迷走5
コンクールの結果は、銀賞だった。
金賞が取れなくて、先輩たちは悔しがっていた。
金賞の学校が一つだけでないのに、祢子は驚いた。それに、金賞でなくても銀賞をもらえるのだ。
順位がつけられるわけではないから、そんなに必死にならずとも楽しくできればよいのではないか。
県大会に行くとなったら、また練習の日々が続くのだろうから、祢子はもうこれで十分だった。
三年生の先輩は、引退した。
受験勉強しなければならないそうだ。
有川先輩も、もう来なくなった。
あの音が聞けなくなるのは残念だったが、仕方ない。
有川先輩がいなくなると、トランペットパートはいっそう気まずくなった。
祢子は、中岡先輩と練習したくないのもあって、練習せずに、一年生女子としゃべってばかりいた。
一年生の女子は全部で六人。
分校から入って来た子が三人。分校の子は、話が上手で、それなりに面白い。
一年生の男子は一人だが、話には加わらない。チューバパートで、二年女子の先輩と仲良く練習している。
祢子が不真面目でも、他のパートは二年生がしっかりしているので、おしゃべりでさぼっていたらそのうち注意される。
一人ぼっちになるとは、祢子はぶらぶらと運動場に行ってみる。
たいていは、暑い中、野球部が練習している。
真ん中の方でバットを振ったり、キャッチボールをしたり、摩久呂先生のノックを受けたりしているのは二年生だろう。
一年生は、運動場の端すれすれをランニングしたり、うさぎ跳びしたり、球拾いしたりだ。どこも同じ。
衛藤先生は、一年生と一緒が多い。
トレーニングウエアは似合っているが、運動は得意ではないようだ。
ずいぶん辛そうに走っている。途中で歩き始めたりもしている。球拾いも、投げ方も、下手くそだ。
衛藤先生がぜいぜい走るのを初めて見たのは、コンクールの数日後だった。
びっくりしたが、思わずくすっと笑ってしまった。
こっそり吹奏楽部のコンクールを見に来ていたのだから、こっちがこっそり野球部の練習を見ていてもいいだろうと、祢子は思った。
運動が苦手らしいのには、親近感を覚えた。
大人でも、得意じゃないことをがんばったりするのだ。
それは、新鮮な驚きだった。
実のところ、衛藤はカッコ悪いところをわざと晒して、雑音を減らそうという捨て身の作戦に出ただけだったのだが。
野球部には、そりかわくんもいるはずだが、人数が多くて、どれかわからない。
そりかわくんとは、クラスが違うのもあって、その後話しもしない。
たまに廊下で会っても、坊主頭に気圧されて何と言ったらいいのかわからない。向こうも知らんふりしている。