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59 前世界の文化

 優の話を聞いた田代加代たちは緊張した表情で沈黙している。

 そんな中、中森弥生が声を出した。


「その言い方だと、まるで優は現世界の人間じゃないみたいに聞こえるな」

「そういうことじゃないよ。現世界に罰の原因があるとしたら、狂暴化症状の軽減効果を発揮するにはその原因がない人間であればいいだけのことだから、現世界の人間でも可能なはずなんだよ。

 怜良さん、ジュースのお代わり、注文していい?」

「ええ、いいわよ」

「店員さーん! リンゴジュースください!」


 全員の表情が厳しくなる。

 怜良はジュースを持ってきた店員にその場で金を払い、優は手を綺麗に拭いてジュースを受け取り、美味しそうに飲む。

 中森弥生が話を続ける。


「優。もしかしてその原因というやつには心当たりがあるのか」

「ないとは言えないね」

「どんな内容なんだ」

「まだはっきりとはしていないし確信もないから断言できないけど、推測はしているよ」


 金城みずきたちは周囲を確認する。

 他のスタッフや警護官たちは、もともと会話を聞かれないように他の店に入らせている。だから簡素なこの店には今はほとんど客はいない。

 優は吞気にジュースを飲んでいる。


「その推測をいってみろ」

「さっきの話で言った現世界に罰の原因があるかも、ってことだけど、それを現世界の罰の原因と呼ぶよ。いつも頭の中ではそう呼んでいるから。

 それでね、僕の歌が狂暴化症状に効果があるなら、少なくとも僕には現世界の罰の原因がないってことだよね。

 それなら、僕と他の人との違いを考えれば分かるんじゃないかな」

「何が違う」

「僕は男。みんなは女。でもそれは原因じゃないよね。他の男性の歌には効果がないから」

「そうだな」

「僕は子供。みんなは大人。それも原因じゃないよね。同じく」

「そうだな」

「僕は歌が上手。でも他の歌手の歌には効果がないよね。だから違うと思う」

「そうだな」

「僕はアルタモードを使う。他の歌手は使えない。だから候補の一つだね」

「……そうだな」

「でもね、それよりも、前世界のことが僕は好きなんだよね。僕のなんとなくの感覚なんだけど、それが大きな違いだと思うよ。多くの人は前世界が好きじゃないよね」

「それを言うなら私は前世界の武器が好きだぞ。それに前世界の研究者も世界には大勢いる」

「うん。だからね、僕は思ったんだ」

「何を思った」


 全員が息を飲む。


「僕は前世界の文化が好きなんだ。歌は文化でしょ?」


 それを聞いた中森弥生たちは全員が立ち上がった。


「怜良! ここを出るぞ!」

「みんな、すぐに車に乗って!」

「警護とスタッフは置いて行け! あとから連絡すればいい!」

「優くん、車に乗ってちょうだい」


 全員が店を出てバタバタと車に乗り込む。

 怜良に手を引かれて車に乗せられた優はきょとんとしている。

 中森弥生たちは車を発進させ、五台の車は猛スピードで東に向かう。この世界に公道上のスピード制限は存在しない。


「どうしたの、みんな!?」

「いいから、少し静かにしていてね」


 怜良が優の手を握ってなだめる。


「カルラ! 状況を教えてくれ!」

「盗聴は大丈夫よ。スタッフと警護の通信を傍受してるけど、今のところ大丈夫よ。広域警戒でも何も動きはないわ」

「怜良! スタッフと警護には後から来るように伝えろ!」

「ええ、もう伝えたわ」

「とりあえずは安心か。とにかく走るぞ」

「走りながら対応を考えましょう」


 優はきょとんとしたまま、怜良たちは深く息をついた。


「まずいぞ。世界中から狙われるぞ」

「ええ。脱出する?」

「どうする怜良」


 中森弥生と金城みずきが怜良に聞く。


「脱出はしないわ。いま帰国しても侵攻を受けるだけよ。出発前に状況が逆戻りだわ」

「それじゃ五大勢力の力が及ばないところに逃げるか」

「それってアギラ大陸のことでしょ」

「とりあえずならあそこしかないだろう」

