迷走6
体育館をのぞいてみると、かーこがバレー部で、先輩たちにしごかれていたりする。
枯井先生のヒステリックな怒鳴り声が響く。
まだ吹奏楽部でよかった。あんなにひどく怒鳴られることはないから。
体育館は他の部活も使ったりするので、卓球部が練習していることもある。
八坂君が走ったり、球拾いしたりしている。
見ていると知られたくなくて、卓球部のときは、すぐに体育館から離れる。
他の部活の練習を見ると、祢子も、心を入れ替えてがんばろうとも思う。
だが、練習した後は、唇の真ん中が白くふやけている。時間が経つと、そのうち皮がむけたりする。
新しい皮ができても、柔らかいので、吹くとすぐにふやけて、痛くなる。
一応多感な時期の女子なので、唇が白くふやけているのは落ちこむ。やさぐれた気持ちになる。
体質的にも合わないと思う。
しかしいまさら、トランペットがいやだといったところで、わがまますぎると思われるだけだ。
K中では、全員どこかの部活に入らねばならない。
女子はテニス部、バレー部、陸上部、美術部。吹奏楽部。吹奏楽部以外は、どこも無理だ。
ちなみに男子は野球部と卓球部、陸上部、美術部、吹奏楽部の中から選ばなければならない。
母さんの言う事を聞いて、数日出遅れたばかりに、楽器を選ぶことができなかった。
でも母さんのせいじゃない。
これはまったく、選ぶことを母さんに任せてしまった、祢子のせいなのだった。
大人の言う事におとなしく従って、いいことなんて、本当に全く無い。
それだけは、田貫先生から強烈に学んだはずだったのに。
母さんは誰よりも祢子のことをよく見ているから、つい選択を任せてしまった。
その結果、三年間面白くない思いをするのは、祢子だけなのに。