32 TGC35
この話は銃器を扱うのでR15です。
「おーい、優ー! 射撃するぞー!」
「行くよ!」
リビングで本を読んでいた優は、五十歳になる中森特等男性保護官に呼ばれてすぐに返事をした。
「優くん、射撃訓練なんか見に行くの?」
「そうだよ! 楽しみだったんだ」
優は怜良に元気に答える。いそいそと着替えて出かけようとするので、怜良も一緒に行くことにした。
「お、来たな。怜良さんも一緒だね」
「ええ、もちろんついて行きます。ついでに腕前を見せてもらいますよ」
「その銃を使うところが見れるんだね」
中森は巨大な銃と弾薬を担ぎ、三人は屋外訓練場に足を運んだ。
「来たな。待ってたよ」
すでに他の特等男性保護官たちも揃っていた。
「皆さんお揃いなんですか」
「そうだよ。中森がいつもの趣味で買ってきた銃の実力を確かめておきたくてね。そいつは大きすぎて地下の射撃場では使えないからね」
「趣味と実益って言ってるだろ。こいつの実力を今から見せてやる」
田代特等男性保護官たちがからかう。
「さあ、ここら辺がいいかな。いま準備するから待ってなよ」
そう言うと、中森は三メートルにもなる長大なTGC三五の銃身の脚を広げ、ドカリと地面に固定した。
「この弾丸をここに入れるんだ。始めは普通の鉄の弾丸を使うぞ」
そう言って弾丸の箱を「ガシャリ」と音を立ててそばに置き、取り出して薬室に装填する。
弾丸の大きさは五百ccのペットボトル位の大きさだ。
「すごく大きいよね。銃を撃つのを見るのは初めてだよ」
「こいつは重量百キロ、長さ三メートルもあるからな。初めて見る射撃がこの銃じゃ、ほかの銃は豆鉄砲に見えるな」
そう言ってわははと笑った。
「その銃は今まで見たことがありませんが、正式装備ではありませんよね」
「ああ、そうだよ。これは私の秘密兵器だからね。普通の人間には扱えない前世界の代物さ。でも威力は保障するよ。それを今から見せる」
中森たちが突然訓練場の一角で騒ぎだしたので、特務隊も「なんだなんだ」と集まって来た。
「中森さん、すごい銃だね。それがこの前言ってたやつか」
「長山さんじゃないか。その通りだよ。訓練はいいのかい」
「あんたたちがそんな楽しそうなことやってるから、みんな訓練が手につかないよ」
「ははは、その気持ちはわかるよ。いまこいつの威力を見せてやるからね」
長山美由紀副隊長が、中森に話しかけた。長山は身長二百十センチの特等警護官である。
「さあ、準備ができたぞ。まずは照準調整は終わってるから、着弾地点の調整からだ。前世界の武器は全部自分でやるからな。優、手伝ってくれ」
そう言って優に双眼鏡を手渡した。
「何をしたらいいの?」
「今から私が撃つから、着弾地点を見ていてくれ」
「これで見ればいいの?」
「ああ、それで見れば自動的に着弾地点が見えるから、そのときに表示された数字を教えてくれ」
「わかった」
「この銃の左側に立って、あの線まで離れているんだぞ。危ないからな」
薬莢の排出の邪魔にならないようにし、暴発してもケガをしない距離を取らせる。
本当は中森は自分一人でスコープの調整ができるが、優にも体験させることにした。
「優、まずはこれを頭につけろ」
そう言って優にヘッドホンのようなイヤーパッドを渡し、装着してやる。
「あの山のてっぺんの辺りに、赤い花がたくさん咲いている木があるだろう。あれがターゲットだ。今日は山に入らないように村人に言ってあるから安全だ」
「どこ?」
「ほら、あそこ。桜が咲いているところの右上だ」
「あ、わかった」
「そこを双眼鏡で見ていろよ」
「うん、わかったよ」
中森は優に指示を出し、自分もイヤーパッドを装着して、地面に伏せて構えた。
「優、いま双眼鏡にはあの木までの距離が表示されているはずだ。数字を言ってくれ」
「うん。一五二○って出てるよ」
「わかった」
中森はスコープの照準の位置から着弾地点を予想する。
「それじゃあ、撃つぞ」
「わかった!」
そう言い終わると、中森は引き金を引いた。
ドゴン!!
