岡田への手紙5-1
聞いてくれ。
魔女が、死にそうなんだ。
ずっとおれに呪いをかけてきた魔女が、不治の病なんだ。
余命は半年もないそうだ。
おれは嬉しいんだろうか。
嬉しいはずなんだ。自由になるんだから。
あの、どこまでもおれを追ってくる視線、おれを放すまいとしつこく絡みつく腕から解放されるんだ。
だが、どういうわけだろう。
体の中のがらんどうを冷たい風が吹き抜けて、寒くて寒くて仕方ないんだ。
痩せさらばえて、腹が膨れているのに骨格が浮き出てるんだ。
目だけは炯炯として、まだおれの心配をしているんだよ。
やめてくれ。自分の心配をしろよ。おれはもう、いい大人なんだから。
自分がいなくなった後、おれの世話をする女を確認するまでは、死ぬに死ねないと言うんだよ。
そんなだから、ぎりぎりまで医者にかからなくて、もう末期だったんだ。
家事は女中に頼むから、なんとかなると言っても、納得しない。
「このごろの女中はなっていません。心をこめて仕事をするということが理解できないのですよ。
裏でさぼっているに違いません。
坊ちゃんのことを心から思いやって、温かい食事と温かい言葉を提供する人間じゃないと、わたしの後は任せられません」
「はやくあの子が大人になれば……。
そうだ、今、ここに連れてきたら、わたしが家事一切を丁寧に仕込みます。
そして、あの子が十六歳になったらすぐに結婚したらいいんです」
熱に浮かされたように、勝手に決めつけるんだ。
そんな、十六歳なんて、まだ高校生だ。
今どき高校にも行かせず、家のことをさせるなんて、時代錯誤もいいところだろう?
だいたい、しっかりした保護者がいるのに、そんなこと許されるものか。
あわれな魔女。
おれのためにだけ生きて、おれの心配をしながら死んでいく。
ああ、子ネコちゃんの方は、心配ないよ。
ロリコン教師のことは、社会科の教師で情報を共有した。
枯井先生にもそれとなく伝えている。
正義感の強い人たちだから、それとなく気を配ってくれるだろう。
今のおれは、変なんだ。
あの子を見ても、前のように心が躍らない。
人間には、二つのタイプがあるんじゃないかな。
頭で考える人間と、内臓で考える人間と。
もちろん、頭寄りの内蔵タイプ、とか、内臓寄りの頭タイプ、とかの、中間タイプも考えられる。
おれは、頭寄りの内蔵タイプだな。
魔女は、極端な内蔵タイプだ。頭脳まで、内臓に含まれるほどの。
子ネコちゃんは、どうやら、頭タイプだ。
なぜわかるのかって?
見ていれば、わかるさ。
彼女の瞳は、無邪気すぎる。
どろどろした感情を宿すことがない。
宿しかけても、理屈を考えるおもしろさが、ヒーローの如く、さっそうと退治しに来る。
おれのような中途半端な人間には、そんな彼女がまぶしいよ。
黒とも白ともつかぬもやもやを、一刀両断に裁断して。
きれいさっぱり忘却の彼方に流してしまう。
そんな彼女だから、今のおれの救いにはならないのかな。




