13.ユピタ
また過去の話。10年前のこと。
星王執務室にて。
「陛下、ユーノスへの攻撃プランが整いました。」
軍務卿のハニバが星王に奏上する。
「うむ。説明せよ。」
「は。
まず、星間輸送船ですがドローン5000体を輸送可能な船を20隻準備し、衛星軌道上にて待機させています。ドローンは宇宙ステーション経由で逐次乗船させています。全ドローンの乗船完了まで480時間を要します。
次に、初撃部隊としてのレールガン砲列隊ですが、1000mm口径レールガンを5機配備しております。現在発射可能な弾数は50発で発射間隔は1時間です。一見弾数が少なく発射間隔も長いように思えるかもしれませんが、概ね10分に1発の頻度で10メガトンTNTに相当する爆撃が行われる状態です。レールガン1発の威力は、現在我が星で所有している戦略級爆弾の30倍ほどの威力を有する計算となりますので、戦略的な威力は十分にあるいうよりも、ユーノスの主要軍事施設を破壊することは十分に可能であると判断しております。
レールガンによる超遠距離攻撃を行った後、輸送船団を発進させます。レールガンの到達時間は70時間です。輸送船団の航程は76時間を予定しています。レールガンによる爆撃の直後に輸送船がドローンを降下させる波状攻撃を採用いたしたくご認可を頂けますでしょうか。」
「攻撃はレールガンによる爆撃とドローン100000体による強襲だけか?星の制圧としては戦力が足りないのではないか?」
「恐れながら申し上げます。今回の作戦は殲滅戦ではありません。ユーノスの軍事機能をまずは刈り取り、反攻能力がなくなったところで政治機能を停止させるという二段作戦です。軍事・政治拠点を効率的に攻めることができれば星の統治機能を奪取できると考えています。」
「成功ベースで事が進めばハニバの言うとおりになることは判る。しかし、戦闘、戦場は予期しない事態が常に起きうると聞く。例えばユーノスの星裏の情報は十分に把握できていないのではないか?星裏への攻撃プランが有効でなかった場合にどのようにバックアップするのかを聞かせてくれぬか?」
「星裏への強行偵察は過去1年間に3回実施しております。そこで得られた衛星写真から大した軍事拠点は存在していないことを確認しています。ユーノスの腰抜けどもは、我が星に相対している方面に拠点を集中させており、裏から攻められることなど全く考えていないのです。従いまして、星裏からの反攻は考慮するに値しません。」
この場合、星王の有能さをユーノスは呪うべきだろうか。ハニバ軍務卿の突撃計画はあまりにもご都合主義に偏っていると星王は判断した。また、軍務卿のプランに参謀本部は一体何をやっていたのかと、近衛を使って調査させたところ、星王の指摘に近い議論が出されたものの、強行偵察衛星3機を失い、膨大な予算を浪費したにもかかわらず中途半端な戦果しか得られそうにない中で、そろそろ成果を出さないと首が危ないと焦った軍務卿が失うものはドローンだけだとして、無理矢理に押し切ったことが判明した。
さらに、レールガンの砲身が10発の放出に耐えられる可能性は25%程度で、耐えられたとしても砲身の歪みによる射出方向の狂いが計算とは異なる地点に着弾する可能性は100%であることも報告された。
星王は今回の準備状況では成功確率が低すぎることを理由に、実行を却下したものの、計画の骨子としては有用性が高く、ち密な準備を行えば成功確率も上がると考え、ハニバの更迭を行わず、引き続き準備させることにした。このあたり、傍若無人な星の王様なのだが、なかなかの人心掌握術である。
ハニバは、ここで首を切られなかったこと、自分の計画の有用性を認めつつその不十分なところを指摘していただいたことをこれ以上ないほどに感謝するのであり、この計画の実現性向上についてより以上に精力的に検討を進めるのであった。星王としては、すでにここまで予算をつぎ込んでしまったので引っ込みがつかなくなっているという事情もあるが、やる気になっている者に任せた方が結果も良いだろうと考えての継続人事ではあった。
