16.我らの有能っぷりをとくと味わうが良い
「ベント様。交渉は尊大に進めるようにしてくださいね。なにしろ、ベント様の年齢は515歳なのですから。」
「えぇ、でもさ、そのうち500年間は寝てただけだよ?経験値としては15歳だよ?尊大になんてなれないよ。」
「あなた!交渉の基本はハッタリからの優越的地位の確保ですわよ。交渉前からそのように弱腰では足元を見られてしまい、逆に優越性を奪われてしまいますわよ。アークと言いますか、センガキの代表者であることの自覚を持ってくださいまし!」
「えぇ。。。どしたの?その口調。しかも『あなた』って何があったのさ?」
「ベント様。サーシャ様を見習うべきですよ。交渉前から役作りをしていかに自分たちが優位的立場にいるのかを心底から演じようとしているサーシャ様こそ真のネゴシエーターです。冗談抜きで、気持ちを切り替えて交渉に臨むためのマインドセットを行ってください。」
ベントとしては、ノンのリアルタイムサポートがあるはずだからどうにかなると思っていたのだが、サーシャの意識の高さとノンの厳しさに、自分が甘すぎたか?と悩みつつ気持ちを切り替えねばなぁと反省した。加えて、実は一目ぼれしてしまっているサーシャから『あなた』と呼んでもらえたことに密かに気持ちが上がりまくっているのは事実で、これ以上サーシャに幻滅されないようにしなきゃなと、気持ちの切り替えもしっかりと行うのであった。
三人でシナリオを考えていたところで、弾が降り始めてきた。ユーノスの迎撃作戦は特に問題もなく成功するだろうとの見立てではあったが、万が一はある。どうにもまずい状況に陥りそうであれば躊躇なく介入しようと思って、準備は万全である。
初撃の初弾が大気圏に突入してきた。予想通り、アブレーションを最低限防ぐ目的であろうと思われるが、弾速は11km/s、突入角度も最浅角度でいわゆる「のんびり」とした大気圏突入が行われた。αの機動能力であれば即排除可能だと思いながら様子を眺めていると、地上から迎撃ミサイルが飛翔してきて、弾頭の軌道をずらすために近接爆裂を生じさせた。もともと浅い角度での大気圏突入を計画していたことから、弾頭はいとも簡単に大気圏突入軌道を外れ、宇宙空間に弾き出された。
「ふむ。ノンの予想通りに進みそうだね。あと5発ほど様子を見て、問題なさそうならユーノス連邦との回線を開こう。」
1時間後。ユーノス連邦にて。
「議長。ユピタの初撃は概ね予測通りであり、順調に排除できております。」
「うむ。よくやってくれているな。引き続き頼む。」
「承知いたしました。ところで、第5惑星の住民と名乗る者たちが交信を希望してきております。いかがいたしましょうか?」
「第5惑星だと?ユピタの調査のために飛ばした探査衛星の情報では確か知的生命体の存在が確認できるというものだったな?ただし、星間航行はおろか、衛星軌道に物体を打ち上げることができるような設備もない衛星都市群がこじんまりとしている星ではなかったか?そのような星からどのようにして交信してきたというのだ?」
「まずは、現状を報告いたします。第5惑星の住民は、名前をベントとサーシャと名乗る男女2名で、ユーノス大気圏内の地上から400Kmにおいて周回軌道を描いているとのことです。レーダーで捕捉できていなかったため、その旨を通知したところ、ステルス及び光学迷彩を解除して確かに彼らの申告する地点に飛翔物体が存在することを確認いたしました。映像はこちらです。」
そういって星防省の担当官僚はαの写真を議長に見せるのだった。この時のαはベントがあまり目立たないようにしようと考えていたため、各種の安定板も備えずに、また、砲門も隠ぺいしていて、単なる飛翔実験体としか見えないようなのっぺりとした弾頭形状であった。エンジンノズルなども見えないようにしていたため、と言うか、ベントが必要性を感じなかったので、ノズルなどの推進装置を顕現する指示を与えていなかったため、ユーノスの常識とはかなりかけ離れた姿を披露することになってしまっていたことは後日2人が知ることになる、珍しいノンのミスであったりした。
第5惑星からの来訪者で、常識離れした外観にステルス機能。これらの情報から察することができるのは、来訪者とやらの技術力がユーノスのそれを遥かに凌駕しているという事実であることに思い至ることができる連邦政府議長はやはり優秀なのだろう。ここで、無理に権力の誇示や維持に固執するようであれば、交渉時間の長時間化を招くし、このタイミングで話を持ち掛けてきたということはそれなりにユーノスの置かれた状況を把握してのことだろうという程度にはベントたちの思惑を推察できたし、と言うことで、まずは無線による一時接触を試みることを決断したのであった。
