表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/67

56 世界ツアー

「金城さんて、もしかして料理は得意じゃない?」


 優は優邸で、金城かねしろみずきと昼食をとっている。

 二人の皿に乗るのは、焦げた肉野菜炒めだ。


「優くん、人は料理の腕前で価値が決まるんじゃないのよ」


 金城は目が泳ぎながら言い訳にならない言い訳をする。

 優は冷蔵庫に行き、マヨネーズを取り出す。


「そうだよね。それにほら、これをかけると焦げても美味しくなるんだよ」


 そう言って優はマヨネーズを焦げた肉野菜炒めにかける。

 「かける?」と優が聞くので、金城も頷いてマヨネーズをかけてもらう。


「うん、美味しい。お昼ご飯作ってくれてありがとう」

「どういたしまして。優くん、すごいわね。こうすると美味しくなったわ」


 金城が楽しそうに笑う。

 今日は怜良が皇宮に行ってしまったので、金城が優の面倒を見ている。


「金城さんはどんな武器が得意なの?」

「私は格闘術と剣術よ」

「え、剣術って、刀とか使うの?」


 優が身を乗り出して聞く。優は前世に刀で活躍する小説をいくつも読んでいたので、刀と聞くだけでロマンを感じてしまう。


「刀なんてよく知ってるわね。私が使うのは刀とか剣ではなくて、電子ブレードよ。特殊装備ね」

「もっと凄そう!」


 どう考えてもS Fな武器の名を聞いて、優は興奮した。

 「光ったりするの?」と聞いたりする。


「光ったりもするわね。出力次第よ。扱いどころが難しいから、他の装備と組み合わせて使うのよ」

「へえ~~~」


 優が目をキラキラさせるので、「食事が終わったら見せてあげるわ」と金城は優に戦闘訓練を見せてやることにした。


 「キイイイイイイン」と高音を立てて、手に持った持ち手から鈍い光の刃が素早く生える。持ち手からは薄刃が伸び、それに沿って光の刃が生えている。


「これが電子ブレードよ。刀身は百七十センチね」

「すごい!」


 黒の戦闘スーツに着替えた金城みずきが、地下訓練場で電子ブレードを起動させる。

 優は大興奮だ。

 金城はスイッチを一旦切る。


「普段はやらないけど、今日は性能を見せてあげるわね」


 金城がそう言うと、短い鉄骨を台車に横倒しにして乗せてきた。太さは一抱えもある。


「見ててね」


 再び電子ブレードのスイッチを入れ、金城が電子ブレードを振り下ろすと、抵抗なくすっぱりと切れた。

 

「すごい! 本物だ!」


 優が興奮して叫ぶ。金城は「ふふふ」と笑う。


「これはね、ごく短時間だけ起動させるの。エネルギー消費が大きいからね。だからいつもはスイッチを切っておいて、切る瞬間だけ起動させるのよ。接近戦で使うけど、使いこなすのは難しいわ」


 金城が優しい笑顔で説明する。


「そんな武器を使うなんて、すごいんだね」

「そうかしら。お金がかかるけど、少し訓練を見せてあげるわね」


 金城は訓練場に自動射撃のセントリーガンを四台用意した。

 訓練場は広いのでかなり距離がある。


「優くんは隣の部屋から見ててね。あの銃を破壊するところを見せるわ」


 そう言って優を隣室に入らせ、モニターを見せる。

 金城は黒いモニターシールド付の光沢のある黒いヘルメットをかぶり、電子ブレードの柄を持つ。


「じゃあ、やるわよ」


 金城がそう言って、セントリーガンを起動させる。優のモニターにはセントリーガンの照準映像が映し出された。

 四台のセントリーガンが金城を照準に捉えると、高速連続発砲が始まる。地面にも着弾し爆発する。


 発砲が始まると、金城はスーツのアシスト機能で目にも止まらない速度で弾道を避け、セントリーガンに接近すると、光る刃の電子ブレードでセントリーガンを真っ二つにする。

 爆発はしないが、セントリーガンの発砲が止まる。

 銃撃を続けるセントリーガンを次々と破壊し、四台全ての発砲が止まった。


 金城はヘルメットを脱ぎ、隣室のドアを開けた。


「どうだったかしら。少し地味だったかしらね」

「ううん、すごいよ! 想像以上だったよ!」


 前世の小説のような能力をみて、優は目をさらにキラキラさせて金城を見た。

 金城は「うふふ」と笑って、優の頭を撫でた。





 金城が優に電子ブレードを見せている頃、怜良は皇宮を訪れ、悠翔天皇と会談していた。


「作戦の効果は予想通りですか」

「ああ、今のところうまくいっておるな」


 悠翔天皇は紅茶を飲む。


「ようやく全ての地域との交渉が終わりましたか」

「うむ。しっかりそなたの要求通りに条件を飲ませたぞ」

「ありがとうございます。まずは第一のヤマは乗り越えましたね」

「エルス国はご機嫌斜めだったが、訪問順位を一位にしたから納得したよ」


 怜良と悠翔天皇は庭園を見ながら話す。

 ここは優が皇宮で歌を歌った部屋だ。


「こちらは特等男性保護官の追加とサポートの準備が間に合いました。情報のすり合わせをして、各自の役割とサポート態勢の確認も終わっています。もう少しで足並みが揃うでしょう」

