岡田への手紙1ー1
よう。
久しぶりだな。
あれから何年たったかな。
楽しかったなあ。
お前や、他のやつらと。
でも、おれにも、本当にあんな時代があったのだろうか。
無茶をしたり、バカげたことをしたりして、大笑いしていた日々が、まるで他人事のように思えるんだ。
おれは卒業後、何仕事をせずに、ただぶらぶらと毎日を過ごしていた。
なんていうのかな。
自分が背広にネクタイを締めて、毎朝会社に出かけていく姿が、まるっきり想像できなかったんだ。
毎日毎日、決まり切った時間に家を出て、会社で命じられた仕事をして、残業だの接待だのつき合いだのをこなして、寝るために家に帰る。
自分に、そんなことができるとは、全く思えなかった。
お前はきっと言うだろうな。
「お坊ちゃんだからなあ」
あの頃、お前がそう言うたびに、おれは腹を立てていた。
だが、お前の言う通りだった。
おれは、見事にお坊ちゃん育ちだったんだなあ。
金に困ったことは無い。
身の回りのことを自分でする必要もない。
物質的には何不自由なく育ち、生きるすべについて、必死に考えたこともなかった。
毎日は、まあまあ自分の思い通りに過ぎていく。
わざわざ世間の荒波に突っこんでいくのは、おれにとっては酔狂でしかなかった。