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Side 私 4


 

「いい加減、慣れろ」

 

 慣れるか、糞無神経変態悲劇野郎傲慢下衆色欲魔めっ!

 心の中で悪態を付き、少しだけ戻ってきた力で王子を押し返そうとするが、結局は力で負けてしまう。

 

「全く。何もしていないだろう」

 

 これが、何もしていないのカテゴリーに含まれるのか、いや、含まれない。乙女の柔肌を何だと思ってるんだ。

 ベットの上でコロンと転がされ、背中にチリッと痛みを感じる。ぐっと奥歯を噛みしめ目を瞑る。

 

 最初の夜の攻防から、王子が夜に部屋に来たのはこれが3度目だ。初日こそ恐怖ではあったが、この屈辱の僅かな間を我慢すれば、すぐに解放はしてくれている。だけど、これじゃ、毎回何かあったみたいではないか。

 

「はぁ、おまえ、やけに甘ったるいな」

 

 ぞわりと肌が粟立つ。今でこそ完全に無事かと言われるとそうでないと個人的に思っているけれど、これ以上何かされるのは本当に勘弁してほしい。距離を取ろうとすると、逆に捕まえられて仰向けにされる。

 

「1つ忠告をしておくと、逃げられると捕まえたくなる」

 

 それなりに動くようになった手をぶんと振るとなんなく捕まってしまう。

 

「どちらにしろ、今日が最後だ」

 

 確かに私は朝になったら、ここから出て他の場所にもあるらしいあの嫌な泉を巡る旅に行くことになっている。

 だから、ゆっくりと寝かせてほしかった。

 

 思考を他へ逸らせていたら、突然、唇に触られ身を捩らせようとしたが、顔を逸らすことは唇に触れていた手が許してはくれなかった。

 

「どうせおまえには嫌われているから、今更だな」

 

 そう王子が呟き、唇を重ねられた。しかも、ぬるりと口の中に嫌な感触すらする。

 何が起こっているのか理解を拒む。そのうち苦しくなってきた。

 王子がやっと離れた時、顔を思い切りシーツに押し付け、懸命に今の感触を追い出す。

 

「さすがにそこまで嫌がられると、私も傷つくぞ」

 

 王子がため息を吐きながら私に布団をかぶせた。けれど、ベットから離れる気配はない。早く帰れと心の中で叫ぶが通じることもない。

 

「最近おまえをこのまま城に留め置いておこうかと考える」

 

 冗談じゃない。おまえみたいな糞無神経変態悲劇野郎傲慢下衆色欲魔がいるところなんか願い下げだ。どんなにきつかろうと旅に出てあの嫌な泉に肩まで浸かった方がマシだ。

 

「おまえは、多分辛くても旅に出たほうがいいのだろうな」

 

 王子がベルを鳴らす。どうしてこんな状態にしてから人を呼ぶのか。無神経なヤツの考えていることなんて知りたくもない。

 

「無事に、な」

 

 王子がそう言いながら私の頭を撫でたところで、急激に眠気に襲われ、ふつっと意識の糸が切れてしまった。

 

 

 次に目を開くと、すっかりと綺麗に着替えさせられた状態でソファーの上にいた。ここは糞無神経変態悲劇野郎傲慢下衆色欲魔が夜に寝てるところだから正直座りたくもないけれど、皆はそれを知らないので仕方がない。ベットはもっといやだし。

 それも今日までだ。すっかりと旅支度を整え終えたらしいフラウが、目を覚ました私にいつものレモン風味の水をくれたので、しっかりと自分の手で受け取り、口を付けた。

 あの泉に触ったせいで2日くらいは前以上に体がだるくて何もできなかったけれど、回復は前よりも早くて、ほとんど動かなかった腕はコップを自分で持つまでに回復してきた。歩く方も少しだけマシになってきている、と思う。

 