「そうか。いよいよだな。しかし思い切ったことを考えるな、そなたらは」


 悠翔天皇が笑う。


「私には考えつかないことです。いい仲間に恵まれました」

「そのようだな。こちらも外務省の連中はてんてこ舞いだ。そなたの指示の意味がわからなくていつも右往左往しておる」

「役人がそうなっているくらいなら、作戦はうまくいっているということですね」

「わたしも右往左往してしまうがな、わっはっは」


 怜良は紅茶のカップを持つ。


 怜良たちは半座みこの案を採用した作戦会議のあと、全員で具体的な計画を作った。

 それは「情報を開示してしまう」というものだった。


 現時点での優の身柄の危険の直接の原因は、その力そのものよりも、現実的には優の力が秘密である点にあった。

 そのことで意見が一致した怜良たちは、それなら秘密を無くしてしまおうと、次々と優の情報を世界に開示していった。

 外国語の歌のビデオをどんどん作って海外に公開し、「女性の心理状態に影響を及ぼすこと」もはっきりと明示し、それを「歌の奇跡」などと宣伝して、文字通り「奇跡の歌い手」として売り出すことにしたのだ。

 しかもそれは「女性が男性に恋をする」という内容を強調し、優をその疑似的な対象に仕立て上げて「世界の女性のアイドル、咲坂優」として売り込むことにしたのだ。海外向けの外国語の歌のビデオは、優が恋を語りかけるような作りが多くなるようにした。


 そうしてビデオ公開を続けていくと、エルス国以外でも狂暴化症状の一時的改善報告が相次いだ。これは遠征準備のために半座みこの依頼を受けたハッカー達が「火のない所に煙を立てる」ように狂暴化症状改善可能性の情報をこっそりと撒いていき、これに反応した各国政府が実証実験により明らかにしていったものだ。

 そしてその各国の成果をホームページに次々に掲載し、「治療に寄与するこのとのできる咲坂優」を強調し、各国の秘密協定をもってしても特定勢力による独占をできないように世界の世論を誘導していった。


 これにより各国政府は「市民からの要望による」優の歌の公演と病気治療のために、曙国に対して優の招請をするようになった。

 この招請に対して「やむなく」応じる形で、各国政府に恩を売る素振りで訪問に応じることにした。


 怜良たちがこのような「恩を売り、懇願されて訪問する」形をとることにしたのは、優の身柄の安全を確保するために各国の訪問において二つの条件を満たすことが目的だった。それは第一に常に優の身柄の場所や状況を海外に公開し続けること、第二に随行の特等男性保護官が護衛の武器を持ち込むことと曙国によるサポートを許可すること、という二点の条件を訪問先各国政府に承諾させることにあった。

 この二点を承諾しない国からの招請は拒絶することをホームページで宣言し、この二つの条件は「奇跡の歌い手は世界人類の財産であり、どの勢力も独占は許されない」との理由によるものであることを大々的に宣伝した。


 そうして各国からの招請が多数に上る状況が出来上がってから、怜良たちは「咲坂優の海外公演ツアー第一弾」を打ち出した。そしてその訪問先を「これから選定する」として、すぐには決定せず、各国の市民からの需要が高まるように機運を高めさせていった。

 狂暴化症状の治療については効果が未知数なので、「ツアーに付随して適宜治療をしていく」とし、治療計画を保障しない形で牽制する内容にした。これは公演ツアーを主軸とし治療を「随意」として優先順位を下げるための意思表明としたものだ。


 これに加えて「もしツアーの途中で何らかの妨害や加害があれば、直ちにツアーを中止して帰国する」と宣言し、後続の国からの牽制を引き出すようにした。


「だがそなたらの作戦には穴も多い。油断はできんぞ」

「はい。だからこその戦力です」

「もし優の影響力が過剰であったり神の罰の再発動が明らかになるような事態になったら、即座に帰国するのだぞ」

「はい。その場合には脱出を最優先にします。ただ事態は流動的ですが」


 怜良は紅茶を飲みながら答える。


「帰国する方が危険であれば、帰国せずに 海外で対応することになります」

「そうなるが、アテはあるまい」

「確かにそうですが、それを今から考えてもどうにもなりません。我々はまずは確実なところから埋めていきます」


 怜良は紅茶のカップを卓上に置き、庭園を見ながら答える。


「神の罰の再発動も、優くんの力も、何もかも分からないことばかりです。だから我々は海外で力を尽くしますので、その間、我々の成果を利用して外交をお願いします。侵攻の可能性のある国をできるだけ減らしてください」

