46 男性保護局本部
皇宮見学後は国立博物館を訪れ、案内に従って見学をした。広すぎて一部しか見学できなかったが、何度も訪れる場所なのでそれが普通だ。ちなみに前世界に関する収蔵品は事前に申請しないと見ることができない。中学生は未だ歴史の勉強をしていないことが多く、制限している。
そして班別の自由行動の時間になり、優たちは男性保護局本部にやってきた。
「それじゃあ、ここからは私が案内するわ。ようこそ、内閣男性保護局本部へ」
怜良が入口ホールで班員に言う。
班員は建物の中を見上げ、すっかりお上りさんだ。
「私について来てね。立入禁止区域があちこちにあるから、離れないでね。それから写真撮影はダメよ」
怜良がそう言って、優たちをぞろぞろ連れて行く。
怜良は、権限上は男性保護局では三番目の地位なので、職員の誰もが頭を下げる。怜良の上は内閣総理大臣と六勝だけだ。班員も優もそんなことは全く知らない。
受付が怜良に頭を下げ、エレベーターに乗り地下に向かう。
「ここはほとんどが地下施設になるわ。男性保護局は各行政区にある支部が教練や通常の運営の主体となっているの。だから通常は男性保護局本部の役割の中心は、統括人事、予算管理、外部との調整の他は、保護官任命資格試験の実施、警戒監視センター本部の運用、特等男性保護官の管理や支援ね」
怜良が説明をする。
「特等男性保護官なんて、見たことないです」
若林涼子が言う。
「ええ、そうね。海外任務が主体だから、国内で見かけることはほとんどないわね。海外赴任の成人男性や一時的海外在住の男児の保護をする期間限定の任務をこなす仕事だから、彼女たちの実態を知る人はほとんどいないわ。
警戒監視センターを見せることはできないから、今日は特等男性保護官の訓練施設を見せてあげるわ。その後は一通り簡単に本部内を見て回って、三階のカフェテリアでゆっくりしましょう。他の特等男性保護官の話を聞かせてあげるわね」
警戒監視センターには怜良や優が映し出されているので、優や生徒たちには見せることができない。
「すごいです! 特等男性保護官の訓練施設って、きっと男性保護局に勤務しても見れないものですよね?」
「そうね。一等男性保護官になって、さらに特等男性保護官を志望する人だけが、普通は見れるわね」
「すごいよみんな! すごいことだよ! しかも他の特等男性保護官の話も聞けるって」
「うん! こんなこと、これから経験できないよ」
「今日は来てよかったー! この修学旅行で一番の経験だよ」
班員が騒ぐ。優の周りには特等男性保護官しかいないので、優にはありがたみがなく、ぼーっとしている。特等男性保護官といえば、一番の印象はいつも首都タワー饅頭本店の自慢話だ。
「怜良さんは、もしかして特等男性保護官なんですか?」
関原このみが、ふとそんなことを聞いた。
「ええ、そうよ。一般市民には国内向けに一等男性保護官を名乗っているわ」
「すごいです! 全然知らなかったです! 特等男性保護官て、確か百人くらいしかいないんですよね」
若林涼子が叫ぶ。
「よく知ってるわね。その通りよ。現在もほとんどは海外任務についているわ」
「じゃあ、国内では貴重な一人が怜良さんなんですね」
優は以前に怜良が特等男性保護官に任命されたことを知っていたので、特に感慨はなく、まだぼーっとしている。
「ちょっと優くん。なんでこんなすごいことなのに、そんなぼーっとしてるのよ」
「ああ、ごめん。ちゃんと聞いてるよ」
苅橋希が優に言うが、優はぽやぽやしたままだ。
「それじゃあ、さっそく訓練を見ていきましょうか。一等男性保護官は基本的に武装しないけど、特等男性保護官は海外任務だから、武器の使用が出来なきゃダメよ。射撃訓練から見ましょう」
そう言って大きな扉の部屋に入った。そこには何もない、高さのある広い空間が広がっている。
怜良たちが使用するので、今は貸し切りにしてある。
「ここがそうなんですか?」
「ええ、そうよ」
塚原ひよりが聞く。
怜良が空中に半透明の操作盤を呼び出し、操作すると壁から沢山の武器が陳列された棚が出てきた。
そこから握りこぶし位の大きさの黒い塊を手に取り、弾を込める。
