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11.今後の方針

いきなりだが、アークはこの恒星系における第5惑星である。そして、アークと恒星の間にある一つの惑星軌道上に2つの惑星が存在した。実は、この2つの惑星の気候はテラに近いもので、テラフォーミングすることなくヒトが住める環境であった。事実、4つの惑星には知的生命体が存在しており、彼らはこの恒星をアハウと呼んでいたため、今後この物語でもアハウ恒星系と呼ぶことにする。

アハウ恒星系第3惑星ユピタ、第4惑星ユーノスは双子惑星として周転円を描きながら惑星軌道を公転している。

近親憎悪と言うのか、この双子星の住民は仲が悪い。よくある話?だが、どちらが上位星であるかということの証明のために技術開発競争にしのぎを削っている。単に交通手段としての宇宙開発を行っていればよかったのだが、相手を攻撃する手段も模索し始めており、なかなかの緊張状態にある。

播種船のAIはこのようなややこしい星に300万人もの移住者を降ろしたらそれこそ血で血を洗う争いを引き起こすトリガーとなりかねないために、人が住んでおらず、かつ、簡単に入植できない星を選ぶことをプログラムされていたのであり、この観点において、アハウ恒星系に入植する意味では大正解だったと言える。

さらにちなみにいうと、侵略者がユピタやユーノスを狙わなかったのはアークと比較して強い軍事力を有していることと、人口がそれぞれ数十億人いるということで、植民地支配をするには侵略者側の戦力が心もとないと侵略者のAIが判断したことによる。こういった判断ができるという意味では、生存欲を前面に押し出したAIは設計者の意図を忠実に実行するという意味で高性能だったといえよう。

「・・・というわけで、バッテラの制圧以外に、ユピタかユーノスに移住するという手段もありそうです。なんともご都合主義なことに、ユピタもユーノスも住民はヒト型で、体格もテラ星系の皆様と同じレベルですので、共生は可能です。」

ノンによると、二星は宇宙空間を移動する手段を持っており、衛星軌道に通信衛星などを打ち上げていたので、これら人工衛星から上記のような情報を大雑把に収集できたとのこと。説明を聞いた三人の反応としては、アークにとどまるデメリットの大きさを考えると、ユピタかユーノスに友好的に迎え入れてもらえる可能性を検討したいというものであった。

「まずは二星の詳しい状況を知りたいね。αで向かってみるか?」

「ベント様がそれぞれの星の探索を行うのは時間的に非効率なので、衛星軌道から地上を監視できる宇宙航行用ドローンを作製して派遣した方がいいと思われます。」

「あぁそうだね。じゃぁ子機はこの間作ったのと同じタイプをもう一機作ろう。」

こうして、バッテラ制圧よりも平和的に解決できそうな案を優先することにして、二星の探索が開始されることになった。

「探索ってどのくらいかかるの?」

とサーシャ。

「二星に到達するまでに二週間程度要します。そこからはハッキングによる情報の吸い上げに1日。地上の映像を取得して取りまとめる方が時間がかかりますがこれに1か月程度を見込んでいます。もっとも、全てデータリンクにて共有しますので二週間後から情報が随時入手できるようになる予定です。」

「ふーん。じゃぁさ、今から二週間はとりあえず暇ってことになるのかな?」

「いや、バッテラ対策は進めたい。暫定対策でもいいので、この街の防備を強化したいな。αの技術とノンの情報を導入できるものはできるだけ取り入れさせてほしいと思っているがどうかな?」

「回答から申しますと、時間的な制約により、現実的ではないと判断いたします。現状私とαで作製するドローンは、ベント様の感応波を用いた元素変換で作りだすものですので、基本的にαの子機扱いですし、AIも完全に私にリンクしているものとなります。センガキには20機のテラフォーマーが残っていることは把握いたしましたが、これらに対してαと同様の改造を施すには、感応波を与えるためのマスターパイロットの存在が必要不可欠となります。マスターパイロットについては、ベント様の調整を行ったやり方はお勧めできません。なぜなら、ベント様は冷凍睡眠状態で体の一部を大きく欠損することになり、そこから欠損を回復させてきたという方法を採用いたしましたので、健常者に対して瀕死の重傷を負わせ、そこから欠損部位の回復を行っていくという方法となるからです。また、ベント様は冷凍睡眠状態でしたので、覚醒時であれば間違いなく即死の損傷だったのですが、致死時間を延長することができました。さらに、冷凍睡眠状態でしたので回復速度も非常に緩やかで、結果として50年と言う時間を要しました。」

「それって、ベント君は人間やめちゃってる状態じゃないの?」

「寿命、身体能力、思考能力という意味では大幅にヒトのそれを凌駕していることは否定いたしません。ただし、思考パタン、人格については今回の治療によっても何ら影響を受けていないと保証いたします。」

何となく傷つく物言いをされて、少しだけ落ち込んだベントではあるが、ノンのフォローによって「ちょっと性能が上がった自分」がどのような能力を持っているのかという方面に興味が移り、この話はこれでおしまいとなった。

「αの量産が不可能と言うことならば、αを衛星軌道に上げてバッテラと衛星都市群の監視を行うのがいいかな。アークAIはU粒子の暴走って可能なの?」

「アークAIはU粒子の存在には気づいたようですが、U粒子動力炉は作れておりません。先ほど申し上げたのと同じ理由で、マスターパイロットも現時点では不在ですからU粒子の暴走によるデータリンク破壊攻撃は現時点では行えないと考えてよいです。そもそも、外敵に対して友好的に接しましょうというお花畑なAIですので、αを衛星軌道に打ち上げて衛星都市群を監視したところで、何も対抗手段を講ずることはできない状態ですね。」

「なるほど。可能性がある攻撃としては、バッテラの政策と言うか、アークAIの考えに賛同できない異端者に対する異常な攻撃性に基づくもの、と言うことだね。であれば監視しているだけならばそれがきっかけになって攻撃を受けることにはならなそうだね。」

アークAIの極端な反戦闘思考のおかげで、武装兵力がゼロに近い状態が維持されていることがセンガキの存在を予想しながらも制圧に出てこなかったし、その状態は今後もしばらくは維持されそうではあった。

一方で、ベントの活動によって武装兵力の脅威を目の当たりにしたバッテラ市民が今後アークAIに対してどのように働きかけ、武装化を行っていくのかという点は警戒が必要であった。

「なにしろ、インプラントを勝手に埋め込んで傀儡化することに対して全く忌避感を持っていないAIです。先ほど私は非現実的ですと申したマスターパイロットへの人体改造を料理のレシピ開発を行う程度の気安さで実験する可能性はかなり高いです。450万人もいれば100万人に一人くらいは調整に成功するかも、などと言ってもおかしくない異常性を持っていますから。」

結局のところ、アークAIの暴走は予期されるものとして考えることとして、監視の目はしっかり光らせておくことになった。


18時に次話投稿予定です!応援していただけましたらうれしいです。

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