「ああ、分かっておる。それからそなたの言うようにエルス国をできるだけコントロールしよう」


 怜良は半座みこの助言通り、手を組む相手をエルス国に決めた。


「今回はとにかく各勢力を一巡して、無事に帰国できれば目標達成です。狂暴化症状のことは二の次です。そう考えれば難度はそう高くありません」

「そうだな。とにかく生きて帰ってくることだ」

「我々は色々と考えていますが、優くんにとってはただの公演旅行です。海外に旅行に行けるから楽しみにしていますよ」

「そうだな。優はそれでいい。楽しませてやってくれ」


 悠翔天皇は微笑んで庭園を見た。





「それじゃあ、みんな、行ってくるからね」


 六月下旬。怜良たちが大型飛行機で第四市出張所から出発する日になった。

 咲坂家や咲原の村人、中学校の友人たちや先生など、大勢の人が見送りに来ていた。


「いってらっしゃい。無事に帰ってくるのよ」

「病気に気を付けてね」

「楽しんでおいで」

「帰ってくるころには世界のスターだね、お兄ちゃん」


 優は桜たちと挨拶を交わす。咲原に来て以来、長期の別れは初めてだ。


「優くん、ネットでいつもニュースを見てるからね」

「帰ってきたら、また沢山ビデオ作ろうね」

「無事に帰って来てね」

「皇女さまと仲良く過ごしているからね」

「優さま。どうかご無事で」


 女子生徒たちや天凛皇女とも挨拶を交わす。


「みんなお見送りありがとう。海外旅行、楽しんで来るよ。元気でいてね。九月の終わりに帰ってくるよ」


 優は元気に挨拶し、手を振って飛行機に乗り込んだ。




「わあ、浮かんだよ」


 優は飛行機に乗るのは前世を通じて初めてだ。

 だから窓にかじりついて景色を見ている。


「すごいね。男性保護局本部で見たのと同じだ」

「そうね。こっちは本物だから、楽しんでちょうだい」


 窓にへばりつく優を怜良が微笑んで見守る。


「いよいよ世界ツアーだね。三か月は長いけど、がんばるよ」

「まずは身体を壊さないように気を付けないとね」


 景色を見ながら怜良と優が話す。


「みんなもよろしくね」

「ああ、優のことは守るから安心しろ」


 飛行機には田代加代たち特等男性保護官十五名が揃っている。

 あとは現地にスタッフがスタンバイしている。

 今回大型飛行機を使用しているのは、持ち込む装備を積んでいるためだ。


「海外は色々とルールが違うから、優はちゃんと言うことを聞くんだぞ」

「うん、わかったよ。みんなに任せるから、安心して」

「エルス国は陽射しが強いから、日焼け対策からだな。時差もあるから横断は結構しんどいぞ」


 優たちは前世の北米大陸に相当するエルトラ大陸のエルス国西海岸からツアーを始める。そして東に進み、途中で狂暴化症状の治療実験をして、最後に東海岸の首都に至る予定だ。

 今回は前世の大西洋を中心に反時計回りに、エルトラ大陸から始めて四つの大陸の主要国を回る。南米大陸にあたるヨーメス大陸のファリア国、アフリカ大陸にあたるネバル大陸のナンガラ国、最後に欧州大陸にあたるメセト大陸のハイド国を訪問し、アジア大陸にあたるアギラ大陸を空路で通過して帰国する予定だ。

 どの大陸でも五回の公演を予定している。この世界の季節で雨季を避けているので、晴天が多い見込みだ。大陸間移動は飛行機を使い、大陸内は陸路だ。


「みんなは今回のどの国にも行ったことがあるの?」

「ああ。みんな主要国には行ったことがあるから、地理はわかっているぞ」

「怜良さんは初めてなんだよね」

「そうよ。優くんと一緒ね」

「楽しい公演旅行になるといいね」

「ふふふ。そうね。みんなで楽しい旅行になるといいわね」


 怜良は優と楽しく会話を交わす。


「海外では僕の歌は人気があるってクラスの人たちが言ってたけど、そうなのかな」

「ええ。優くんが公演するのを、みんな楽しみに待ってるわよ」

「そうなんだね。みんな喜んでくれるといいな」


 優は外を見ながら、この公演旅行で訪れる国を楽しみに想像していた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