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7、同郷人と子グリフォンと過保護者たち


 メイリとサクヤ君が『よろず屋』から出て行って、しばらくは穏やな時間が流れている。

 ブラッシングと犬用のミルクをたっぷり飲んだポメ太郎も、四つ足動物をダメにするというのが売りのクッションと共に絶賛爆睡中だ。


 ダンジョン内で取得したもので、外に持ち出せるのは魔石のみ。

 他の素材はDCダンジョンコインになって、運営の出している店のアイテムや外皮アバターに追加できる装備品などを購入できたりする。

 DCはダンジョン外でも電子マネーとしても使えるが、10000DCは1000円くらいの価値になってしまう。そのため、ほとんどの人が価値が変わらない運営の店を利用しているのが普通だ。


 ダンジョン探索で必要なアイテムについては、外皮アバターの扱いになる。テントや食料は外皮のシステムに保存されるから、ダンジョン内に入ればアイテムは復元される。質量も重さも保存した時の状態で、だ。

 アイテムボックスという便利な魔道具は一応存在するけど、俺はまだ持っている人を見たことがない。

 だから基本的に長期探索する冒険者は、いつも大量の荷物を持つことになる。


 俺が営んでいる『よろず屋』とか、そういうガチ探索する冒険者にとってすごく便利な存在だと思うけど……ぜひともご来店お待ちしております!(ダイマ)