大きな爆裂音が響き渡った。
「すごい音がしたね!」
「びっくりしただろう! 着弾地点はどうなった?」
「うん、右上三十度に三メートルだって」
「よし、わかった!」
中森は薬莢を排出して次弾を装填し、スコープでの照準から銃の方向を微調整した。
「じゃあ、今度は当てるぞ。あの木の枝をよく見ていろ」
「うん。わかったよ」
中森は引き金を引くと、再び大きな音がして、木の大きな枝がはじけ飛んだ。
「わあ、当たったよ! 枝が折れた!」
「ああ、うまく行ったな」
「弾って、ぐるぐる揺れながら飛んでいくんだね!」
二人で喜ぶ。
「すごいな。全てマニュアルなのに、この距離で当てるか」
「前世界の武器は反動が大きいから、当てるのは大変なはずだけどな」
「体力任せに抑え込んでいるんだろう」
周りも双眼鏡を覗いたりして騒いでいる。
「優、次はもっと遠い標的を狙うぞ。あっちの山のてっぺんにある、一番大きな黄色い木だ。倍率を上げろ。見えるか?」
「あ、あれだね。あんな遠くに届くの?」
「ああ。大丈夫だ」
そう言って薬莢を排出し、弾丸を装填して銃を構える。
「優、またさっきと同じように数字を言ってくれ」
「うん。二七七二だよ!」
「よしわかった! また着弾地点を見ていてくれ」
「うん!」
「じゃあ、撃つぞ」
そう言って引き金を引き、大きな音が響く。
「左下十五度七メートルだって!」
「よしわかった!」
中森は再び弾丸を装填し、構える。
「じゃあ、今度は当てるぞ」
「うん!」
中森が引き金を引き、大きな音を響かせて弾丸が飛んでいく。
「すごい! 当たったよ! あんなに遠いのに」
「どうだ、すごいだろう」
優と中森は盛り上がっている。
周りも盛り上がって騒いでいる。
「さて、次は実戦用の弾丸の威力を見せるぞ。みんなも怜良さんも、よく見ていてくれ。軍隊が存在していた前世界の銃の実力だ」
そう言うと、黄色い弾頭の弾丸を用意し、装填した。
「こいつは爆裂徹甲弾だ。今回は山火事にならないように発火しないタイプを使う。こいつと熱貫通力のある弾丸は強襲部隊の迎撃に使うぞ」
「それは見物ですね」
「この距離での威力が見たいね」
「優、さっきと同じ木をよく見ているんだぞ」
そう言うと中森は引き金を引き、大きな音を残して弾丸が発射された。
そして同じターゲットの木の幹が爆発し、倒れた。
「すごいよ! あんなに大きな木が倒れちゃった!」
優が大きな声を上げる。
「どうだ、すごいだろう」
「あの威力なら、降下防護壁がなければ相手の装備に大きな損害を与えることができますね」
「ああ、降下部隊が着地して行動を開始したあとに使えるな」
各々の特等男性保護官と怜良が話し合っている。
「どうだい。少しは前世界の銃の実力を見直したかい。実際にはスコープには最新型を使って、夜間でも弾道上の環境を自動計算して照準が合うから、速射しても命中精度は上がるな」
「ええ、状況にもよりますが十分に通用しそうですね。大きいけど」
「趣味と実益っていうのは本当だったんだな。大きいけど」
「なんだよみんな、大きいからいいんだぞ」
「大きいのはカッコイイよね!」
「お、優はよくわかってるじゃないか」
「優が前世界の武器のマニアになったらどうするんだ」
「優くんは人参係よ」
「うん。木下さん家で採れた人参だよね」
八歳になった優は、料理を手伝えるようになった。
包丁を使って、器用に皮をむいていく。
銀杏切りにするのも慣れたものだ。
「じゃがいももむくよ」
「ええ、ありがとう」
じゃがいももするすると皮をむき、芽を取り除く。
サイコロ状に切って、水につける。
「随分上達したわね」
「怜良さんのお手伝いしたかったからね」
「ふふ、ありがとう」
「次はどうするの?」
「じゃあ、炒めましょうか。玉ねぎは切っておくわ」
鍋に牛肉を入れて炒めていく。
程なくして根菜と玉ねぎを加え、さらに炒める。
水を加えて、あとは煮込むだけ。
野菜も肉も、この村で生産されたものばかり。
煮立ってきてアクをすくってから、弱火にして蓋をした。
「カレー大好き」
