岡田への手紙2-2
黒板に、地図や文字を書くのにも、やっと慣れてきた。
正直、うまいとはとても言えないが。
チョークを置いて振り返ると、彼女は、おれが板書したものをノートに書き写している。
さらっとしていた髪の毛は、このところ少しクセが強くなって、うねるようにして、くっきりと端正な顔を縁どっている。
きりっとした眉の下に、あんまり似合っていない、赤い縁のメガネをかけて。
そのメガネも、意志の強そうな瞳を隠すことはできない。
彼女の瞳は、ほんとうに光っているんだ。ほんとうだよ。
目が合うと、まぶしくてたまらない。
このところ、衣替えがあった。
紺色のセーラー服から、白くて半袖のセーラー服に変わった。
彼女は、どちらもよく似合う。
頬杖をつくと、日焼けしてきた腕の、内側はまっしろだ。
豊かに跳ねている髪がまとわりつく、白いうなじは、ほっそりとしていたいたしい。
清潔で、妖艶で、触れてはいけないのに、思いきり蹂躙したくなる。
彼女を見ると、生きている喜びが胸に満ちてくる。
こんなことは、初めてだ。
教師の面をかぶった、よこしまな輩もいる。
一年の英語教師。
もう、白髪が混じり始めているくせに。
あいつが彼女を見る目は、獲物を前に、舌なめずりしているようだ。
彼女が目立つのが悪い。
しかし、どうしても彼女に目を引き付けられるのは、しかたがない。
彼女の発する、あふれだす暖かな生気は、夏に向かう日の光のようで。
おれのような、光を必要とする植物っぽい人間には、自然と渇望されてしまうのだろう。
かっさらって、閉じ込めてしまいたい。
地下深く。
そこで、おれだけが彼女に暖められて。
おれだけが、父親のように、兄のように、彼女を慈しんで育てられたら。