 ダンジョンの外から食材を持ち込むと、それらを再び外に持ち出すことは出来なくなる。

 出し入れ可能なのは魔石のみで、基本的に他は一方通行だ。外からの物質は、ダンジョンのシステムに組み込まれることで違う物質に変化するそうだ。

 無理やり外に出すと、状態を維持することが難しくなって魔素となり、ダンジョンの栄養分となるらしい。

 このダンジョンのシステムを利用して日本のゴミ問題が解決したのは、教科書にも載っている有名な話だ。


「さて、あとはクズ魔石を片付けるだけかぁ……」


『すみません。ここは『よろず屋』さんですか?』


「はい、そうですよ。いらっしゃいませ」


 クズ魔石の仕分けは後でポメ太郎に手伝ってもらおうと、一箇所にまとめて袋ごとカウンターの下へ置いておく。

 声のする方へ視線を向けると、いかにも冒険者といった服装の女の子がおそるおそる店内に入って来た。

 黒髪のショートボブというスタイルは少年のようにも見えるかもしれない。荒くれ者が多い界隈ならば、それを狙っての格好なのだろう。

 俺はジョブ【萬勘定師ゼネラル・テラー】の能力があるから、女の子にしか見えないけど。


 女の子は大学生冒険者のコハナちゃんより小さくて、メイリなら自分の娘かってくらい構い倒しそうな外見だ。そして構いすぎたメイリが嫌われるという未来もみえる。


『ギルドマスターから、ここを紹介されて……』


「そうでしたか。では、こちらにお座りください」


 ギルマスさんの紹介か。彼女の入って来たドアは石造りだから、王都から来たということになるけど……。

 とりあえず紅茶でも出そうかと考えていると、彼女は本当に申し訳なさそうに背負っている袋を差し出してくる。


『すみません、お店に動物が入っても大丈夫ですか? おとなしいし、汚したりもしません』


「うちの店にはポメ太郎……動物もいます。おとなしい子なら大歓迎ですよ」


『ありがとうございます』


 そう言った彼女は、そっと袋の中身を見せてくれる。

 そこには淡いグリーンの羽毛に包まれた、四つの小さな生き物がスヤスヤと寝ていた。


「……グリフォンの子、ですか」


『はい。すみません』


 しょんぼりと眉を下げた彼女は、ぺこりと頭を下げる。

 なるほど。

 ギルマスさんがうちに寄越すわけだと、妙に納得してしまう。


「お客様の生まれは、ギルマスさんと同じ国ではありませんね?」


『え、なんで……』


「彼の国で、頭を下げるという行動は余程の事となりますから」


『……』


 しょんぼり眉が、さらにしょんぼりになってしまった。

 女の子をいじめて喜ぶ性癖は持っていないので、早々にフォローさせてもらおう。


「その体毛の色は、うちの店から出した守りの石ですね?」


『そ、そうです! その石を売ってもらいたいたくて!』


「前よりも強い守りの石を提供することもできますよ。もちろん対価はいただきますが」


『お金でしたら、ギルドマスター経由で支払います!』


「いえ、対価はお客様の大きな秘密をひとつだけ、で、どうでしょう」


『え……』


「うちは『よろず屋』です。取引材料はお金だけとはかぎりません」


『で、でも、私は、そのっ……!!』


 うん。

 か弱い女の子をいじめる悪いオッサンという構図が、微動だにしない件。

 俺は悪いオッサンじゃないよ? かといって、良いオッサンでもないけど。


「お客様が信頼する方は、何と仰っていましたか?」


店主マスターなら、よろず事を引き受けてくれるから信じていい……と』


「そうですか。では、こちらも開示しておきましょう」


 とりあえず冒険者の義務となっている配信画面を、彼女にも見えるよう公開状態にする。


『これは……!!』


「はい。閲覧人数は「0」人です。お客様の秘密は公開されません」


 その画面を見て目を輝かせている彼女に、アールグレイのアイスティーを差し出す。


「あらためまして。『よろず屋』の店主、カイトと申します。お客様は?」


『私は……』


 名乗りかけた彼女はアイスティーを見て、ゆっくりと深呼吸をして真っ直ぐに俺を見た。


「わたしは……私の名前はリオです。チーム『啓明』に所属している冒険者です」


「はい。確かに対価をいただきました」


 日本語で自己紹介をしてくれた冒険者のリオさんは、上気した頬に手を当てて俯いてしまう。

 

「すみません。久しぶりに日本語を話したので、なんだか興奮しちゃって……」


「それ、他のメンバーの方々の前ではやらないでくださいね……」


「???」


 俺は知っている。

 『啓明』のメンバーは、リオさんに関してだけ暴走するへきがあるということを。


 まぁ、それでも。

 これだけの対価をいただいたのですから、しっかりと「よろず事」を勘定させてもらいますよ。

 保護者たちが来るまでに用事を終わらせておかないと……せめて半殺しくらいで許してほしい。




 さて。

 用意するものは、風属性の魔石(大)と、親グリフォンの羽毛を少し、浄化用の水晶くらいだ。

 親グリフォンの羽については、リオさんが大量に持っていたことが判明した。

 え? どうやって手に入れたの???


『この子たちの親である番のグリフォンは、うちのリーダーに懐いちゃって……王都のはずれにある家の庭に巣を作ったんです』


「お客様の家の庭にはグリフォンの巣があるのですか。奇遇ですね、我が家の庭にはダンジョンの入り口があるのですよ」


『お互い苦労しますね……』


「本当に手続きが面倒でした……」


 思わぬところでリオさんとの共通点が見つかった。


 軽く雑談をしながら守りの石の強化版を作っていく。陣の入った布を敷いて、上から落としていくだけの簡単な……と言いたいけれど、俺にしか出来ない仕事ではある。

 ダンジョン内で使えるジョブの能力で、「よろず」を「勘定」していくことで、その物の流れが繋がり、結ばれていく。

 人と関わりを持った小さなグリフォンたちが、健やかに育つよう縁を結ぶのだ。


 作業をしていると、寝ていたポメ太郎が起きてきた。

 フワフワと子グリフォンたちの近くまで飛んで来たかと思うと、ぼわんっと大きく膨らみ、布団のように上から包み込んだ。

 小さな生き物たちによって、ポメ太郎の父性か母性がくすぐられてしまったのだろうか?


『私……異世界で生きることになったけど、本当に恵まれているんです』


 リオさんは日本人としての記憶がある異世界転生者らしい。

 前の姿よりも、少しだけ顔が異世界人寄りになっているとのことだけど、たぶん元のほうもかわいい感じなのだろう。

 家族との縁も薄く、周囲の人間関係も浅いものだった。なので、そこまで日本に対して未練はないとのことだけど……。


「何かあれば力になりますよ。同じ日本人だからこそ、できることもあると思いますから」


『ありがとうございます! もちろん対価は支払います!』


「はい。うちは『よろず屋』ですから。ぜひ、よろず事をご相談くださいませ」


 意識をしないと日本語を話せなくなったと、寂しそうな笑顔を浮かべるリオさん。

 その表情、できればここだけに……って、遅かったか。


『貴様、何者だ……』


『リオに何をしたのです……?』


『ちょーっとだけ、痛いことするー?』


『ちょっと待って! 皆、落ち着いて!』


 すみません。

 ダンジョン『よろず屋』は奥に談話スペースがあるので、お話はそちらでお聞きしますね……。


お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 先日、短編を読みなおしたところなんですが、「啓明」ってやっぱりあの「啓明」なんですね
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