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ホラー

新しい家族は人外ですが温かく迎えましょう

作者: めみあ

夏のホラー2024参加作品です。



「昨日はうちの子が道に迷っていたところを、小春ちゃんが家まで送ってくれたそうで。本当にありがとうございました」


 そう言って菓子折りを持って訪ねてきたのは、娘の同級生の母親だった。


「あ、そうなんですか。うちの子がお役に立てたなら良かったです」

 

 ――あれ……? 小春は昨日、学校が終わって真っ直ぐ家に帰って来た気がするけど記憶違いかな……


 

 本当に娘なのかわからないのに受け取っていいのか迷ったが、相手に笑顔で菓子折りを差し出されたら受け取るほかない。

「ご丁寧にありがとうございます」とこちらも笑顔をつくり受け取った。

 

 菓子折りは隣町のケーキ屋の洋菓子セットだった。包みを開けるのは娘に話を聞いてからと思い、とりあえずテーブルに置く。



 その後、娘が小学校から戻るまでに買い物を済ませようと道を歩いていると、「小春ちゃんのお母さん!」と声をかけられた。


 ――えっと、誰だっけ。顔は知ってるけど……


 今日は同級生の母親とよく会う日のようだ。


「こんにちは」

「昨日うちの子が野良犬に追いかけられていたところを、小春ちゃんに助けられたみたいで、本当にありがとうございました!」


 涙目の母親に頭を下げられたが、私はただ困惑していた。

 

 ――小春は動物が好きだけど、唯一苦手なのが犬なのに。ううん、今はそんなことより、さすがにこれはおかしい。昨日はいつも通りの時間に学校から帰ってきたし、それからは目の届く場所にいたから外出もしていないはず。なんでこんな話になっているの? 


 しばらく立ち止まり昨日の小春の様子を思い出そうとしたが、本人に聞けばいいことを考えても仕方ないので悩むのはやめた。

 



 買い物帰りの信号待ち中、なんとなく顔に見覚えのある母親たちがヒソヒソと話をしていた。


「塩野先生、最近休んでるの知ってる? うちの子が言ってたんだけど、授業中に急に手が動かないって叫んだあと教室を飛び出したんだって」


「そうなの? 病気で入院してるとは聞いていたけど。なんの病気かな」

 

「それがさあ、ちょっと怖いのが、誰もいない方を見て“それはやめて”って叫んでたらしいよ。だからうちの子は幽霊だ呪いだって怯えちゃって」

 


(なにそれ)

 

 先生が病気で休んでいる話は私も娘から聞いていたが、二人の噂話のようなものにはさすがに呆れた。子どもたちが悪ふざけで言っていることを大人が間に受けて噂するのはどうなんだろう。


 

 娘はその話をした頃から気落ちしている。先生が病気で心配なのだろう。


(今朝もらった洋菓子は娘も好物だし、甘いものを食べれば元気になるかも)


 そう思いオヤツの準備をしていると小春が帰宅した。

 手を洗うように声かけし、戻るのを待つがなぜかリビングに来ないので洗面所を覗く。


 水を出しっぱなしにしたまま、手はだらんと下げてこちらを向いた娘は、明らかに様子が変だった。顔色は蒼白で表情がなく目の焦点も定まらない。


「小春!?」


 肩を掴み軽く揺さぶる。されるがままに身体を揺らすだけの娘に悪い想像ばかりが脳をよぎる。私はとにかく話を聞こうと、リビングまで手を引きソファに座らせた。


「小春、誰かに何かされたり、怖いことがあったの?」

 

 目を合わせてゆっくりと尋ねる。小春はまばたきをせずにじっと私の目を見返し、「なにも」と答えた。


 ようやく言葉を発したが娘らしくない返事だ。本人の了承を得て腕や足を見る。傷はなく誰かに乱暴された形跡も見当たらない。


「ねる」


 娘はそう言うとソファで寝息をたて始めた。

 こんなことは今までに一度もないので驚いたが、寝ているあいだに服をめくり身体も確認すると、こちらも傷ひとつなかった。


 ――考えすぎ? 疲れてるだけ?


 

 服を戻し整えているとカサッと音がし、見るとズボンの後ろポケットにたたまれた紙がはいっていた。取り出すと、A5用紙に娘の筆跡で小さい文字が書かれている。


《休み時間に校舎の裏でケガをした猫を見つけた。お腹がすいているようなので給食をこっそり残してあげていたら先生に見つかった。怒られると思ったけど、先生にやさしいねとほめられた。猫をどうしようと相談したら、先生が世話をすると言ってくれた。良かったねと猫に言ったら、ありがとうと猫が答えた》


 ――小春の創作話かな。こんなの書くんだ。


 微笑ましく思いながら続きを読む。


《猫は助けてもらったらお返しをするのが決まりだから、お返しになんでも願いをかなえると言った。私はクラスで人気者になりたいって言ってみた。先生もビックリしていたけど、お父さんの病気を治してほしいってお願いをした。猫はお安いご用って言った》