「何言ってるのよ。一番危険じゃない」


 三人が話すのを、意味が分からず優はポケーとして見ている。


「ピコもカルラも店の話を聞いていたわね」

「聞いていたよ。大変なことになったね。さすがにこの展開は予想外だよ」

「そうね、本当に。これは深刻な事態ね」


 怜良の言葉にハッカー二人が答える。

 優は何がなんだか分からない。


「ねえ、みんなどうしたの?」


 優にとっては当たり前のことを話しただけなので、なぜみんなが慌てたり深刻な顔をしているか分からない。


「優くん。もうここまでの事態になったから話すけど、優くんが話したことはとても重要なことなの。でもその詳細を知るのは優くんしかいないから、色んな国が優くんを手に入れようとするのよ。私たちは優くんを守るためにどうしようか、今から考えるの」


 怜良は深刻な感情を抑え、優しい表情で優に言う。

 優の話の内容は、優を世界のスターにしても危険を回避できないほどの重要性があった。


「そんなに重要なことだった?」

「ええ。とても」

「そうなんだ」


 優は視線を落とした。


「もう公演旅行は終わり?」

「そうね。そうせざるを得ないわね」


 怜良の言葉を聞いて、優は悲しそうな顔をした。

 優は言う。


「僕のせいで、ごめんね」

「優くんのせいじゃないわ」

「ううん、せっかくみんなが計画してくれたのに」

「優くんは気にしなくていいのよ」


 怜良は優の手を握ったまま、優しく優に言う。


「この国を出るの?」

「そうね。そうなるわね」

「そっか」


 優は再び下を向く。

 しばらく沈黙が流れると、優は口を開いた。


「行きたいところがあるんだ。そのあとじゃダメ?」


 優が意外なことを言うので、怜良たちは驚いた。


「行きたいところってどこ?」

「また今度の機会に行こうと思っていたんだけど、もう来れないかもしれないなら行っておきたいんだ。アルタ・リージェンスの生家に」

「アルタ・リージェンス……」


 怜良は優の言葉を考える。


「アルタ・リージェンスの生家は、四番目の公演場所のあとに通過するあたりの位置よ」


 カルラが答える。


「遠いな」


 中森弥生がつぶやく。まだ最初の公演を終えたばかりだ。三千キロ以上の距離がある。


「どうしてそこに行きたいの?」

「さっきの現世界の罰の原因の話しがあったでしょ。そのときにアルタモードのことも言ったよね。

 僕の感覚でしかないんだけど。アルタ・リージェンスは現世界の罰の原因の話に何か関連があるんじゃないかって思ってるんだ。

 それを確認しておきたくて。もう来れないなら」


 優は怜良に真面目な表情で話した。


「行くとしても日数がかかりすぎるぞ。公演を飛ばして行くならエルス国政府が黙っていない。飛行機なんてもってのほかだ」

「そもそも生家なんてまだあるの? 三百年前の人よね」


 中森弥生と金城みずきが話す。


「今はそこは記念館と研究施設になってるわよ。いま調べたけど、政府管轄になってるわ。どうやら優くんのビデオ公開以来、研究を再開したみたいね。過去に随分と研究した形跡があるけど」


 カルラが情報をみんなに伝える。


「どうして政府が研究しているの?」


 怜良が聞く。


「ええっとね。……どうやらアルタ・リージェンスが死亡した後すぐから研究していたのね。そして、アルタモードを何度も起動して調査をしたのね。それから……どうやらアルタ・リージェンスは何かを書き残したようね。その研究をした形跡があるわ。でも機密情報になってるわね。機密にするようなことがあるのかしら」

「そうなのね。わかったわ」


 怜良は悠翔天皇が言っていた「解放者」「救世主」の研究のことだとわかった。

 救世主の認定はエルス国にとって大統領令によるほどの重要事項だ。そして未だに優の救世主の認定が公開されていない。数ある候補者の中から救世主の認定は初めてで、アルタ・リージェンスの死後からの研究に基づくなら三百年来の出来事。そしてその研究は機密情報で、優の認定以降に研究の再開。

