岡田への手紙1-2
だがな。
そんなおれが、とうとう飛び込んだんだよ。世間の荒波の中に。
後先も考えず、徒手空拳で。
笑ってくれ。
なんと今じゃ、しがない中学校の社会教師さ。
お前に引きずられたようにして取った教職課程が、まさか役に立つなんて、思いもよらなかった。
あとは、持てるだけのコネを利用して、K中学校に潜り込んだ。
旧帝大卒の学歴が役に立ったのは初めてだった。
お前のおかげだ。本当にありがとう。
お前はきっと、この坊ちゃんに、いったいなにが起こったのかと驚いただろう?
おれの人生に、かわいいchatonneが紛れ込んできたんだ。
好奇心で目をきらきらさせて、予測のつかないことをする、一瞬も目を離せないような子だよ。
物怖じしないきれいな目で、おれのことをまっすぐに見るんだ。
言っておくが、おれはハンバート・ハンバート氏じゃない。
信じてくれ。
おれはただ、彼女がどんなふうに成長していくのか、じっと見ていたいだけなんだ。
色づき始めた固いつぼみが、どんな感じにほどかれるのか。
花弁はどんな色、どんな形か。どんな蕊をもつのか。
どのように香るのか。蜜はあるのか。
昼咲くのか。夜、花開いて香るのか。
虫を、惑わせて引き寄せるのか。
それとも、風に嬲られることを好むのか。
光を食べるのか。雨は好きだろうか。