「じゃあ、見せてあげるわ」
そう言うと、離れたところに一メートルくらいの射撃のターゲットが現われた。班員の横にはターゲットの拡大映像が現われる。
班員が驚いていると、怜良が前に出て、手の黒い塊をターゲットに向ける。すると塊から光が発せられ、ほぼ同時に爆発音とともにターゲットが瞬時に粉々に吹き飛んだ。
音や爆風、破片は大きく遮断されているので、室内でも鼓膜は損傷しない。しかしそれでも素人には大きな音と衝撃だ。
班員は驚いて腰を抜かし、へたり込んだ。
「今のは近距離対物銃よ。簡単に言えば爆弾を飛ばして、ターゲットを爆破したわ。人間相手には過剰な破壊力ね。照準は私の視野に現れるわ」
怜良は腰を抜かしている班員をそのままに、今度は棚から新たに片足くらいの円柱型の武器を抱え、大人の手のひらくらいの大きさのカセットをはめ込んだ。
「次は中距離対物狙撃銃よ。ここではターゲットとの距離は疑似的に作り出しているわ」
そう言うと、空中を含め十を超えるターゲットが現われた。
怜良が円柱をターゲットに向けると、光が連続して発せられた。
ターゲットが次々に爆発し、大轟音が響き渡る。
煙はすぐに排出された。
班員は立ち上がれない。
「それじゃあ、次は遠距離対物狙撃銃ね」
怜良は今度は二メートル程の円柱型の武器を取り出し、大きなエネルギーパックを装着した。
ターゲットが高い空中に現れた。
「実際の距離は再現できないから、威力だけ見せるわね。これは破壊のしくみが他とは違うわ」
そう言って武器肩に担ぎターゲットに向けると、大きな光が発せられ、ターゲットが蒸発した。
蒸発する瞬間はターゲットに眩いほどの強い光が発生したが、一切音はしない。
「こんな感じね。これが携帯型の基本装備よ。どうかしら?」
怜良が班員に声をかけるが、みんな床にへたり込んだままだ。
「大丈夫? ちょっと刺激が強かったかしら」
怜良は不思議そうな顔をして班員を見ている。
優は怜良の姿を見て、心に思った。
――怜良さんて、天然なんだよね。あれって、本気でみんながどうして呆けてるのか分かってないよね。中学生にいきなりあんな爆発を見せたら、そりゃ腰抜かすよ。
「怜良さん、みんな少し驚いているから、ちょっと休んでいい?」
「あら、そうなの? それじゃあ、一息しましょうか」
優は班員のところに歩み寄り、しゃがんで話しかけた。
「みんな大丈夫? びっくりしたよね。少しそのまま座っているといいよ。まだ時間あるからさ」
優は優しく微笑んだ。
すると若林涼子が弱弱しい声で言った。
「優くんは大丈夫なの?」
「ああ、僕は慣れているからね。普段からあんな感じの訓練は見ているしね」
優は第四市出張所の地下射撃訓練場の練習や、中森弥生特等男性保護官の前世界武器の実演などを日常的に見ているので、この程度の通常装備には全く驚かない。
「そうなんだ。男の子の生活って、大変なのね」
「普通の男の子の生活は、たぶん違うと思うよ」
優は一応誤解を解いておいた。
しばらくすると、班員は立ち上がり、正気を取り戻した。
「怜良さん、すいません。少し驚いてしまいました」
「いいのよ。まだ中学生だからしょうがないわよ」
などと、まるで班員が悪いかのように言う怜良を見て、優はため息をついた。
「他にも大型武器の性能や爆弾の爆発を見せようと思ったけど、ちょっと無理みたいね。気分転換に航空機のシミュレーターに乗せてあげるわ。空中散歩でもしましょう」
「はい。ありがとうございます。楽しそうですね」
怜良は部屋を出て、しばらく歩くと窓の多い部屋のドアを開けた。
いくつもの大きな金属の箱が並んでいる。
そのうちの一つのドアを開ける。
中には椅子が並んでおり、怜良の指示でみんなが座る。
「じゃあ、行くわよ。みんなベルトを締めてね」
そう言うと、立体映像に囲まれる。
先頭に座る怜良には操作盤が現われた。
「この操作盤で操作すると、飛んでいる状態が体験できるわ」
そう言って怜良が操作盤を操作すると、垂直上昇の映像とともになんと重力を感じた。
「わあ、なんか身体に圧力がかかります」
「なんか変な感じ」
「少し風が吹いているように感じるんですが」