 水を飲み終えるとコップをフラウに渡して、ソファーからゆっくりと立ち上がる。寝てる間に部屋に来ていたルドヴィクが心配そうな顔で近くに来る。けれど、余計な手は出そうとしない。私が転びそうになるとすぐに支えてくれる。ルドヴィクは最近、騎士というよりリハビリを見守る看護士みたいだ。

 

 そうやって、部屋にある鏡台の前に座るとレンナがやって来て最後の身支度をしてくれる。

 

 

 すっかりと私の準備が終わると、ルドヴィクが隣にやって来た。

 

「失礼します」

 

 いつものように声をかけられ、抱き上げられる。あの泉に浸かった後に1度だけルドヴィクを拒んだけれど、やっぱりルドヴィクが一番マシだなと思えた。他の騎士に同じことをされるのはちょっと嫌だった。

 それにしても、やっとこの城を出て行けると思うとほっとする。これで夜はゆっくりと眠れる。

 

 城の中の知らない通路をいくつも通り抜けて、やっと外へ出た。

 目線を上げればやっぱり空は緑だ。綺麗に整えられている植物は青。こうして見ると本当に知らない世界で気分は沈む。

 あまり風景を見たくなくて額をルドヴィクの方へ向けた。

 

 外に出て暫くすると、ルドヴィクが緊張したように立ち止まる。私を抱える腕に力が入ったように感じて目線を上げると、そこには天敵がいた。

 

「見送りにきた」

 

 いらん。

 もう2度と見たくなかった王子がいて目が据わる。

 

「相変わらずだな。気を付けて行けよ」

 

 そう言うと、顔を近付けてくるので、咄嗟に目線を下げるが、頬にちゅっという感触があり鳥肌が立つ。

 

 本当に私はコイツが嫌いだ。離れられるなら、知らない世界に喜んで出ていってやる。

 

 王子を見ないように目線を逸らしていると、王子の指先が左の首の付け根に触れる。

 

「おまえはどこにいようと私の妃だ」

 

 そう言われたが、心の中で盛大に舌をだす。そんな自覚カケラも持ってやるもんか。

 

 ルドヴィクが1歩下がってくれたらしく王子との間に距離ができた。王子も下がったみたいで、ルドヴィクが軽く礼をして、近くにあった馬車の箱の中に私を座らせた。続いてフラウとレンナも乗り込んでくる。

 どういう話しになっているのかは分からないけれど、この2人はいつ終わるとも分からない私の旅路に付いてきてくれるらしい。申し訳ないなと思いながらも私はほっとした。

 

 

 舐めてた。私が悪かったです。でもあそこにはもう居たくはなかったから、これくらいはまだ我慢する。

 馬車の箱の中で私はたくさんのクッションに埋もれながら、乗り物酔いを起こしていた。

 

 城の近くの街中は大丈夫だったけれど、街の外に出た辺りからもうだめだった。悪路もいいところだ。馬車ってすごい揺れるんだな。初めて知った。

 

 顔色が悪くなった私にすぐに気が付いたフラウが馬車を止めて、ルドヴィクが外に連れ出してくれたけど、思ってた以上に時間がかかる旅になる予感がある。城に帰りたくないからいいけれど、私に付き合わせることになる人達には申し訳ない。

 

 外の風に当たりながらぼんやりとする。

 

 私の旅に付いてきたのはフラウとレンナ。それとルドヴィク。ジアル、シャイゼル。私が知ってる人はほとんど付いてきたと言ってもいい。他にも騎士が10人。雑用係みたいな人が3人。フラウとレンナの補助をする人が4人の総勢22人。

 私1人のために用意された人達。私の感覚では多いけれど、これがこの国の基準では多いのか少ないのかはちょっと分からない。

 私に付いてくることのせいで長いこと家族とか友人と会えなくなることをどう思っているんだろう。

 今のところ悪意みたいなものは感じないけど、遅々として進まなければ不満も出てきそう。

 

 乗り物酔いって克服できるものなのかなぁ。

 

 風に当たりながらあまり体力のない体は眠気に負けてしまった。

 

