岡田への手紙2-1
岡田。
おれは、学校ってのは、学問をするところだと思っていた。
そして、教師というのは、謹厳実直に、生徒に学問を教えるという仕事にまい進するものだと思っていた。
それが、一度足を踏み入れてみると。
カオスだよ、カオス。
勉強を教えるのはもちろんそうなのだが、その他の些事が、どんなに多いことか。
行事がやたらに多くて、その企画だの準備だのに追いまくられる。
その上、部活動に時間を食われる。
だが、教師ってのは、タフなもんだな。
おれ以外の教師は、やたらに丁寧に書類を作ったり、どうでもいいことで長々と会議をしたり、部活動で声を張り上げたり、夜遅くまで残業したりしても、明くる日にはけろりとした顔で出勤してくるんだ。
それに、異性を気にする余裕まであるんだから。
怪物としか思えないよ。
おれは、女難の相でもあるのかな。
枯井、という女の教師がいて、一年生の担任なんだが、それが、なんだかおれに気があるようなんだ。
落ちた物を拾おうとして、ちょっと手が当たっただけで、真っ赤になるんだよ。
体育の教師で、ふだんは生徒たちを大声で怒鳴っている、ゴムまりみたいな女なんだが。
元気で、教師としては尊敬できるよ。
だが、異性として見ろ、と言われても、無理だな。
なのに、周りがそれとなくくっつけようとしてくるんだ。
余計なお世話でしかない。
しかし、むげにもできないわけがある。
というのは、子ネコちゃんの担任なんだよ。枯井先生が。
そしておれは、一年生の副担任なんだ。
子ネコちゃんといえば、まだ警戒しているよ。
おれとは極力目が合わないようにしているらしいが、たまにうさんくさそうな視線を感じる。
他の女生徒は、やたらに近づいてきて、話しかけてきたり、触ろうとしたりするんだが。
彼女だけは、野良猫のように、遠くで毛を逆立てている。
それもまた、かわいい。
かみつかれたって、ひっかかれたって、無理やり抱き寄せて。
その、干し草の上で戯れている子ウサギのような匂いを、胸いっぱいに吸い込みたいんだが。
そんなことは、もちろんしない。
おれが、どんなに彼女を愛おしく思っている無害な男か、わかってくれるまで、遠くから見守るだけだ。