表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/67

迷走6

 体育館をのぞいてみることもある。



 バレー部の練習の時は、かーこが、先輩たちにしごかれていたりする。

 顧問の枯井先生の、ヒステリックな怒鳴り声が響く。



 吹奏楽部でよかった。

 サスケ先生の怒鳴るところなんて、見たことが無い。



 卓球部が練習していることもある。


 八坂君が走ったり、球拾いしたりしている。

 見ていると知られたくなくて、祢子は、すぐに体育館から離れる。 




 他の部活の練習を見ると、祢子も、心を入れ替えてがんばらなければと思うこともある。



 だが、トランペットの練習をした後は、唇の真ん中が白くふやけている。

 そのうち、唇の皮がむけたりする。

 食事のたびに、しみて痛い。

 新しい皮ができても、吹くとすぐにふやけて、痛くなる。



 一応多感な女子なので、唇が白くふやけているのは、非常に気になる。

 体質的にも合わないと思う。



 それに、中岡先輩!


 祢子が神経質になり過ぎているのかもしれないが、一緒にいると、他の先輩から、なんだか変な目で見られているような気がしてしかたがない。


 中岡先輩と。

 そういう目で見られるのは、本当に、我慢ならない。

 

 真面目で、悪い人ではないのはわかっている。

 だが、だからといって、相合傘の中に並べられるのは、想像するのさえもいやだった。


 たとえ、アダムとイブのように、中岡先輩と祢子だけが世界に残されたとしても。

 祢子は、全力で拒むだろう。


 どこが嫌いかと聞かれたら、自分でもはっきりとはわからないけれど。

 強いて言えば、すべてがいやなのだった。




 しかしいまさら、トランペットがいやだといったところで、どうにもならない。

 

 K中では、全員どこかの部活に入らねばならないのだ。


 女子はテニス部、バレー部、陸上部、美術部、吹奏楽部。

 祢子には、吹奏楽部しかなかった。





 母さんの言う事を聞いて、数日出遅れたばかりに、楽器を選ぶことができなかった。


 でも、母さんのせいじゃない。

 それは、祢子にもわかっている。


 これはまったく、選ぶことを母さんに任せてしまった、自分のせいなのだった。




 大人の言う事におとなしく従って、いいことなんて、本当に全く無い。


 それだけは、田貫(たぬき)先生から、強烈に学んだはずだったのに。



 母さんは誰よりも祢子のことをよく見ているから。

 祢子のためをいつも考えてくれているから。


 でも、選ぶのは、祢子自身でなければならなかったのだ。

 三年間面白くない思いをするのは、祢子自身なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