新入部員3
柔軟体操が終わると、「じゃあ、ランニングね」と、部長の先輩が走り始めた。
他の先輩たち、その後から一年生も、一列になって続く。
「K~中~、ファイ、ファイ、ファイ、K中、ファイ!」
K中、のところを部長が叫び、ファイ、は他のみんなが叫びながら走る。
掛け声がある方が気が紛れていいのかもしれないが、祢子はよけいに息が切れる。
校庭のトラックを五周した。
これで終わりかと思ったら、まだ続くらしい。
はるか先、先頭が、校門を出ていくのが見えた。
嫌な予感がするが、前の一年生の背中を必死で追いかけるしかない。
坂道の端を、車の邪魔にならないように走り抜け、途中から学校横の斜面を上がっていく。
墓石が並ぶばかりの小山だ。
墓の横の、舗装もない、粘土質の山道を上っていく。
先輩たちは慣れているのだろう、ヤギのように軽々と上っていく。
祢子はもう息が上がって、このまま前のめりに野垂れ死にしそうだ。
一年生でも、体育が得意な一部の生徒は、平気な顔をしている。
祢子を含む、そうでない大多数はぜいぜい言いながら、先輩たちに怒られるのが怖さに、なんとか足を動かしている。
吐く息が血のにおいがする。本当にもう、死んでしまうのかもしれない。
なんとか学校に生還してきた。
驚いたことに、先輩たちはすでにラケットを振り始めていた。
ぼうぜんとそれを眺めながら息を整えていると、
「はい、一年生は球拾い!」
すぐに動き始めたのは、やはり体育が得意な人たちだ。
先輩たちが打ち損ねた、小さい黄色いテニスボールが飛んでくるのを拾わなければならない。
祢子はのろのろと、みんなの後ろについた。
そこならあまり球を拾わずに済むと思ったのだが、跳ねるボールは次々に校庭の隅に転がっていく。
見回しても誰も行こうとしないので、仕方なく祢子が歩いて取りに行っていたら、「そこ! 走って取りに行く!」と先輩に怒られた。
「はい、今日はこれでおしまい!」
テニス部の顧問の先生は、終わり間際に現れた。
よく知らない男の先生だ。二年生の担任だそうだ。
とにかく、助かった。終わった。
体育館脇で、汗に湿った体操服の上から制服を着て、置いていた通学カバンを持って、祢子はよろよろと家に帰った。
すでに、あちこち体が痛かった。
祢子は、二日でテニス部をやめた。
そしてこずえちゃんが誘ってくれたので、吹奏楽部に入ることにしたのだった。