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64 ファリア国

「やっぱり暑い国の人たちは元気だね」

「あれは元気っていうか、ちょっとついて行けないな」

「みんないつも踊ってるわよね」


 中森弥生と金城みずきが優と話す。


「でも楽しそうでいいと思うよ。みんなも踊ったらいいのに」

「踊っている間に襲撃されたらバカみたいだろう」

「あはは。想像してみたらおかしいね」

「優が踊りながら歌ったらいいぞ」

「それ、やろうと思ったんだよね。でも歌声がおかしくなるからできないの」

「最終公演ぐらいにやってみたらいいんじゃないか。誰も気にしないだろう」

「そうかもね。ちょっとその気になってきたよ」

「優くんの踊りはちょっとコンニャクっぽいわよね」


 優たちは一番目の公演を無事に終え、次の公演場所に向かっている。次は内陸部だが、内陸部での公演は次だけだ。

 この国では大森林に接する北部沿岸からスタートし、反時計回りに移動を続け、最後は東海岸の首都公演で終える予定だ。総行程距離は六千キロに達する。エルス国での移動よりも多い。

 クローン人間廃棄処理施設跡地はこの大陸のちょうど中央にあるため、次の公演のあとに訪問する。


 この国の人口は一億人だが、このツアーの公演場所は屋外の広場ばかりだ。広場といっても広大で、そこに五万人以上が集まる。中森弥生たちが「踊る」と言っているのは、そういう訳である。


 広場が会場であるために、厳密に音源再生システムを使用することはせずに、演奏よりも優の歌声を広く響かせる方法をとっている。このため曙国の国内公演旅行に近いものとなった。参加したい国民は誰でもチケットなしで聴くことができ、非常に庶民的な公演となっている。


 そしてこの国では狂暴化症状の実験は行われず、最終公演のあとに患者を集めて「治療」を行うことになった。この国は狂暴化症状の実験を必要としていない。大らかな国柄らしい判断だった。

 従って公演においても鎮魂歌を歌うことはなく、予め踊りやすい比較的明るい曲を中心にリクエストがされていた。エルス国の一番目の公演のように極端な熱狂はしないが、ダンス好きな国民は踊って盛り上がる。だから踊りやすい曲が喜ばれた。


「ところでさ、クローン人間廃棄処理施設跡地の場所って、どんなところなの?」


 優が中森弥生たちに聞く。


「この国は高原が多いだろう。だけどな、西の大山脈の手前は大きな湿地帯になっているんだ。いまは乾季だから水が引いているけどな。そこは湿地帯だから人がおらず、政府が管理していない。だから危険な勢力がいたりするんだよ。生物も危険なものがいたりするから、準備をしっかりしないと大変なことになるぞ」


 中森弥生たちはこの国の任務の経験があるので詳しい。


「マリア、状況はどうなっているの?」

「特に変化はないな。と言ってあんたたちには分からないか。今年の天候は特に異常はないから湿地帯の水はかなり引いている。でも泥状の土地が多いから、車の運転に気を付けないと脱出できなくなるぞ。それから毒性のある生物がいるから、解毒剤を忘れないことだ」


 優はそれを聞いて冷や汗が出る。伝染病などの予防接種はしてあるが、動物による攻撃には血清が必要となることがある。

 怜良がマリアに質問を続ける。


「その準備は大丈夫よ。この国の気候や土地条件に適合する薬や装備を揃えてきたわ。各勢力の動きは大丈夫かしら」

「いつもと変わらないな。ちょっと通行料を請求する連中もいるから、そのときは払ってやるといい。余計なトラブルは起こさないことだ」

「国境を越えて周辺国が襲撃する可能性は?」

「それはないと考えていいんじゃないか。いま襲撃すると目立ち過ぎる。大陸盟主のファリア国政府が黙っていないだろう。一応あんたたちは国賓待遇だからな。ファリア国の面子を潰すことになる。だから何かするとすれば独立勢力だな」

「独立勢力は三つあるのよね。動きは大丈夫かしら」

「今のところは変化がない。だが優が何かを発見したりすると状況は変わるな。連中は網の目のように勢力を張っているから、どこかから見張っているはずだ。うっかり成果を見せてしまうと、どうなるかわからない」


 それを聞いて沈黙が訪れる。


「独立勢力の戦力はさほどでもないんでしょう?」

「その通りだ。所詮は民間人の集まりだからな。反政府勢力というわけでもないから、他国政府からの支援があるわけでもない。でも地の利を生かしてくるから、湿地帯での戦闘はあんたたちにはかなり不利になるぞ。特に分断されたら一気に不利になる」