 ――人気者か。


 今朝同級生の母親から聞いた娘の話を勘違いかと思っていたが、人を助けることで人気者になろうと頑張っているのなら本当にあったことかもしれない。

 私は先ほどまで娘を疑っていたことを反省する。創作話はきっと良い結末になりそうだと再び紙に目を戻す。



《そのあと先生のお父さんは病気が治って、先生は喜んでた。何日かして学校に行ったら靴箱で先生が待ってた。「あれは猫じゃない。願いを取り消して。あなたが危ない」なんて言ってきた。そんなのずるいと思ったから、イヤだって言って逃げた。先生は追いかけてこなかった》


 ――あれ。想像と違う展開……これも成長なんだろうけど、親が勝手に読んじゃダメなやつだったかな。小春、ごめんね。


 心で謝りながら、それでも最後まで読むことにした。いやな予感もあったからだ。



《朝の会で先生が教室に入ってきたとき、足元にあの猫がいた。「おまえはまずそうだから少しでいい。あとはあの子からもらう」と言って先生にかみついた。先生は「手が動かない」とか「それはやめて」とさけんだけど、猫にあちこちかまれたのが痛いみたいで、教室から飛び出して行った》

 


 ――……この先生のセリフ、さっき信号待ちで聞いた噂話と似てる……ていうか同じな気がする。きっとこのセリフは先生が本当に言ったことで、小春はこの言葉を元に話を書いたんだ。それだったらあとで注意しなきゃ。人の不幸をネタに話を書くなんて。



《先生は次の日から学校に来なくなって、猫はずっと私についてくるようになった。気味が悪い。やっと先生の言った意味がわかった。誰かに話したら家族を不幸にすると猫から言われて、お母さんにも言えない。願いは勝手にかなえられて、私は人気者になった。きおくにないけど良い事をたくさんしたみたい。私も先生みたいになるのかな。私は何をとられるんだろう。こわい。これを読んでいる誰かさん、お父さんとお母さんにごめんなさいって伝えて》

 

 読み終えて手が震えた。

 自分は大きな勘違いをしていた。

 やっぱりここにいるのは小春じゃない。

 

 ――これは創作じゃなく本当のことなんだ。化け物に小春の身体が乗っ取られたかも!


 娘を見ると、体中に細く黒い線があらわれている。血管が黒く変色しはじめているようだ。


 娘が人でないものになる、そう思ったとき、ある考えが浮かんだ。人として、親としてありえないことだが、やれるのは私しかいないと覚悟を決める。


 私はためらいながらも娘の首に手をかけた。グッと力をこめる。


「マ、マ」


 目を開けた娘が私の手を引き剥がそうとするが、娘に取り憑いたバケモノは娘から出る気はないようだ。けれど身動きが取れないことに焦っているのか、手の甲を爪で思い切り引っ掻かれた。


「マ、マ」

 

 またバケモノが苦しそうにママと呼んだ。


“こはるは恥ずかしいからママって呼ばないからね”


 娘の言葉と笑顔を思い出して、さらに力をこめる。娘が苦しそうに呻き、顔が赤くなってきたところで私はようやく手を離した。


 娘の姿をしたナニカは、ゴホゴホと咳き込みながら、目を充血させこちらを睨みつけてきた。私はそれに人差し指を突きつける。


「今、私はあなたの命を助けた。だから私の願いを叶えてちょうだい。助けてもらったらお返しをするのが決まりなんでしょう?」


 娘の命を盾にしての賭けなんて母親失格だ。もし上手くいかなければ合わす顔がない。それでも今は強気にでるしかなかった。


 バケモノは目をそらし、肩をすくめた。

 

「……ハァ……なんか、怒る気も失せた。人間のそういうとこが嫌いになれないんだよなあ。母の愛に免じて願いを叶えてやるよ」


 もう正体を隠す気はないらしい。娘の姿をしたナニカは笑顔に似せた表情を浮かべた。



「じゃあ、二度と人間に手を出さないで。そのかわり私があなたの面倒を一生みるから」


 なぜ面倒をみると口にしたのか、自分でもわからない。なんとなくバケモノが寂しそうに見えたからかもしれない。

 私の願いを聞いたバケモノはポカンとした表情を浮かべたあと相好を崩し頷いた。それからこちらに背中を向けるとズルリと黒いかたまりが抜け出てきた。


 黒いかたまりは、人に居場所を奪われ、恨みからこのようなことを続けていたが、居場所をくれるなら何もしないと言った。


 小春も目覚めて驚きはしたが、先生の病も治すと聞くと、家に住むことをあっさりと受け入れた。



「娘、お前も我の世話をするならまた願いを叶えてやろうか」

 

「新しく家族になったんだから、うちのルールを守ってね。そういう交換条件をだすのは禁止なんだよ」


 小春も腹を括ったらしく、仲良くすると決めたようだ。化け物が生きるには人の生気が必要らしいが、元気すぎる人間から少しずつ貰うので人には迷惑がかからないと言うし、なんとかなるだろう。


 それから数日経ち、一つだけ問題が発覚した。それは人によって見え方が違うこと。小春や塩野先生には猫、私にはソフトボール大の黒いマリモ、夫には大きな一つ目で短い手足を持つ妖怪に見えるらしい。それは夫には怖いもののようで、慣れるまでは毎日夫の悲鳴を聞くことになりそうだ。










夏のホラー、今年も4作書けました。

お付き合いくださったかた、ありがとうございました。


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