岡田への手紙5-3
表では、献身的な女中。
裏では。
おれの母親であり、同時に、おれの妻だった。
世間の許さない、不道徳で爛れた、みっともない関係。
だが、おれはその温かく腐った泥沼に守られて成長したんだ。
おれがどこか歪んだ人間になったとしても、しかたないだろう?
お前には、申し訳ないことをしたのだろう。
お前が、あんなにショックを受けるなんて思わなかったんだ。
おれとしては、お前がみすみす悪い女にひっかかるのを見過ごすわけにはいかなかっただけなんだ。
あの女は、おれの誘いに、嬉しそうに乗ってきたよ。
「あんたの方がいい。……あの、馬鹿正直で、おもしろくもなんともない、とんまよりも」
確かに、そう言った。
女郎蜘蛛のように、おれにまたがり、おれを喰らっていったよ。
本能のまま。
おそろしいケダモノだった。
だから、お前には謝らない。
お前が、先々もっと傷つくことをわかっていて、ほっとけるはずがない。
なにがお前を絶望させたか、わかってはいるけれど。
それは、誤解だ。
もっと時間をかけてよく考えたら、わかってくれただろう。
魔女が死んだら。
おれは、どうしたらいいんだろうな。
子ネコちゃんを、どうにかして、手に入れるかな。
魔女が望んだように。
しかし、魔女は勘違いしているんじゃないかな。
子ネコちゃんが、魔女の後釜にふさわしい、良妻賢母風の女になるとは、おれにはとても思えないんだ。
惹かれている。どうしようもなく。
しかし、それと、一緒に生活するっていう事は、別次元のことじゃないかな。
お前と同じ轍は踏まない。
一緒に暮らすのなら。
内臓の全てで、おれを欲して、大切に思ってくれる女と。
そのとぐろの内に、安らぎを与えてくれるような女と。
傑
衛藤は、ペンを置いた。
手紙を丁寧に折りたたむと、机の引き出しを開けた。
そこには、今まで岡田に書いた手紙がたまっていた。
岡田は、大学三年の夏、失踪した。
恋に破れ、失意のあまり、青木ヶ原の樹海に入ったという噂だった。
樹海の中で。
雨風に曝されて真っ白に、もろくなった骨。
草や木の芽が無造作に貫き、虫が這い、獣が踏みつけていく。
だれにも悼まれることなく、大地に戻っていく、岡田の身体。
岡田の肉も悩みも、忘却の彼方に溶け流れていく。
ああ、いいなあ。
でもおれは、もう少し、この世を汚らしく這いずってみるよ。
この暗がりの先を、もう少し見てみたいから。
衛藤は、手紙を放り込んで、引き出しを閉めた。