「中森さん。対応に意見はありますか」


 怜良は経験豊富な中森弥生に聞く。


「そうだな。まず金城が優にぴったり張り付いて防御するのは絶対だな。それから館岡のドローンを数多く展開するのが有効だろう。そしてなるべく早く敵を発見して、遠距離で仕留める。だが一般市民がいるとそういうやり方を取れない。近隣の村に注意しなきゃならんな」

「そういうことだね。あんたたちの廃棄処理施設跡地へのルート上には村がいくつかあるから、そこは勢力の支配下になっている。戦闘して切り抜けてもいいが、なるべくなら穏便に済ませた方がいいぞ」

「勢力下の村の対応はどうにかならないかしら」

「ある程度なら金で決着できるが、さっきも言った通り、優が大きな成果を出すと金では解決できなくなる。だから問題なのは行きよりも帰りだ。脱出できなくなるぞ」

「その場合には高空を飛行中の攻撃機で爆撃するわ」

「それでも構わないが、政府との後始末が大変だぞ」

「そのためのデボラ・ミリアムよ。私たちの行動や戦闘は記録しておいてね。証拠に使うわ」

「ああ、わかった。あんたはイメージと違って好戦的なんだな」

「優くんの保護のためなら手段は択ばないわ」

「今回は相手がかわいそうになってきた」


 怜良たちが作戦を考えて会話していると、優がマリアに質問した。


「ねえ、マリアさん。曙国やエルス国では社会全体が効率化していて、そんな山賊みたいな人たちはいないと思うんだけど、どうしてこの国はそんなに危険な社会なの?」

「そっちの国は政府が全土を掌握して、いわゆる民主的プロセスってやつを加えて統治してるんだろ。天皇だって国民全体を基準にして統治してるはずだ。だけどこの大陸ではそういうお節介な考え方はしなくて、土着の人間たちが勝手に統治してる。政府はほどほどに統治するだけだ。

 だからルールがそれぞれに違うから、考え方も生活内容も、生活水準も地域によって違う。そして現地の一般の人間にとっては、それは選択できない環境だから、それぞれのルールの中で生活している。そうすると問題も出てくるが、それを解決する方法もまたそのルールの中で決めているというわけさ。

 そうすると外部からは危険な状況に見えることが多くなる。通行料にしても、現地では当たり前のルールだが、外部の人間がそれを拒否すれば現地は黙っているわけにはいかない。まあ、細かい人間ではうまく行かないな」

