して打撃を与えられるとも判断した。
『ベント様。ユピタ軍、攻撃目標を行動不能の僚機としているようです。併せて、ベント様への照準も変えておりません。物量でベント様を攻撃しつつ僚機を囮に使う作戦のようです。』
『こんなに早くプランBを出すことになるとは。。。一周回って優秀だな。気化爆弾を準備するぞ』
『了解しました。セントユーノ軍のAIとの連動許可確立。リンク確立しました。帰化爆弾による迎撃弾幕形成開始します。』
それは、モンロー効果を利用した気化爆弾による圧縮空気膜を形成し、効果榴弾を弾き飛ばすという何とも壮大な対策なのであった。
誤爆でユピタ軍に榴弾が落ちる場合を想定して対策していたのだが、『思ったより攻撃精度が低かったときを考えておくべきじゃね?』と言うベントの石橋をたたいて壊すような発言に、ノンがさもありなんと、αのU粒子動力炉をフル稼働させて大急ぎで製造して、1000発の気化爆弾を準備することに成功していた。弾幕とは言ったものの、虎の子の1000発である。ノンの計算能力をフル活用して最も少ない弾数で最大効果を得られる弾幕形成プランをセントユーノ軍のAIと共有し、計画に沿って迎撃を開始するのであった。
弾幕形成と併せて、ベントはαの子機を大急ぎで呼び寄せて、ユピタドローンの原子炉無害化処理を開始する。プランCの発動である。
『これ、感応波の出力をものすごく上げなきゃならないから、動けなくなるんだよなぁ。敵の真ん中で動けなくなるって、我ながら鬼畜な作戦だよなぁ。』
本来、敵の無害化は補給地点でゆっくりと行う予定であったのだが、交戦地点で実施する必要性が生じたときのプランが、いわゆるCである。
『まずは手近の2機を無害化し、形状変換金属化処理を施しましょう。その後、2機を合体させて重装甲陸上迎撃車βとしてその後はどんどん取り込んでいきましょう。βの操縦は私が担当しますので、ベント様は感応波を出し続けてください。』
『はぁ。やっぱりそうなるよなぁ。せめてβは自分の趣味に全振りして格好いいのにするぞ!』
『まぁその辺はお好きになさってください。』
『なんか、どんどん冷たくなってない?』




