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製本屋台

作者: 花黒子


 田舎町の高台に、コーヒーショップがある。

 高台から臨む景色が美しく、画像共有のSNSなどで有名なお洒落なカフェで、ちょっとした観光スポットにもなっている。

広い駐車場の一角に『製本屋台』という看板を掲げたハイエースが停まっていた。


 ハイエースの横に本棚があり、本が並べられている。本はいずれもペーパーバックのようだ。


「出来たてほやほやの本はいかがですか?」

 ハイエースの中から茶色いエプロンをつけた屋台の主が現れた。

「出来たて?」

「ええ。中で製本しているんです」


 ハイエースの中で製本しているらしい。


「本当に?」

「いえ、嘘です。組み立て式の製本機をカフェの一角に置かせてもらって製本しました。ハードカバーはありませんが、どれも面白い本を揃えています。カラーは3色までですけどね」

「本の中を見ても?」

「どうぞ」


「あ!」

 本の中身を見て驚いた。一時期流行ったネット発のライトノベルだった。

 確か売れずに2巻ほどで終わってしまったはずだが、手にしている本には4巻と書かれている。


「続き出てたんですか?」

「うちの限定商品です。作家さんと直接やり取りして、ペーパーバックを出させてもらってるんです。ブームが去った後、大手の出版社から契約を打ち切られて絶版になるじゃないですか。でも、そもそも田舎の本屋には本そのものが配本されなかったこともあるので、少量なら売れることが多いんです。うちは要望のあったところに、直接行って製本するから在庫管理は紙とインク代だけ。まぁ、大手の新刊は製本できませんが、都会から忘れ去られた名作なんかの続きが出せるんですよね」


 確かに、ネット上には多くの書籍化作品という者が多い。ほとんどの作品は書籍化されて、売れなくなった時点でネットの更新も終わってしまうが、続けている作家も少なからずいる。


「ほら、野菜とかでも、ちょっと傷がついたものをネットで販売することがあるじゃないですか。うちもそれほどお金はかけられないですけど、ガソリン代と作家さんへの印税くらいは払える額は稼げるんですよね」

「この製本屋台は、結構あるんですか?」

「ええ。古本屋も兼務していますが、県内でもあと2台走ってますよ」


 枯れた技術の水平思考というか。資本主義の競争から零れ落ちたものほど、売れるというのはアマゾンがやったことだ。作家のツイッターを見ると「現在、製本できます!」と書かれていた。

 こんな時代が来るとは思わなかった。


 買うと、ハイエースの後ろにあるコピー機からきれいにカラープリントされた表紙が印刷されて出てきた。ペーパーバックにぴったり。


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