「僕にはなかなか理解できない社会だけど、この国の人がやたらと明るくて、マリアさんが大らかに、っていう理由はなんとなく分かる気がするよ」

「この国を出るころには、こんな社会でも好きになっているさ」


 マリアはケラケラ笑う。優は一見すると文明国とは思えない社会に思ったが、それで成立している以上、意外と生きやすい社会なのかもしれないと思った。


「廃棄処理施設跡地はどこも管理してないんだよね?」

「ああ、遺跡として放置されている。だから傷みも大きいから、大したものは発見できないと思ったほうがいいぞ」

「そうかもね。しかも湿地帯なら、保存状態はすごく悪いよね」


 マリアの話を聞いて、優は今回の跡地訪問では成果は少ないだろうと考えたが、せめて鎮魂のために訪れようと気持ちを新たにした。





 二番目の公演場所は出発地点から千二百キロの距離にある。車で二日半の行程だ。

 大森林の周辺に沿って国道が通り、優たちはひたすら西に走る。エルス国とは逆だ。

 そしてこの地域は緩やかな丘陵がある地形になっており、開けた大地に低木が時々現われるだけ。

 エルトラ大陸よりも野生動物が多く、土地改良により作られた農地がどこまでも続く。


「どうだ。エルトラ大陸とは違う景色は楽しいか?」

「うん。凄い土地だね。大陸っていうのは、本当に色んな違いがあって面白いよ」


 優は飽きずに窓から外を見続ける。

 この国はエルトラ大陸のように荒涼とした景色は少なく、動植物や人間の生活が広く見られる。すべては熱帯の気候と多量の降水のおかげだ。

 これだけの土地の豊かさと生産力があるからこそ、マリアが言ったように土地ごとの自治が可能なのだろうと優は思った。


「動物も沢山いて、エルトラ大陸とは全然違うよね」

「まあそうだが、優が行こうとしている廃棄処理施設跡地は世界最大の湿地帯のほとりだから、動物や植物はとんでもなく多いんだぞ」

「そうなの? それは凄いね! 楽しみだな」


 優は前世の知識の通りにこの大陸が植生を豊かに栄えさせていることが嬉しかった。動物の乱獲の歴史もないから、きっと前世の希少動物も多く生息しているだろう。


「優は気楽だな。ワニやデカい蛇がゴロゴロいるぞ」

「それは凄いね! もっと楽しみだよ」

「本物を見て腰を抜かさないようにな」


 中森弥生がわははと笑う。優は前世には写真でしか見ることの出来なかった沢山の野生の植物や動物を見れるのを楽しみにしていた。





「そろそろ勢力地域に入るから、気を付けた方がいいよ」


 マリアが回線で言う。

 ファリア国に入国して七日目。すでに千七百キロを走破した。

 一昨日には二番目の公演を終えている。

 二番目の公演の場所を過ぎてからは政府の支配力が低下する地域となっている。


 そして現在は湿地帯に差し掛かり、周囲の環境や植生ががらりと変わる。

 湿地帯は近代兵器が使いにくいため、緊張を途切らせることができない。

 村と関所をいくつか超えてきたが、いずれも通行料を支払った。そのため襲撃などのトラブルはない。


「ちょっと停車しましょう」


 怜良が車列を止める。現在の車列はファリア国の警護車輌を含め三十台だ。


「どうしましたか?」


 デボラ・ミリアムが警護車輌から下車して怜良のところにやってきた。


「湿地帯に入る前に、点検整備をするのよ。それに休憩もするわ。警護隊も休んでください。一時間の休憩をとりましょう」

「分かりました。ここからは道も悪くなりますから、そうしましょう」


 デボラ・ミリアムは警護車輌に戻って行った。


「館岡さん。ここからはドローンを多く展開して欲しいの。大丈夫かしら」


 怜良が館岡みずきに無線で聞く。館岡みずきは無口だがドローンの操作や管理とコンピューターの取扱いでは特に秀でている。現在も上空にいくつものドローンを飛行させている。

 館岡みずきが作業をしながら無線で答える。


「五十キロくらい先からは湿地帯が始まるから、先行させるわ。データ解析をしながらになるから、少し車列の速度を落として欲しいわ」

「わかりました。お願いします。ここからは館岡さんの状況判断を優先するから、何でも言ってください」

「ええ、何か異常があるときはすぐに連絡するわ。時々整備に時間をもらうから、その時は車列を止めてね」

「はい。いつでも言ってください」


 館岡みずきは乗っていた大型トラック型の軽装甲車輌からいくつものドローンを出し、整備を始めた。軽装甲車輌自体が画像処理などの基地になっている。館岡みずきは画像処理などの管理もしているため、自走もできるが運転は他の者が担当している。このチームでは館岡みずきが最大の戦力だ。