班員が口々に話す。
「このシミュレーターはね、部屋が機械的に連動していて、空中での重力変化や速度を体感できるのよ。家で立体映像を流しても、そういうのはできないでしょう? これは実際に飛行機を操作している状態になるわ」
この世界では無人機が一般化しているが、旅客や救助などでは有人飛行となるため、特等男性保護官にはこのように有人飛行訓練が必要になる。
「それじゃあ、高度を上げるわよ」
怜良がそう言うと、後方に重力がかかる。斜め上を向いている。
視界は雲に向かい、映像に現れる高度の数字がどんどん増える。
やがて雲を突き抜け、抜けるような青空が広がった。
眼下には雲海が広がる。
「わあ、すごい! 日差しが暖かく感じます」
「ほんとに飛んでる気がするね!」
班員が騒ぐ。優は前世の記事で読んだ遊園地のアトラクションがこんな感じだったんだろうかと思った。
「私はこのシミュレーターが好きで、よく訓練と称してこうやって散歩を楽しんでいたわ。そうしたらいつの間にか航空機試験には合格していたわね」
怜良が自分の体験を話す。
「男性保護官になるのは大変ですか?」
若林涼子が聞く。
「大変であることは間違いないわね。でもそれは、辛いというのとは違うわ」
「そうなんですか?」
「ええ、そうよ」
怜良が班員に語る。
「男性保護官の仕事は、どこまで行っても人を守ること、男性を守ることよ。これが自分を守ることが仕事だったら、辛いと思うわ。男性保護官は男児や男性を守ることだから、同じ負担や苦労でもその結果が違うの。だから普段から気の持ち方や感じ方が違うわ」
雲海を見下ろして飛行を続ける。
「料理の技術を習得するときにも、喜んで料理を食べて健康に育つ男の子を想像すれば、訓練は楽しいものになるわ。男性保護官はやりがいという点が他の仕事との違いで、それこそがほとんど全てよ。
私が一等男性保護官になって初めての保護対象が優くんだけど、優くんが健康で幸せに育ってくれているのを毎日みているから、私は男性保護官としての幸せと誇りを感じているわ」
怜良の話を聞いて、班員は男性保護官という仕事への憧れを強くした。
その後、怜良は背面飛行や様々な飛行モードを実演し、女子生徒たちに飛行機操縦を体感させた。
そして怜良が悪い癖を出す。
「それじゃあ、最後は強行海上救助モードで締めるわよ!」
怜良がそう言うと、突然景色が嵐に変わった。そしてエンジン音がうなりを上げ、旋回急降下する。
「わああああああ!」
班員が悲鳴を上げる。側面への強いGと浮遊感が襲う。
機体が激しく揺れる。嵐の風に煽られ、操縦が安定しない。
数秒後、海上が見えてきた。海には男児が救助ボートに一人しがみつき、嵐の中、大波に揺られている。
「行くわよ! ボートの上空に機体を安定させるまでを見せるわ!」
怜良が叫ぶと、エンジンの轟音とともに機体がさらに大きく揺れ、あっという間に近づく海上でのホバリングに急変化する。
強烈なGがかかり、班員が「ぐえっっ」とカエルがつぶれたような声を出す。
そのまま嵐の中で海上での飛行機の安定に成功し、揺れながらも滞空したところで強行救助モードが終わった。
本当はこのあと、オート操縦に切り替えて救助実施までが訓練となっている。
海に飛び込むのは別の部屋での訓練だ。
立体映像が解除され部屋が明るくなる。
「みんな、どうだったかしら?」
怜良が笑顔で班員に話しかけるが、みんなぐったりしていた。
優は「怜良さん、相変わらずだね」と思った。
しばらく休んでから、怜良は本部の色々な場所を一通り案内して回り、三階のカフェテリアにやってきた。
「お疲れさま。ここで休みましょう。好きなものを注文していいわよ」
広く開放感のある場所で、窓側のテーブルにみんなで座る。卓上のタブレットで注文できるので、みんなは紅茶やジュース、ケーキを頼んだ。
注文品が運ばれてくると、みんなは椅子に深く腰掛け、寛いだ。
「今日はありがとうございました。本部の中を沢山みれて、楽しかったです」
「訓練施設がすごいのはよくわかりました」
「特等男性保護官になるのは大変なんですね」
班員たちは口々に言う。