「第5惑星、アークからの使者殿、お名前をベント殿とアーシャ嬢と伺っている。当方、ユーノス連邦議会議長のヨハンソンと申す。交信申請をありがたく拝受するものである。」
「ヨハンソン議長、交信の申し入れを受諾していただき、感謝申し上げます。当方、50年前に第5惑星に入植しました。我々はそもそも、500年前に銀河系のテラ星系と言う星域を播種船に乗り込んで新天地を目指した者です。50年前に知的生命体の存在しない第5惑星を改造し、入植しました。アークという名前はテラ星系のテイストに基づき名付けましたが、ユーノスの皆様に他の呼び名がおありでしたらそちらに修正することにやぶさかではありません。」
「丁寧な説明に感謝する。にわかには信じがたいことではあるが、貴殿の搭乗機の先進性と、状況の信ぴょう性から貴殿の説明を否定する材料が無いと考えている。また、第5惑星の所有権を主張するつもりもないので、アークと言う名前で今後我々も呼ばせて頂こうと思っている。それで、だ。当方の状況を貴殿達は把握していると思うのだが、このタイミングで交信を求めてきた理由について伺いたい。」
「話が早く助かります。交信目的は大きく三つあります。まず、ユピタの侵攻対策について懸念事項を共有させて頂きたい。次に、当該懸念事項を払拭するために我々が協力できることをお伝えしたい。最後に、ユーノスとアーク星人との友好関係を築かせて頂きたい。ということです。」
侵攻を受けている国家に対して援助するから友好関係を築こうぜ、とはどうにも詐欺師の手口ではあるが、数時間に及ぶ会談によりベントと言うか、センガキが望む落としどころについては意図を伝えることができたようである。ちなみに、この時の交渉において、ベントたちはバッテラではなくセンガキの住民であり、完全に独立した関係であることも伝えていた。
「ベント殿。貴殿の望みは概ね理解した。具体的に許諾するか否かについては今後のユピタ侵攻軍への対応如何で決定することとしたい。」
あまり細かいやり取りが書かれても読者諸氏についてはつまらないと思われるので、交渉の細部は端折る。結果として話し合いはうまい具合に進み、第二次攻撃の詳細について、ユーノスの想定が概ねあっていたことを共有し、ドローンへの対策方法について協議することができたのだった。
ユピタのドローン侵攻兵器だが、核分裂タイプの原子炉を持つことは既に述べた。長時間の戦闘を可能にするために、土や石を体内に取り込み、溶鉱炉を用いて榴弾を生成して半永久的に弾を補充するものである。弾の発射は圧縮蒸気を用いるので、威力はそれなりで、集束弾タイプも用意されていて、建物の破壊以外に生命を刈り取ろうとする意図の武装ともなっている。また、飛行タイプに至っては40Km上空からの落下弾攻撃を仕掛ける。初速340m/sで打ち下ろした榴弾は地上到達時には1100m/sに到達し0.5TNTトンの威力を持つに至る。
ユーノスにとって頭を悩ませるのは、ドローンを原子炉ごと破壊してしまうと放射能がばらまかれてしまうことである。したがって、基本的には鹵獲する方針で検討を進めていた。ただし、重兵器としての地上走行ドローン、機動兵器としての飛行ドローンのいずれにしても損害を与えずに行動不能に陥らせ、原子炉を保護したまま鹵獲するというのはかなり難易度の高い作戦であることは間違いがなかった。
ただし、ドローン側も弱点が無いわけではない。一度弾を放出しつくしてしまうと弾生成のために一定時間の攻撃の空白が生じる。これは、地上部隊、飛行部隊いずれも同じことが言える。さらに、爆薬を使わない攻撃方法なので、建物を固くすればそれなりに有効な盾足りえるわけだ。初撃において建物を完全な状態で保持できたことはユーノスの防衛作戦実行において成否を分ける重要な因子であった。攻撃を受けるエリアにおいて、住民は建物内にとどまっていれば生命の保証は問題ない。弾の補充を行っているところを行動不能に陥らせる機動部隊を派遣して、味方の損害を出すことなく敵の勢力を徐々に削いでいくことがユーノス側の作戦の骨子であった。長期の作戦行動を前提とした兵装であったことも、ユーノスにとって有利な条件ではあった。が、ここでもしも爆薬を使った破壊力の高い兵装を持ち込んだとしても、定常的な補給が難しい今回の戦いにおいては早々に戦闘能力を喪失しただろう。そうなると、戦闘はできないので捕まらないようにするためにただただその辺を走り回ることだけの無様をさらすことになっていたかもしれない。