 ここから先は館岡みずきの分析をもとに行動を決める。


「みんな、ここからは湿地帯に入るから、野生動物にも注意する必要があるわ。血清の準備を忘れないで」


 怜良が毒への対処を全員に指示する。


「湿地帯は来た事がないんだよな」

「この中の誰も来た事ないんじゃないの」

「この大陸のど真ん中だからな。用がなけりゃ来るわけないか」

「北の大森林なら何度か進入したことはあるんだけどね」

「湿地帯だからぬかるみにはまったら、車も私たちも身動きが取れなくなるな」

「道はある程度しっかりしているだろう。かつては大量のクローン人間を運び込んでいたんだからな。荒れているだろうが」


 中森弥生を始めとする保護官たちが話し合う。

 海外任務が多くても、広大な湿地帯に入る経験はないようだ。


「乾季だから虫は少ないのが救いだな」

「ええ。蜂も凶暴らしいからね、ここは」

「突然大雨が降って水かさが増すようなことがなけりゃいいが」

「それは最悪だね。湿地帯では人間の敵より自然が大敵だな」


 全員が丁寧に装備品のチェックをする。

 毒蛇、毒カエル、蜂のほか、ワニ、エイ、ピラニア、ジャガーなど、危険な動物も多い。

 足元ばかり見ていると木の上から噛みつかれる。


「優くん。つなぎを着てね」

「うん。これなら嚙みつかれても大丈夫だね」

「ええ、そうよ。首回りも危険だから、しっかり帽子をかぶってね。手袋も外さないでね。素手で触っちゃだめよ」

「この辺りは夏に来たら大変だね。冬の乾季でよかったよ」


 怜良は優に動きやすい丈夫なつなぎ服を着せ、首まで覆う帽子をかぶせる。車内であっても油断はできない。いつの間にか車内に侵入されていたりする。

 蒸し暑い夏はこのような服は着れないので、今の時期しか探索には向かない。




「それでは出発するわ。基本的に休憩は開けた場所にするからね。優くん、植物が多くなってきたら窓は開けちゃだめよ」

「うん、わかったよ」


 怜良が出発の合図を出す。車列は湿地帯に進み始めた。

 館岡みずきがドローンを展開して先行させる。

 目的地まで二百キロだ。


 湿地帯は起伏がなく、延々と平地が続く。

 まだ周辺部のため地面は乾燥しており、車での走行に支障はない。

 日差しを遮るものは何もないが、冬であるため暑くはない。


 始めは緊張があったが、一時間もすると慣れて余裕が出て来た。

 車列は順調に進む。

 未だ木が生い茂ってはいないので、優は窓を開けて外を眺めていた。


 すでに非常に多くの鳥が飛んでいる。

 時々存在する水地のほとりにも鳥が沢山いる。

 色とりどりで見ていて楽しい。大きな鳥も小さな鳥もいる。

 熱帯特有の鳥たちだ。鳴き声もあちこちから聞こえてくる。


「今日は目的地の近くの村で宿泊しましょう」


 すでに日が傾き始めているので、マリアの情報をもとに、怜良はデボラ・ミリアムに提案する。

 デボラ・ミリアムはそれに同意した。


「村までは異常はありません。村の先は本格的な湿地帯になるので、明日が本格的な探索です」

「その村で最後だからね。人間の生活圏は最後だよ」


 館岡みずきとマリアが怜良に告げた。

 そして車列が進み続けると、やがて村が見えて来た。

 車列が停止する。

 デボラ・ミリアムたちが先行し、村での宿泊を交渉している。


「怜良さん。村では通行料と滞在料を要求しているので、支払えますか」

「はい、大丈夫です。お願いします」


 ここの訪問はツアーとは関係ないので、怜良たちが通行料を負担することにしている。


「では今夜はここで滞在します」

「わかりました。明日は朝早くに出発するので、皆さんそのようにお願いします」

「はい。そのように警護隊に伝えます」


 怜良とデボラ・ミリアムが話し、みんな車から降りた。

 宿泊所もあるが、民家にも泊まる。そのため滞在料は多く支払った。


「ずっと車だから身体が痛いわね」

「ああ。少し動かないとな」


 みんな身体をほぐしている。


「マリア。状況はどうかしら」

「今のところその村は大丈夫だね。でもあまり油断しちゃダメだよ。交代で寝た方がいい」

「わかったわ。そうするわね」

「私は今から仮眠をとるから、夜は私も警戒にあたるよ」

「ありがとう。お願いするわ」


 大陸の最奥であることから、怜良は油断せずにいた。





「こんな奥地に来るなんて、咲原の人たちに話したら大冒険に聞こえるだろうね」

「そうね。環境が違い過ぎて想像がつかないでしょうね」


 夕食を持ち込んだ食糧で済ませ、宿泊所で話をする。

 個室はなく、集合部屋だ。みんながくつろいでいる。

 交代で見張るため、先に寝ている者もおり、静かにしている。

 館岡みずきは軽装甲車輌で寝ている。


「夜もいろいろな鳴き声が聞こえてくるね」

「夜行性の動物が多いから、夜もにぎやかね」

「外に出たら危ないかな」

「こういうところでは室内にいないと危険ね」

「そうだよね。呑気に夜空を見上げるのはやめておくよ」

「そのほうがいいわ。ここは人間よりも野生生物の世界だからね」


 怜良は優にそう話す。


「明日は道がちゃんと続いているといいね」