「みんなも男性保護局に勤務するようになるかもしれないわね」
怜良がそう言うと、班員は男性保護官のことを次々と質問し始めた。
怜良は丁寧に答えていく。
優はそんな様子を、ボケーっとしながら眺めていた。
「優くん、久しぶりね」
一人の女性が声をかける。
「間宮さん。今日はここでの勤務なんですか」
「そうよ。これからはここで勤務することになっているわ」
身長百九十センチ。男性保護官にしては大型の特等男性保護官、間宮美幸が優に声をかけた。
「間宮さん、来てくれてありがとう。この子達が優くんの中学校のお友達よ。特等男性保護官の話を聞かせてあげてね」
「間宮美幸よ。特等男性保護官をしているわ。未来の後輩さんたちは、何が聞きたいのかしら。あ、これは色々グッズをもってきたわ。記念にどうぞ」
間宮は社交的な優しい態度で、紙袋いっぱいの男性保護局のグッズを班員に手渡し、話を始めた。班員はグッズを見て喜び、話を聞いて喜んでいる。
一頻り話をした後、怜良が女子生徒たちの相手をしていると、間宮美幸は優に話しかけた。
「優くん。これからは私が優くんの歌の公演の管理をするわ。よろしくね」
「そうなんですか?」
優は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、聞き返した。
「そうよ。優くんの歌の公演は男性保護局で管理するから、その部署が本部に設置されて、私が責任者になったの。だから今日こうしてここにいるのよ。もちろんそっちにも行くけどね。優くんに用事があるときは行くから、よろしくね」
間宮はそう言う。
「そう言えば僕の歌の事はそんな話になっているように小耳に挟んだ気がします。よくわからないけど、よろしくお願いします」
優は午前中に悠翔天皇の前で、本人そっちのけで怜良が話していたことを思い出した。
「優くんはいつも面白いわね。今日も大変だったらしいわね。頑張ってね」
「はい。ちょっと気が重いですが、何とかやってみます」
「うふふ」
間宮は楽しそうに笑う。
「え、優くんの歌は、やっぱり男性保護局で管理するの?」
塚原ひよりが優に聞く。
「ええ、そうよ。私が責任者よ。よろしくね、みんな。ちなみに担当部署名は、男性保護局公演管理部よ」
間宮が明るく女子生徒たちに言う。
「よかったね、優くん。どうなるかと思って心配していたから、ほっとしたよ」
「そうだね。あれをほっとくことはできないよね」
「私たちも安心だわ」
塚原ひより、関原このみ、苅橋希がそう言うと、若林涼子たちが変な顔をした。
「ねえ、さっきから何の話?」
「全然わかんないよね」
吉岡かおりも不思議そうな顔をする。
「優くんてね、すごく歌が上手なの。前に聴かせてもらってね。それで、きっとすぐに有名になっちゃうから、ちゃんと誰かに管理してもらった方がいいよっていう話を前にしたんだ。だから心配していたの」
「そうなんだ。優くんてそんなに歌が上手なの?」
「ええ。すごく! 飛び切り! 人並み外れて! 私たちはすでにファン」
苅橋希たちが拳を握り締めて力強く言うので、若林涼子と吉岡かおりは変な顔をした。
「早くファンクラブも作らなきゃね。男性保護局公認のもできるだろうし」
「そうなんですか?」
間宮にみんなの視線が集まる。
「それは今のところ検討中よ。まだ何も公開していないから、反響を見てからになるわね」
「そうだよね。ネットの公開でもかなり評判になると思うし、どんどん人気が出て、何年か経って、いつか国立音楽館で公演できる日もくるかもね」
「そんなことになったら、私は家族に自慢するんだ。あの男性と中学校の頃に一緒に修学旅行に行ったよって」
「そうだね。今のうちに写真をいっぱい撮っておこうよ」
塚原ひよりたちは優の話で盛り上がる。
国立音楽館と聞いて、優はげんなりだ。
「そしていつか、いつかだけど、天覧公演をするんだよ」
「ええー、歌手の公演は天覧公演にはならないって話だよ」
「それが、初の歌手の天覧公演! ていうことでさ。優くん、期待してるよ」
「夢はでっかく、だよね!」
女子生徒たちが空想して好き勝手に盛り上がっているのに、明日には全て実現してしまうので、優も怜良たちも苦笑していた。