「ええ、私も好きよ。ビーフカレーはご馳走ね」
「うん。ここは森下さん家の牛肉があるからおいしいね」
「いろいろな部位が手に入るからいいわね」
そんな会話を交わしながら、食卓に座り時間が過ぎるのを待つ。
「優くんもお茶を飲む?」
「うん。ありがとう」
夕飯の支度を二人でやり、肉が柔らかくなるまでの時間を待つあいだ、のんびり過ごす。
「優くんはここでの生活はどうかしら」
怜良が聞く。環境が大きく変わったため、頻繫に聞いている。
「とても過ごしやすいよ。みんないい人たちだし」
優は迷いなく答える。
「外に出歩くことが多くなったけど、疲れたりしていない?」
「うん、疲れないよ。ここは広いから、歩いても景色がどんどん変わっていくし、空気は山の香りがして気分がいいの。いろんな花が咲いていて、いろんな人とも会うからね」
怜良は優の返答を聞いて、少しは安心した。
「人が急に多くなって、気疲れしていない?」
「うん、大丈夫だよ。みんないい人だし遊んでくれるからね。知り合いが沢山増えたから、退屈する暇もないよ」
優はそう言って笑った。
優のために、怜良は村人や特等男性保護官、特務隊と多くの話し合いを持ち、優に用意されるべき環境を作り出していた。これは悠翔天皇の意思とも合致し、怜良を専属に選んだことがここでも効果を発揮していた。
怜良も六勝も悠翔天皇も気づいていなかったが、優に通常の男児保護プログラムの環境しか用意されなかったら、早々に人類存続の道は絶たれていた。優以外には前世の存在を知らないため、虐待の経験の手当てが必要不可欠であることを知らないからである。
「今日は大きな武器を見せてもらったけど、みんなああいう武器を持ってるの?」
「ええ、ここは優くんを守るためにつくられているから、私たちはいろいろと武器を扱えるわ。そのための訓練を重ねているしね。怖いかしら?」
「ううん。どうして僕をそんなに守る必要があるのかわからないけど、みんなが傷つかないといいなって思ったの」
「大丈夫よ。ここの人はみんな強いのよ」
「そうなんだ。それならいいんだけど」
優はさすがにこの拠点が重武装であることに勘づいていた。
はじめはそんなものかと思っていたが、同じ男性の乙山竜蔵が時々びっくりしているのを見て、自分は特別扱いなのだと気づくようになった。
「近いうちに避難訓練もするようになるから、優くんも頑張って協力してね」
「避難訓練?」
「そう、避難訓練。私たちはいろいろと戦わなきゃいけない状況が考えられるから、そのためにみんなには隠れてもらったりする必要があるのよ。夜中だったりもするから大変だろうけど、必要なことだから頑張りましょうね」
「そうなんだ。怜良さん達は危険にさらされるんだね」
「大丈夫よ。さっきも言ったけど、私たちは強いから。それにここは戦えるようにいろいろな設備が整っているから、私たちの負担は少ないわ。優くんは何よりも自分が助かるように、きちんと避難訓練をしなきゃだめよ」
「わかったよ。怜良さん、ちゃんと無事でいてね」
「ええ、大丈夫よ。私はいつも優くんのそばにいるわ」
怜良はそう言って優を安心させようとした。
今は平穏だが、優の存在が知られれば繰り返し攻撃を受ける可能性がある。そうなれば穏やかな生活ができなくなる恐れがあり、それが怜良にとって一番の心配事だった。
だからせめて今だけでも、静かな生活を送らせてやりたかった。
「村の人たちは大丈夫なの?」
「村の人たちは、何かあったらシェルターに避難するようになってるわ。それぞれの家に頑丈な地下シェルターが作ってあるから、警報が出たらすぐにそこに避難するようになっているの。だから大丈夫よ」
「そうなんだね。誰も怪我をしないといいよね」
「ここを中心に広い範囲で警戒しているから、大丈夫よ。警護の人も特等男性保護官も強いから、ちゃんとここを守れるわ」
「うん。頑張ってね。みんなにはちゃんとお礼を言わなきゃね」
「そうしてあげると、みんな喜ぶわ」
そんな会話をしていると、時間が経っていた。
「そろそろカレールウを入れましょう」
「うん。僕がやってみるよ」