 優を連れて行くにはあまりにも危険が大きすぎる。そのまま監禁され怜良たちは強制退去、もしくは逮捕処刑の可能性もある。

 怜良はその危険を重視した。


「そこに行くのは危険ね」

「そうだな。研究が機密情報に指定されている政府施設に行くなんて、いまは逃げようとしてるのに全く逆だ」


 中森弥生が言う。


「どうせピコたちはもう考えているんだろう?」


 目黒愛美が突然会話に回線で割り込んできた。会話は全員で共有している。


「あはは。目黒はいつも鋭いね。伊達に付き合いが長くないね。もちろんそうに決まってるじゃないか。こんなヤバそうなネタ、世界中の仲間が涎を垂らして答えを待ってるよ」

「そうね、当たり前ね。何のためのハッカーなのよ、ってことね。普段ならちょっと面倒くさいけど、今は優くんがいるからね。こんなラッキーは二度とないわ」


 怜良たちはピコたちの反応を聞いて、またかと思った。


「そういうわけだから、優くんの願いをみんなで叶えようじゃないか。こんな機会はもう二度と来ないからね!」

「じゃあ、計画を考えましょうか。侵入方法は私が何とかするわ」


 ピコたちがやる気を見せる。


「ちょっと待て。もしかして私たちにその施設に侵入しろって言ってるのか」


 中森弥生が低い声で言う。


「そんな固く考える必要はないよ。ちょっと散歩に行く感じだよ。なんたって誰よりも君たちは神の罰の解明に手の届く位置にいる人間なんだからね。これは世界の人々のための崇高な行動だよ。……多分」

「そうよ。特等男性保護官ともあろうものが、ちょっと神経質なんじゃないの? 別に大統領に話して正面から入ってもいいのよ」

「何を言ってるんだ。それよりも優の身の安全だ」

「それは大丈夫よ。どうせこの国から逃げてもいつか追い詰められるわよ。あなたたちが止む無く自分の国から飛び出したように、もう優くんの逃げる場所なんてないわ。それとも本気でアギラ大陸に逃げ込むつもり?」


 中森弥生は返答が出来ない。怜良が言う。


「私たちのやるべきことは、何よりも優くんの身柄の保護です。だからそれが最優先。どんな計画であろうと、それが蔑ろにされるなら従うことはできないわ」

「それはそうよ。でもね、もうこの国とあなたの国以外では、危険は変わらないわ。お店での優くんの話がわずかでも嗅ぎつけられれば、地の果てまで世界中から追われるわ。優くんに一生逃亡生活をさせるつもり?」

「まだ発覚していないわ。それにアルタ・リージェンスの研究施設に行ったからといって優くんの安全が向上するわけじゃないわ」

「それは行ってみないと分からないわよ。エルス国政府が欲しいものが手に入れば、それを取引道具にして優くんの安全を買い取ることもできるかもしれないわ」

「全て仮定の話よ。そこに優くんの安全を懸けるわけにはいかないわ」


 怜良は譲らない。特一級要人統括保護官として、世界中に逃げ場所がないなら曙国に帰国して軍隊を創設し、総動員を命令して侵攻する国には宣戦布告をすることも辞さない覚悟だ。どうせ人類は滅亡する。滅亡する最後の日まで優を生かす必要がある。それが悠翔天皇たちが怜良に課した特一級要人統括保護官の任務だ。

 そこに優が声を上げた。


「ねえ、聞いてくれるかな、みんな」


 優の落ち着いた声に、怜良が振り向く。


「僕は自分の立場がよくわかってないんだ。だから何も意見を言っちゃいけないかもしれないけど、さっきからの話を聞いていると、みんな僕のことを守ろうとしてくれてるんだよね。しかも僕が思うよりも僕の立場は安全じゃないんだね」


 みんな黙っている。


「でもね、僕は自分の安全にはあんまり興味ないよ。こういうことは言っちゃいけないんだろうけど。今回のこの海外ツアーにしても、僕は自分よりもみんなの無事の方が大事だよ。僕が歌っているのも、怜良さんが喜んでくれるからだよ。だから有名でなくていいし、どこかの田舎でのんびり小さく暮らしていていいんだ。

 みんなは逃亡するとか危険が大きいとか色々言ってたけど、予定通り公演を続けちゃダメなの?