「この村の人たちの話では、道自体はちゃんとあるらしいわ」

「それなら車で行けるね」

「ええ。でも村人もほとんど近づかない場所らしいから、道を切り開かないと進めないかもしれないわ」


 このような場所では道路はすぐに植物が覆ってしまう。


「時間がかかりそうだね」

「距離は近いけど、ところどころでは停車して草を切り払わないとだめでしょうね」

「舗装はされてるの?」

「ええ、舗装道路が続いているらしいわ。五百年以上まえの道路だから痛みが激しいでしょうけど、前世界の建造物はしっかりしてるから、道路も通行自体は大丈夫だと思うわ」

「こんなところに付き合ってもらってごめんね」

「いいのよ。旅行だと思えば貴重な体験よ」

「後になって楽しい思い出話ができるといいね」

「そうね」


 話をしたあと、優は眠りに落ちた。




「それじゃ、出発しましょう」


 早朝、怜良が合図を出して車列が動き出す。

 この辺りはもう周囲は植物が生い茂っている。

 多数の川や湖があり、人間が住む場所とは思えない。


 ところどころから見わたせる景色は、どこまでも美しい自然の様子を見せてくれる。

 木が沢山生い茂っており、鮮やかな鳥も沢山いる。

 無数の湖や川のきらめく水面が眩しい。

 低木の緑豊かな森林が見渡す限り続き、大自然を感じさせる。

 優はこの世のものとは思えないその美しい景色に見とれ、感動していた。




 廃棄処理施設跡地はやや高台にあり、そこまでは湖の合間を大きな道路が走っている。

 どうやら道路が水没することはないようだ。

 植物が生い茂っているので見通しは悪い


「おい、ジャガーがいるぞ」

「どこ?」

「ほら、左側だ。二メートルくらいあるんじゃないか」

「あ、ほんとだ。見えにくいんだね」


 木の間の離れたところに大きな猫がいる。ジャガーだ。

 こちらを見ている。

 毛並みが美しい。光沢がある。


「すごいな。初めて見たよ」

「私も初めてだ。他の大陸では似たようなのを見たことがあるが、半分くらいの大きさだったからな。あれは体重が百キロは超えてるだろう」

「ここにいる生き物は大きいよね」

「ああ。毒蛇じゃないが、十メートル級の蛇もいるらしいから、優は丸呑みされちゃうぞ」

「ええー、その時は助けてね」

「一旦飲み込まれてから助け出すとするか」

「やめてよ。溶かされちゃうから」


 そんな会話をしながら進む。

 時々車列が止まり、道をふさぐ倒木や大きな草を取り除く。

 スムーズには進めないので時間がかかる。

 脇道は舗装されていないので、進入すると戻れない可能性がある。

 うっかり脇道を進めば、ぬかるみにはまったり突然道が湖や川になっていて転落の危険がある。

 水のほとりにはワニやピラニア、エイなどがいて危険だ。刺激を与えると襲われる。


 そうして五時間ほどかけて進んでいくと、高台になり始め、建造物が見えて来た。


「到着だよ。そこが廃棄処理施設跡地だ。この大陸で最大の処理施設だったところだよ。五百年以上放置されてきたところだ」

「ドローンでの解析では周囲には誰もいません」

「わかったわ。みんな、建物が傷んでいると思うから、気をつけて」


 マリアと館岡みずきからの知らせで、怜良たちは目的地に到着したことを知った。

 さらに進んでいくと、塀が見えてくる。入口のようだ。

 入口は大きく、扉は壊れていて外れている。草と木が生い茂っているその入口を通り過ぎ、車列はゆっくり進む。

 塀がどこまでも続き、施設が広大であったことがわかる。さらに進んでいくと、やがて巨大な建物が見えてきた。建物からは高い塀が伸び、ここが収容施設であることがわかる。


 入口らしき場所が見え、その前が広く開けている。


「ここが入口だと思うわ」

「わかったわ。全車停止してください。ここからは下車して徒歩で進みます」


 怜良の合図で車列は停止する。警護隊も下車してきた。保護官たちも下車する。

 入口といっても木や草が生い茂っており、大きな鉄の扉が壊れて外れている。


「ここからは我々特等男性保護官が進んでいきます。警護隊は車輛の警護をお願いします。館岡さんは車輛でドローンの操作と報告をお願いします。全員、準備してください」


 怜良が指示を出し、全員が下車した。

 特等男性保護官たちは戦闘スーツを着用する。武器を装備し、薬や水、食糧なども携帯する。

 館岡みずきは一旦ドローンを回収し、整備している。何やら色々なタイプのドローンを出している。


 警護隊は簡易な陣地を構築している。長時間の滞在になるので、それなりの形にしている。


 特等男性保護官たちは武器のほかに、ロープなども携行し、音源再生システムの簡易設備も携行していく。場合によってはその場でデータ処理する必要があるかもしれないので、持ちこむことになっている。

 優は巨大な建物を見上げる。

 全員の準備が整った。


「それじゃあ、進みましょう。優くん、前に出ないように気を付けてね」

「うん、わかったよ」


 館岡みずきを装甲車輌に残し、怜良たち特等男性保護官と優は建物内部に進入した。


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