さて、10年後である。ベントとノンの監視が開始される1か月前である。
「陛下、ユーノス侵攻作戦の準備が整いましてございます。状況をご説明させて頂いてもよろしいでしょうか。」
「おぉハニバ。なかなか大変な準備だったようではないか。聞かせてもらおう。」
「は。
戦術は以前申し上げた通りなのですが、物量の投入量を大幅に増大させました。
初撃としてレールガンによる遠距離爆撃を行います。ユピタ衛星軌道上に衛星レールガンを20機配置しましたが、砲門はそれぞれ5門設置しました。各砲門からの発射弾数を5発といたしました。計500発の10メガトンTNTに相当する砲弾がユーノスに降り注ぐことになります。
次に星間輸送船ですが、ドローン5000体を輸送可能なものを40隻製造しました。
また、ドローン10000体搭載可能なキャリーを40基製造しました。キャリーは輸送船にて曳航できることにしています。キャリーは大気圏突入機能を持たせましたので、使い捨てではありますが、ドローンの降下速度が格段に向上します。輸送船は各ドローンの降下ポッドを放出したのちに、本星に帰還して、次のドローンを搭載し、逐次輸送できるようにしました。予備ドローンは400000体製造済です。いわゆる戦力の逐次投入というよりは予備選力を確保している状態と言える程度の配備状況です。
爆撃目標ですが、年間複数回の強行偵察を行い、星裏に隠蔽された軍事拠点を複数発見することができました。今回の攻撃目標には当然、新たに発見した軍事拠点を含んでおります。
最後に、ユーノスの防衛体制についてです。
我々が強行偵察衛星を飛ばしたことを察知して、奴らも当方に強行偵察衛星を送り込んできています。そのため、宇宙ステーションや輸送船、レールガンの存在は認識されているとわたくしの認識を改めました。
一方で、偵察の結果ですが、ユーノスの宇宙防衛体制は10年前と変わっていないと判断いたします。人工衛星の打ち上げ数は増えておりますが、当方の監視目的の衛星であり、攻撃目的の衛星は一つもありません。従いまして、ユーノスは今回の我々の侵攻に対して無策であると判断いたしました。百歩譲って対策していると考えれば、爆弾の着弾予想地点における建造物の保護です。地下に施設を移設している可能性は否定できませんが現状可能な攻撃方法において、地下深くに穿孔できるものはありませんので波状攻撃による追加ダメージを与えていくことで対応することにいたします。
そのために、レールガンの交換砲門を用意しております。初撃後、速やかに訪問の交換作業を開始し、ドローンによる降下作戦の進捗を確認しつつ、追加攻撃の要否を判断します。」
「相分かった。準備が着実なこと大儀である。今回の計画を実行するとして、最短でいつから攻撃を開始できるのか?」
「ドローン部隊の準備がボトルネックとなり、今から720時間後に行動可能状態に移行できます。許可が得られましたら直ぐにドローン部隊の配備を開始いたします。初撃はレールガンによる射出ですので、弾の進路制御が行えません。弾が、万が一予定軌道と異なる航跡をたどった場合に輸送船が衝突する可能性が否定できないため、レールガンによる初撃が終わってからドローン部隊を派遣することとしております。
弾は発射後70時間でユーノスに降り注ぎ始めます。そこから5000分に及ぶ断続的遠距離攻撃を敢行し、ドローン部隊を発進させます。ドローン部隊は発進後76時間後にユーノス星系に到着し、そこから1時間以内に降下作戦を開始するようにプログラムしております。」
「うむ。わかった。それでは、ユーノス侵攻作戦に対して許可を与える。存分に痛めつけ、搾取できる体制を整えよ。」
「は。許可をいただき、ありがとう存じます。身命を賭してやり遂げる所存でございます。」
ついに、ユピタによるユーノス侵攻作戦が決定されたのであった。
18時にもう一話投稿します