そう言って火を止めて鍋の蓋を開け、ルウを溶かした。
「ここから少し煮込むわよ。三十分くらいかしら。焦げないように木べらで底をかき混ぜるのよ」
「うん。頑張ってやってみる」
「やけどに気を付けるのよ」
優は木べらを手に持ち、とろ火の鍋の底が焦げないように、時々かき混ぜる。
「勢いよくやると野菜や肉が崩れちゃうからね」
「はーい」
そこからコトコト煮込み、焦げないように頑張って、カレーが完成した。
「やったー。できたね」
「ええ、おいしそうだわ」
さっそく二人は食卓にマットを敷き、冷蔵庫に用意していたサラダを並べた。
「ご飯は炊き立てだね」
「もちろんよ。ちゃんと時間を合わせたからね」
「さすが怜良さん。さす怜だね」
「なあに、それ」
そんな会話を交わしながら、ご飯を盛り付け、カレーを注ぐ。
「はい、これも乗せるわよ」
「わーい」
この家のカレーライスには半熟ゆで卵が乗る。
いつも怜良が乗せるので、優はこれがないと物足りないと思うようになった。
「じゃあ、食べましょう」
「やったー。いただきます」
二人の夕食。
前世界の音楽を流し、楽しく夕食を食べる。
優にとっては、かけがえのない時間だった。
「今日は中森が射撃訓練を優に見せたそうだね」
「はい。優くんは武器に興味があるみたいで、はしゃいでましたよ」
六勝への報告の時間。
「武器に忌避感を持たないのは幸いだったな。今はいいが、いずれ戦闘になったら、ただ恐れるばかりだと動けなくなるからな」
「はい。中森さんが楽しく教えていたのもよかったと思います」
「あいつは武器マニアだから、変な武器を持ち込むからな。今回もやたらと大きな武器らしいじゃないか」
「はい。前世界の武器はどれも大型ですから、見た目は派手ですね。優くんが喜びます」
「金をだいぶ使っているようだが、準備はできているかね」
「どこまで準備しても万全とはなりませんが、特等男性保護官四名は頼りになりそうです」
六勝は特務部隊の侵攻を想定して、現有戦力の状況を分析していた。
「あの四名は、海外任務で圧力の高い場所を多く経験してきているからな。だからそこに配属したんだ。肝が座っているだろう?」
「はい。防御の基本は全て任せています。特務隊との交流も活発で、連携にも問題はないでしょう」
「まずは安心だな。金はいくら使ってもかまわないから、君は優の保護に集中してくれ」
「はい。今後は村人の避難訓練を増やして、緊張が途切れないように計画しています」
怜良は人使いが上手いので、できないことや能力が劣ることは、判断や権限とともに素直に能力のある他人に任せてしまい、自分はフォローに徹するようにしている。このような怜良の態度が、特等男性保護官や特務隊の居心地を良くし、各自の責任感を高め、チームワークを良くしていた。怜良本人はただ横着しているだけなのだが。
「優の特殊行動は見られるか?」
「いえ、何もありません。今は新しい環境に慣れることを最優先にして生活していますので、しばらくは何もないでしょう。その分、村人や職員と円滑な交流ができています」
「そうか。陛下のご指示はちゃんと守られているようだな。私はそういう面はあまり得意ではないから、君に任せておいて正解だな。今後もその調子で頼む」
「はい。優くんは歌の作曲に力を入れていますから、今後、村人や職員に披露することが予想されます。従来は秘匿事項としていましたが、私としては優くんの意思に応じて披露してもかまわないと思いますが、いかがでしょうか」
優は素直に歌の復元も怜良に話しているので、六勝も知っている。
「その点は未だ検討している段階だ。君に生じた現象の分析もできていない。陛下がご自身でお聞きになったときは何も起こらなかったが、君には不可思議な現象が発生している。披露するとしても、そのような不可思議な現象が発生しても分析できる環境が必要だ」
「そうですか。とりあえずは優くんは私に聴かせてくれるでしょうから、それからまた検討してください」
「ああ、それがいいだろう。これからも頼む」
怜良と六勝との会話は終わった。




