表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/28

26、夢か現か迷宮入りか…



 さて、おさらいしよう。

 ダンジョンから持ち出せるものは魔獣や採掘で得られる「魔石」と呼ばれるものだけだ。

 他のアイテムや素材を外に持ち出すと、魔素と呼ばれるモノに変化し、ふたたびダンジョンに吸い込まれていく。

 魔石には様々な属性が込められており、昨今のエネルギー不足問題の解決になるのでは? と言われている。

 こんなことをあまり細かく言いたくないんだけど、そのエネルギーを武力に使われたらどうするんだ? とか当時は議論になっていた。

 そのあたりの懸念については杞憂だった。なんというか、ダンジョンという異世界から得られる魔石は、こちらに持ち込んだ瞬間に「ご都合エネルギー」になっていたのだ。

 異世界での魔石は色々なことに使われている。もちろん戦争に使われたりもしている。ところが、こちらに持ち込まれた魔石は、そのような事に使われる流れになった瞬間に魔素になった。驚くことに魔石のエネルギーで作られた物体も、使われかたによっては魔素に変わってしまうらしい。

 まさにご都合主義バンザイって感じだよね。


「それで、クズ魔石を持ち出して実験しようってわけか?」


「うん。占いに使えたら、副業に役立てようかなって。もともと石を使ったほうが読みやすいんだよね」


「なるほど」


 俺の家のリビングでくつろぐメイリは、実験よりも目の前で梅酒を舐めているポメ太郎が気になるらしい。

 別にいいけどね。真っ白毛玉のかわいさの前では、俺の実験なんて瑣末事だろうし。


 海竜戦から一週間ほど経っていて、さすがに働きすぎ(戦いすぎ)だったと反省した俺は休みをとることにした。

 腰痛改善したせいか、メイリは休まずダンジョン活動をしているとのこと。今日は俺の実験を見守るため、わざわざ休みをとってくれたらしい。

 なんだかんだ言い訳をつけて、ただポメ太郎に会いたいだけだというのを俺は知っている。


「じゃあ、メイリの奥さんに」


「おい。変なもん作るなよ?」


「体調崩してるって言ってたから、健康祈願のお守りみたいなやつだよ」


「頼む」


「メイリの手のひら、くるっくるだね」


 ちょいちょい煮物をお裾分けしてくれるメイリの奥さんは、俺にとってもなくてはならない人だ。

 特に筑前煮は絶品で、日本酒どころかビールやワインにも合うのだ。


 いつものように太陽、月、星のマークが入った布を広げる。そこにフローライトに似たふんわり薄緑色に光るクズ魔石を数個取り出す。

 少し上から落とせば、チリンチリンと軽やかな音が鳴る。

 それらの音の中から微かに聞こえるのは……。


「あ、できちゃった」


「マジか」


 いくつかの石が魔素に変わったのはいつものことだ。

 そして残った石は、最初のぼんやりとした色ではなく、つるりと磨かれたかのような薄紅色の石に変化している。


「対価はいつものやつでよろしく。体調が安定してからでいいよって伝えて」


「おう。ありがとな」


 次回の筑前煮の味に期待しながら、守り石となったクズ魔石をメイリに手渡す。


「流れは問題ないし、ちゃんと病院に通っていれば安心だと思うよ。一応、守り石に安産祈願も入れておいたから」


「それならよかった……って、なんだって?」


「だから、妊婦さんなんでしょ? 筑前煮は安定してからでいいよ」


「はぁぁ!?」




 慌てて家に帰ったメイリが聞いたところ、どうやら奥さんは気づいていて、病院で検査してから報告しようと思っていたらしい。

 うっかりバラして申し訳ないと謝ったら、これはこれで面白いから大丈夫だと許してもらえた。

 メイリは奥さんに面白がられているのか……楽しそうで何より。


 なぜわかったのかというと、クズ魔石から鳴る音の間に赤ちゃんの声が入り込んでいたんだよね。

 幻聴とか霊感とかじゃなくて、実際リアルに聞こえてきた音だ。申し訳ないけど、そういう怪しげな能力は持ってないんだよ。

 やってることはスピリチュアルなんだけど。


「うーーーん。まぁ、ダンジョンの中か外かの違いしかないよな。クズ魔石を加工しただけだから、こっちで物騒な使い方もできないし」


「クゥン」


「よーしよし、ポメ太郎は桃酒も好きなんだなー」


 ポメ太郎は果実酒が好きらしい。特に梅を日本酒で漬けたものはたいそう喜んでいた。

 ちなみに、ポメ太郎に日本中の果実酒を貢ごうとしていたメイリは、奥さんの第二子懐妊が歯止めをかけた形になっている。

 うちの毛玉には飼い主が尽くすから、メイリはしっかり家族に貢ぐべきだと思う。なんなら俺も親戚のお兄さん枠で貢ごうと思う。

 大事なことなので二回言うけど「親戚のお兄さん」だ。異論は認めないよ。


 それにしても。

 メイリの腰痛改善と、俺の守り石の加工については、そこまで大きな問題にならないと思っている。

 問題は「どこまで影響が出ているのか」である。


「やっぱり、運営てんしさんに相談するか……」


 諸々の原因となっている真っ白毛玉は、前足でお猪口をずずいと差し出しおかわりを要求している。かわいいけど、瓶の中身は空になっているから今日はもう終了だ。

 今度、灰色狼侍に飲酒量について問い合わせておこう。

 飲み過ぎはよくないもんな。


「さて、そろそろ落ち着いたかなー」


 普段はあまり見ない、ダンジョン運営事務局の公式サイトをパソコンで開く。

 いくつかウインドウを開き、どこもかしこも「複数ジョブ持ち」についての話題なのを確認する。


 どうやら複数ジョブは「よろず屋さん」以外にもいると周知されたもよう。

 そして、俺のように不可思議なジョブも公式に載るようになった。

 載ったのは【萬勘定師ゼネラル・マスター】のほうで、さすがに【式師ライト・マスター】は無かった。


 あ、コハナちゃんの【弓術士アーチャー】に「序」「破」「急」っていうのが追加されてる。やっぱり三段階あったんだなぁ。


 物語における「起承転結」っていうのも有名だけど、舞楽や能楽は「序破急」が基本構成っぽい。

 俺は専門家じゃないから詳しくは知らない。むしろ、コハナちゃんたちのほうが詳しいかもと思っている。身近な人たちが神道系みたいなこと言ってたし。


「よし、明日からダンジョン活動を復活するか」


 さすがに一週間も引きこもっていたら太った気がする。

 ポメ太郎の丸みも増した気がする。


「クゥーン!」


 遠吠えで誤魔化してもダメだよ。ポメ太郎。

 


お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