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新入部員4

 音楽室では、パート別の練習が始まっていた。


 先に入部していた一年生の女子たちは、それぞれのパートに分かれて、楽器の鳴らし方を先輩に習っている。


 フルートの吹き口を持ったこずえちゃんが手を振ってきたので、祢子もにっこりして振り返した。



 フルートかクラリネットがよかったなあ。



 後ろから、男子の声がした。 

「一年生の毛野さん? だっけ?」



「あ、はい!」

 あわてて振り返ると、先輩らしい男子生徒が立っていた。



 ひょろっと細くて、どこか、中性的だ。

 坊主頭が、その感じを一層強めている。



「ぼくは、二年生の中岡。トランペットのセカンド。あ、ファーストは三年生の有川先輩ね。

……じゃあ、ちょっと練習を始めようか。

あ、トランペットはそこに置いて。マウスピースだけ持ってきて。

……マウスピースってのは、その、吹き口のこと」



 祢子は、マウスピースなるものを持って、中岡先輩の後に続いた。

 中岡先輩は、ふらふらと頼りなげに歩く。 


 空いた練習場所を探しているらしい。

 中岡先輩は、困ったようにあちこち見回している。



 音楽室の入った木造校舎と、主な教室が詰まった鉄筋コンクリート校舎の間に、渡り廊下がある。

 そのわきに、小さな池があった。

 池のほとりで、先輩は立ち止まった。



 祢子は、先輩の後ろからちょっと池をのぞいてみた。

 魚はいないようだ。

 薄暗い石の囲いの周りには、トクサやツワブキなどが茂っている。



 ほかのパートの音が遠い。

 祢子は緊張してきた。



「はい、まず、マウスピースで練習ね」



 中岡先輩が、祢子の手元を指さした。

 祢子は、持っていたマウスピースを中途半端に持ちあげ、先輩を見た。


 これを、どうするのだろう?



 中岡先輩は、自分のマウスピースを口に当てると、いきなり「ブーーー」と高い音を出した。


「はい、やってみて」



 祢子は、驚いた。

 改めてマウスピースを見直すと、銀色の厚みのある、小さいじょうごのような形をしている。

 あちこち凹んで、傷だらけだ。



 これを口に当てて、声を出すのだろうか?



「違う違う。……えーと。どう説明したらいいのかなあ。うーん」


 中岡先輩はちょっと考えて、右手の人差し指と中指で、自分の唇を押さえた。


「この指が、マウスピースの縁だと思って」

「はい」



 先輩の唇が、ブーーー、と細かく振動した。

「こんな風に、唇を震わせて音を出すんだ」



 祢子は、固まった。


 えっ、こんなことしなきゃならないの?

 男の先輩に、こんなところを見せなきゃならないの?




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