「それでは今日の反省会をするわよー」
宿泊施設で、夕食と入浴を済ませ、若林涼子が班員に声をかける。
「それって、優くんの話でしょ」
「決まってるじゃない」
「決まってるわよね」
「決まってるの?」
昨日の夜と同じく、お菓子を広げる。
「今日はさ、反省っていうより、皇宮のあれ、絶対変だよね」
「やっぱりそうだよね。特別待遇すぎる」
「うちの家族に聞いてたのと全然違うし、寮の先輩の話とも全然違ったよ」
「だいたい、見学時間が去年までの倍以上だよね」
「聞いてた話では普通は一時間くらいで、あとは全体写真撮影とかでしょ。今日は十二時半までだったよね」
部屋のポットで紅茶を淹れる。
「宮中で食事会なんて、そもそも修学旅行じゃなくても有り得ないよね」
「そうよ。私たちは貴族じゃないんだから」
「しかも今日の会食場所って、メイン会場だったはずだよね」
「あの広さなら、そうだよね」
「庭園とダンスホールが隣接してたから、間違いないわね」
荷物の整理をしていく。
「ダンスもできない私たちが、ダンスホールのついた部屋で食事会なんて、矛盾してるわ」
「そうだよね。そう考えると、食事会があったとしても、ダンスホールと庭園を見学させてくれたのもおかしいことになるね」
「やっぱり特別待遇だよね」
「どうして特別待遇だったのかしら。それが分からないわ」
「……私はね、優くんが関係してると思うんだ」
吉岡かおりの言葉に、日記を書く手が、みんな止まった。
「どうして優くんが関係してるのよ」
「優くんが見学からいなくなって、例年より長い見学時間だったでしょ。例年は入れない場所も、私たちの中学校だけ入れたし。そして見学が終わってすぐ優くんが帰ってきた。そしてすぐに食事会になった。そしてダンスホールと庭園の見学公開。
まるで優くんに合わせてスケジュールが組まれてたみたいじゃない」
吉岡かおりの言葉を聞いて、みんな考え込む。
「言われてみるとそうだけど、どうして優くんのスケジュールで、しかも正餐とか庭園の見学とかがあるのよ」
「それはわかんないよ。優くんが会っていた人が、偉い人だったとかじゃないかな」
「うーん。いくら偉い人っていっても、あんなに宮中の中心部分の一部でも立ち入らせるなんて、普通の職員じゃ無理だよね」
「少なくとも貴族じゃないと有り得ないわね」
「男性保護局の関係じゃないの? 優くんは男の子なんだし」
みんなはお菓子を食べる。
「そうよね。それだわね。きっと何か強力な伝手があったのよ」
「それで優くんに配慮して、ああいう扱いになったんだね」
「理由が何にしても、今日の経験は凄かったよ。もう一生に一度の経験だった」
「そうよね。あの部屋も、あの庭園も、あの食事も、一生ないわ」
「末代までの自慢だよ」
日記を書きながら、話を続ける。
「男性保護局本部も凄かったね」
「うん。今まで男の子とか男性とかの相手をする仕事と思ってたから、特等男性保護官の仕事を聞いてイメージが全然変わっちゃった」
「特等男性保護官は、男性保護官というより軍人と言った方がいい感じだったわね」
「怜良さんが特等男性保護官だったことに驚きだわ」
「そうそう。普通は一等男性保護官が専属してるでしょ。やっぱり優くんは特別なんだよ」
日記を書く手を止め、お菓子を食べる。
「今日の訓練でさ、すごい爆発だったのに優くんは平然としてたね」
「ああ、あの時やっぱり男の子は大変なんだなって思ったわ」
「きっと普段からすごい訓練を見てるのね」
「あれが日常じゃあ、私たちとは感覚が違うよねきっと」
「でも優くんは、他の男の子の生活は違うようなこと言ってたよ」
女子中学生の女子会はとめどなく続く。
「明日が最終日だから、優くんにはきちんと楽しんでもらいたいわ」
「そうだね。それが一番大事だね」
「明日はちゃんと一緒に行動できるといいな」
「明日はオペラを見るだけだから、大丈夫よ」
「……なんか明日の国立音楽館の演目内容が変更になってるよ。まさかね」
国立音楽館のホームページを見て吉岡かおりがぼそりと呟いたが、誰も気にしなかった。




