新入部員1
鉄筋コンクリート造りの校舎の北側に、はげかけたピンクの塗装の、古い木造校舎がある。
ぎしぎしと鳴る板の階段を上ると、二階が音楽室だ。
ピアノが置いてあり、ふだんは音楽の授業に使われている。
ここが、放課後になると吹奏楽部の部室になる。
五月半ばの放課後。
ひゃらひゃら、ぴーぷー、カチカチかたたた、パオーン。
音楽室からは、いろんな楽器の音が聞こえている。
毛野祢子は意を決して、古めかしい階段を上がった。
音楽室の開け放した入り口前で立ち止まり、近くにいた背の高い、先輩らしい女子生徒に話しかけた。
「あのう、吹奏楽部に入りたいのですが」
「ちょっと、待ってて」
別の女子の先輩が奥からやって来て、何年何組の誰か、ということなど聞いた。
「本当に、入りたいの?」
「はい」
「もう、楽器があまり残っていないけど……なんでもいい?」
「はい」
仕方ない。出遅れた自分が悪いのだから。
先輩は、ちょっと待って、と背を向けると、他の先輩に話しかけた。
話はすぐに終わったらしい。
「じゃあ、ちょっと、こっちに来て」
祢子を手招きした。
祢子は先輩について、音楽準備室に入った。
窓がなくて、薄暗く埃っぽい中に、楽器や楽器のケースや譜面台などが所狭しと置いてある。
先輩が、ボストンバッグくらいの古い楽器ケースを引っ張り出した。
「それじゃあ、毛野さんは、トランペットね」
先輩は、ケースを持って、音楽室に移った。
ケースの留め金を開けると、ぼこぼこ凹凸のついた、金色だったらしい、錆びかけたトランペットが現れた。
その見た目からして、祢子はがっかりしたが、もちろん顔には出さない。
やっぱり、遅かったか。
「部活動、何にしようかな」
入学式の後そうつぶやいたら、母さんが言った。
「テニス部がいいんじゃない?」
「テニス部?」
祢子は驚いた。
「えー、」
その時は笑ったが、後からだんだん、それもいいかな、と思い始めた。
『エースをねらえ』の岡ひろみだって、入部するまではテニスなんてしたこともなかったのだ。
祢子だって、実はすごい能力を秘めているかもしれない。
コートの中を自由自在に駆け回って、すごい返球をしたりして、みんなを驚かすかもしれないのだ。
しかしそれは、テニスというものをやってみなければわからない。