 僕はそれが一番いいよ。みんなとこうしてこの広い大陸を車に乗って、方言が強くて言葉が通じないような道端の食堂でご飯食べて、さびれた宿泊施設で寝て。

 この大陸に来て、僕はとても楽しいんだ。それはみんなが一緒にいるからだよ。僕が望むのは僕の身の安全じゃなくて、みんなとこのツアーを楽しく過ごしていくことなんだ。

 だからこのままツアーを続けていくのはダメなのかな」


 優の言葉に怜良が考え込む。


「随分と深刻だね、みんな」


 ピコが言う。


「当たり前だろう。優を守ることが我々の任務だ」


 中森弥生が答える。


「でもそもそも想定が偏ってるよね」

「どうしてだ」

「だってね、みんなはさっきの店の話から始まってるけど、まだ何の反応もないんだよ。今の状況はみんなが今朝起きた時と何も変わっていない。今頃スタッフも警護官も大慌てでみんなを追いかけてるよ。置いてけぼりにされたからね。

 最悪の想定をするのは理解できるけど、まだ何も状況は悪化してない。優くんの言うようにツアーを最後まで続けて一向にかまわない。今現在の客観的状況はそういうものだよ。

 優くんは店でみんなに驚くべき内容の話をしたけど、優くんは今思いついたんじゃなくて前から頭の中にあった。だから突然みんなの行動が変わって驚いているんだよ。

 潜在的危険は増大したけど、その対処は変わらない。もともとできることは限られているからね」


 怜良は考え込んでいる。金城みずきがピコに聞いた。


「その場合、アルタ・リージェンスの研究施設はどうするの」

「それはどうとでもなるよ。カルラが言ったけど、別に大統領に話して覗かせてもらってもいいんだ。優の話を明かす必要はないし。その場所に到着する前にまだ公演は三回ある。その間に狂暴化症状の改善について進展があるかもしれない。判断するのはその結果を見てからでもいいんじゃないかな」