さらに、ベントとαが合流することにより、作戦の自由度が向上する。地上部隊に関しては戦闘服タイプの子機を装備したベントが、弾の補充を行っているドローンに襲い掛かり行動力、弾の生成能力を削ぐことになった。飛行部隊は弾を落とそうとしている機体についてはαが形状変形して鹵獲し、地上にいる飛行部隊に関しては、ユーノスの鹵獲部隊が飛行能力を削ぐこととした。全ドローンの行動力を削いだところで、原子炉とそのエネルギーはU粒子による元素変換で放射能を通常物質レベルに低下させる。この時、一部はαの『肉体』として美味しくいただくことについてもユーノスとベントの同意が得られていたのはちゃっかりしたところであろうか。
サーシャは人質と言うか担保と言うか、ベントやαと言うよりもノンが暴走しないための重要な役割と言うことで連邦議会にて手厚く保護してもらうことも決まった。この時、ベントは獣型ドローンをつけることを強く望んだが、サーシャから『こんなごつい護衛がいたら人質になりませんことよ。』と言われてしまった。それにしても、このキャラ付けってどうなのよと悩んでいるベントもいるが、まぁそれはそれとして放っておいていい話でもある。ともあれ、ロマンの戦闘服タイプ子機改め、下着タイプ子機の登場である。U粒子により線維化した金属によって編まれたタイツ様の全身服である。サーシャは感応波を出せないので、形状変形機能を利用できないため、全身防衛機能に特化した服が用意されたのだった。余談ながら貞操帯としても有能らしい。それと、インカムの着用についてはユーノス側の承諾を得ることが叶い、情報の常時共有体制も整った次第である。
連邦議会会議室にて。
「そろそろ第二次攻撃隊が降下してくる頃合いか。初撃の損害はどの程度だったか、報告を頼む。」
ヨハンソンは星防省の官僚に尋ねる。
「はい。3発のうち漏らしが発生してしまったもののいずれも軌道をそらすことはできたため、海上に落下したため、都市及び人命における被害はゼロでした。ただし、海上に落下した弾の影響で津波が発生し、ちょっとした洪水レベルの損害は出ましたが、住民への周知は進めておきましたので、みなシェルターに避難していたことから人的被害の報告は今のところ挙がっておりません。想定内の範囲での被害発生状況です。
さらに、大型の輸送船がコンテナを曳航して我々の宙域を目指している点につきましても想定内の状況です。」
「承知した。確認に感謝する。では第二次攻撃の迎撃作戦を開始する。」
ベントはヨハンソンとの協議において、迎撃作戦への協力参加を認められた。兵種は単独先行型の斥候タイプが妥当と言うことで、当初の予定とは異なり、攻撃の第一波からドローン部隊内に潜入して敵情を報告しつつ削れるところは削っていくことを求められた。実際のところ陸上攻撃型ドローンの大きさ大型の陸上輸送機器程度の大きさがあることから、動きの俊敏さは望めない。そこで、機動装置を順次破壊していくという戦法は、ベントの運動能力を鑑みるに、十分実現可能なのであった。
ちなみに、ユピタドローンのAIは独立型であり、データリンクが存在しないのであった。データリンクからのハッキングを恐れたものと考えられるとはノンの分析である。このため、データリンクを焼き切って『洗脳』するという方法はとることができない。また、個々のAIを個別撃破で破壊することはどうかと言うベントの問いに対して、動力に原子炉を使っているので、システムの異常がどのようなエラーを引き起こすのか予想ができないことを理由に、今回の作戦では却下されたのであった。
そんな訳で、何となくこじつけ感のある作戦詳細とはなったが今回の作戦においてはベント君が活発に動くことを期待されることとなっているのであった。
「では、ユピタの諸君、我らの有能っぷりを解くと味わうが良い。」
「どこに向かっていったんですか?」
「ぬ、何となく行ってみた。」
「あなた、ご病気をこじらせていらっしゃいますわよ。」
「サーシャ、ブーメランって知っているかい?」
ストック尽きました。週末アップできるように頑張ります