 ゴトゴトする音に気が付くと、私はいつの間にか馬車の中にいた。

 

「気が付かれましたか? もうすぐ今夜の宿に着くとのことです」

 

 レンナがそう教えてくれた横からフラウがストローの刺さった水筒みたいなものを差し出してきた。

 この世界、ストローはあるんだなと感心しながら受け取って口を付ける。

 

 それにしても、体が弱っているとはいえこの世界に来てから眠りすぎな気がしてきた。

 この世界の1日が24時間なのかはわからないけれど、そうだとして、私が起きてられるのってもしかして4時間くらいしかないんじゃないだろうか。寝てる間にお風呂に入れられても、着替えさせられても移動させられてもほとんど気が付かない。

 

 一際ゴトンと馬車が揺れてバランスを崩してフラウに寄りかかってしまう。私が持っていた水筒みたいな物は間一髪でレンナが受け取っていた。

 

「大丈夫でしたか?」

 

 フラウがそう声をかけてきて私の顔を覗き込む。

 

「まだ、顔色が悪いです。もう少し眠られたら、着くと思います」

 

 フラウの手が伸びてきて頭を優しく撫でられる。なんか、最近こういう場面が多い気がする。そう思いながらも私は眠りへと落ちていった。

 

 

 ユラユラという感覚に目を開けると、私はルドヴィクに運ばれてる途中だった。

 

「起きられましたか? 今日は慣れない馬車での移動でしたので疲れが出たのだと思います。本当は明日も休んでいただきたいところですが、王都は早めに抜けた方がいいと思いますので明日もまた移動となります」

 

 ルドヴィクの機嫌が出発前よりもよくなった気がする。何があったのか知らないけれど、このところ落ち込んだり、苛立ってみたりで情緒が不安定になるようなことがあったんじゃないかと心配してたんだよね。

 それが少しだけ落ち着いたように見える。

 

 近くにいる人が落ち込んでると私のせいかもって考えちゃうから取り敢えず持ち直してくれたみたいで良かった。

 

 部屋に着くとルドヴィクは私をソファーへとおろしてくれた。

 

 眠っていたからか気分はすっかり良くなっていた。馬車の中にいる時は眠ってた方がみんなの行程を邪魔しなくていいかも。私も酔わなくて済むし。

 

 それにしても、と私はフラウへと目を向けた。フラウは食事の用意をはじめている。その様子をぼんやりと眺めながら考えてみる。

 

 フラウの近くってなんだか急に眠くなるんだよね。

 それに、この世界に来てから何度か頭を撫でられた気がするけれど、その度に逆らえない眠気に落ちる気がしている。眠ればその前よりも回復していることが多いから眠ることは嫌ではない。

 

 強制的に眠らせたりできるんじゃないだろうか。

 

 ここは私の知らない世界だ。ここの人達が常識だと思いすぎていれば、私からみて不思議な力を持っていたりしても疑問も持たないかもしれない。

 

 私が見たことがないだけで魔法があっても不思議じゃない。魔法でなくてもスキルみたいなものとか。

 

 ステータスオープン。

 

 頭の中で唱えてみる。何もおきない。

 

 ま、そうだよね。ちょっと憧れてたんだけどな。

 

 あんまりよく考えてなかったけど、私も聖なる力なんていう訳の分からない力を持ってるな。そうなると皆も何かしらの力を持ってたりするんじゃないかな。

 

 フラウは多分私を眠らせることができる、と思うんだよね。

 そういえば思い出すのも嫌なヤツも使えてなかったか? ……何もない、よね? 怖っ!

 

 フラウは私を想って寝かせてるって何となく分かる。でも、悪意を持ってる人とかにこれをやられたら致命的な気がする。

 

 頭を撫でるっていうのが発動条件ならそれさえ気を付ければいい、かな。それだけじゃだめかも。ちょっと人の行動には気を付けた方がいいかも。

 

 そう考えると今のところ悪意から離されて私は守られてるのだろう。安心はしきれないけど。

 

 

 

 

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