 沈黙が訪れる。

 怜良は優を見ると、優は下を向いている。

 怜良はため息をついた。


「わかったわ。その方針で行くわ。カルラ、安全の計算をしてくれる?」

「ええ、今までと同じよ。みんなが店での話をしなければ、とりあえずは大丈夫よ。まだ誰も気づいた様子はないわ」

「わかったわ。アルタ・リージェンスの研究施設の件は今は後回しにするわ。ツアーを続けていく方針で行きましょう。脱出のことは考えておくわ」


 怜良の言葉を聞いて、優は怜良を見た。怜良は微笑んで優の頭を撫でた。





「みんな、来てくれてありがとう!」


 優は二番目の公演を始めた。

 フィールドには戦闘スーツの怜良たちが多数待機している。


 観客は騒いでいるが、前回ほど興奮はしていない。

 前回の暴動を受け、前回とは演奏の系統を変えることが観客に伝えられているためだ。

 当然ながら警護の数は大幅に増強されている。


 優は穏やかな曲を多く選択し、公演は順調に進行している。

 優の綺麗な歌声と演奏に観客は満足し声援を送っている。

 優は前世と前世界の歌を披露し、様々な歌詞を歌った。


 そして公演会場の地下では前回同様に狂暴化症状の実験が実施されている。

 コニー・モスを始めとして多くのスタッフが準備している。今回の患者数は前回の二倍だ。


「反応が現われました。前回と同じです」

「何も変わらないかしら」

「今のところ同じです。会場内の被験者の体内モニターも変わりません」


 みんな状況の観察を続けている。

 そして前回の実験結果を踏まえ、前回の三曲目や恋愛の歌を多く歌うよう、優はエルス国政府に依頼されている。


「次が前回の三曲目の歌になります」

「しっかり観察するのよ」


 全員が緊張する中、前回の三曲目の曲が始まった。


「前回と同じ反応が現われました!」


 コニー・モスはステージ四の患者に話しかける。


「聞こえる? 聞こえるならこっちを見て」


 患者は視線を彷徨わせているが、やがてコニー・モスを見た。


「私は医者よ。何か話してみて」


 コニー・モスが穏やかに話しかける。

 患者は怯えた表情をする。


「…………ゆめ…………」

「ゆめ? 夢ね。夢がどうしたの?」

「…………ゆめ……かなしい……」

「悲しい夢を見たのね。どうして悲しいの?」

「…………」

「言葉を話してみて」

「…………はなれて……いく…………」

「離れていくのね。何が離れていくの?」

「…………」


 患者は視線を彷徨わせ、涙を流し始めた。


「反応が消えていきます。曲が終わりました」

「わかったわ。続けましょう」


 他のステージ四の患者も今回は言葉を発していたが、意味は分からなかった。

 前回同様、恋愛の歌のときには反応が現われるが、言葉を話すことはなかった。





「見渡す限りの荒野だね。映画みたいだ」


 優は車の窓を開けて、顔に風を受ける。

 初夏の乾燥した空気が爽やかだ。


 二番目の公演を無事に終わらせ、一行は東に走る。

 山脈を抜けた後には荒野が続く。

 どこまでも続く同じ景色のなか、真っ直ぐに伸びた国道をひたすら走る。


 車内には音楽が流れる。

 優が選んだ前世界の曲だ。

 穏やかなその曲は、みんなを和ませる。


「こうして聞いていると、いい曲に聴こえるな」

「ええ。それが不思議よね。そんな風に思ったことはないんだけど」


 中森弥生たちがそう言う。

 遠くに地平線が見えるだけの景色をただ走りながら聴いている。


「みんなそう言うよね。僕が歌う前は誰も関心を持たないんだよね。怜良さんもそうだったよね」

「私は優くんと一緒に聴いているのが好きなのよ」

「そういえばいつも一緒に聴いてたっけ」

「そうよ」


 怜良は優に優しい笑顔を向ける。

 優はその笑顔を見て、にこにこ笑う。


「優の言う前世界っていうのはどんな世界なんだ? 学校で習った時にはこの世の終わりみたいな話だったが」

「神の罰が下される嵐のような世界だって言われてたわよね」


 二人は前席でそんなことを言う。


「そんなとんでもない世界じゃないよ。みんな普通に生活してたよ」

「そうなのか? 神の罰が下るぐらいだから、悲惨な世界だと聞いてるぞ」

「それは偏見だよ。確かにそういう面もあったけど。何もかもが違うようなことを書いている本が多いけど、そうじゃないよ」

「どんな風だったんだ?」

「簡単に言えば、みんな元気だったかな。活気があるというか」

「この時代も元気じゃないか」

「この時代の元気とは種類が違うんだよ」

「種類?」


 いつまで走っても景色が変わらない。

 みんな車内で思い思いに過ごす。


「そう。感情がね、みんな豊かだったんだ。ほら、この歌の歌詞だって違うでしょ」

「よくわからないな。歌詞が違うのは確かだが、想像があんまりつかない」

「調べているとね、前世界の歌の歌詞はね、日常を歌っているんだ。だから歌詞に出てくる様子は前世界の日常なんだよ」

「こんな日常だったのか? これの一体どこが神の罰が下るようなものがあるんだ」


 中森弥生は不思議そうに言う。


「そうなんだよね。どう考えても神の罰が下るような世界じゃないんだよね。不思議でしょ?」

「そうだな。だから優はあんな話をしたんだな」

「そうだよ。前世界の人々は生き生きと生活してたんだ。クローン人間たちだって不幸な扱いが多かったけど、彼らが生み出したものは前世界の人々にとって生活の中心だったんだよ」

「イメージが随分と違うんだな」


 晴天の同じ景色が続く中、怜良たち一行はどこまでも走り続けた。

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