31 神と呼ばれる存在の真実
この話は女性の性的取扱いが描かれているのでR15です。
この作品の神は創作です。
人が神と呼ぶ存在が、この星を見ていた。
クローン人間の生産は、神の目にとまっていた。
しかし神は何も介入しなかった。
クローン人間の生産は、優秀な能力を持つものを量産し、身体改造も行われた。
しかし神は何も介入しなかった。
クローン人間の生産は、優秀な能力を持つものを量産し、失敗作を廃棄した。
しかし神は何も介入しなかった。
クローン人間の生産は、後継者としての自己の複製を生産した。
しかし神は何も介入しなかった。
クローン人間の生産は、性の享楽のために見目の良い者を量産した。
しかし神は何も介入しなかった。
クローン人間の生産は、性の享楽のために見目の良い者を量産し、享楽の目的を終えると廃棄した。
この時、神は介入を決めた。
神は人間の特性として、精神を与えた。
そこには理性、道義の根源があった。
神は人間の特性として、心を与えた。
そこには情愛、憐憫、恋情の根源があった。
神にとって、理性、道義は相対的なものだった。
だからクローン人間の生産は、理性、道義を損なうように見えていても、それは人類自身のあり方の一つであり、人類自身が諸問題を解決すべきものとして放置された。
しかし情愛、憐憫、恋情は、神にとって、どの人間にも変わらないはずのものだった。
人間には心が不可欠の要素であり、それは揺るがないはずのものだった。
たとえ精神や環境により変容を受けても、心と言う存在自体は絶対だった。
だから享楽目的のクローン人間の使い捨てにより、情愛、憐憫、恋情の存在自体が損なわれたとき、心が損なわれたものとして、神は人間に失格の烙印を押した。
この星のほとんどの社会が、ほとんどの人間が、自ら人間の心を損壊する行動を取り始めた時、神はこの星の人類を廃棄することを決めた。
神は人類の廃棄の方法を定めた。
まず心を損壊した原因存在であるクローン人間を全て廃棄した。
次に出生について、男性の九十九パーセントを廃棄した。女性の廃棄でもよかったが、心を損壊した主犯が男性であったため、男性の廃棄を先にした。
さらに男性の心から恋情を廃棄した。恋情の存在自体を失った男性は、男性としての人格を見失った。
神はこの方法で人類が衰退し、自らを悔悟しながらやがて滅ぶことを予定したが、それでも人類が一パーセントの男性から人口と社会を維持するであろうことを予測し、最後の方法を定めた。
それは男女の精神から、男性の存在を認識する力を廃棄することであった。それは男性全てに対してではなく、一部の男性に対してのみ作用するようにし、徐々に対象となる男性の数を増やしていき、やがて全ての男性を男性として認識できないようにする。
つまり男性の存在の次には他者からの認識を廃棄し、しかも男性自身からも男性としての自覚を廃棄する。
男性の廃棄として、存在、認識、自覚の全てを奪い、男性として生まれ出ることも、人から男性として扱われることも、自ら男性として扱うこともできないようにした。これは男性から男性としての存在、精神、心そのものを奪うこと意味していた。
この最後の方法は、神は最初の廃棄作用の五百年後に作動するように定めた。
このように神は人類の絶滅の方法を多重に設定したが、その一方で残存する人類に、絶滅を回避する方法をも与えた。
その回避の方法は、この星の人類が男女ともに心を取り戻す力を得ることにより実現するものとした。
そして心を取り戻す力の有無を判断する存在として、別の世界から適切な存在を呼び寄せることにした。
瀬戸裕也は、家族の情愛を知らず、友人や近隣からの憐憫も知らず、恋情を得ることも受けることも知らない。人が正常に得るはずの経験は何も手に入らず、肉体の存在も生存に必要な最低限しか備えていない。社会の人々は、家庭の愛情に囲まれ、友人の友情に恵まれ、恋人として恋情を育み、夫婦となって子を産んで情愛を得る。同じ世界に生きながら、瀬戸裕也には、その一切が与えられなかった。そしてそうありながら、持たざることを嘆くことも恨むこともなかった。
神はこの魂と記憶をそのままこの星に呼び寄せ、新たに完全な肉体と精神を与えた。前世で人としての情愛、憐憫、恋情を知らず、経験したことのない人間に対して、この星の人類が完全な心を生み出してやることができたなら、この星の人類が心を取り戻す力を取り戻したものとみなし、人類の存続を一部でも認めることにした。
そのときの人類存続の力、すなわち神の廃棄の方法を除去する力は、この肉体に完全な心が備わることができた時に、この魂の願いの力として、この魂自体に発現させることにした。
こうして、人類の存続を決める存在として、神により瀬戸裕也は咲坂優としてこの星に転生した。
「それでは閣議を始めます。いつも通り、まずは各大臣の報告をお願いします」
曙国の総理官邸の会議室で、定例の閣議が開催された。
順次大臣が管轄の報告を行っていく。
報告のあと、議決すべき議事に対して議決を行う。
いつもと変わらない風景のなか、一つの報告がなされた。
「……次に昨年に比較して子宮欠損症の症例が増加しています。この傾向は過去五年間において変わらず、今後も増加することが予想されます。一定程度に達すると社会に混乱が生じる可能性が予想されますので、その対策をしておく必要があると思われます」
保健大臣からの報告と提言。近年、曙国だけでなく世界で増加している症例。
子宮欠損症とは、文字通り女性が先天的に子宮や卵巣などを含む女性器を備えないまま出生する症例である。五十年前に初めて確認されてから、徐々に増加してきた。
そしてこれが悠翔天皇が写真の異常を発見し、男性であることを確認した女性たちである。
「子宮欠損症に関する調査研究では、未だ何もわかっていないと聞いていますが、それは変わりませんか」
「はい。それは現在でも状況は同じです。海外においても同様であります。そもそもこれが病気や奇形であるのかさえわかっていません」
「病気や奇形であるのかさえわかっていないのですか? それは初めて聞きました」
総理が保健大臣に問いかける。
「はい。この症例は通常の病気や奇形とは全く違う性質があるのです。
まず、卵巣がなければ女性ホルモンが分泌されず、本来であれば第二次性徴が発現しないはずなのです。ところがこの症例は例外なく、きちんと第二次性徴が発現しているのです。これは医学上説明がつきません。
つぎにその発生分布に偏在が全く観察できないのです。通常の病気や奇形は、遺伝や世代や地域的原因に基づく偏りが存在し、全国一様に発生することはありません。ところがこの症例は全国で全く均一に発生しているのです。これは海外でも同様です。そうすると社会条件上はこの症例の原因が全く推測がつかないのです。
これがこの症例の医学上の最大の謎です。そのためこの症例は医学とは関係ない事象なのではないかと考える専門家もいるわけです」
保健大臣の回答を聞き、誰もが黙り込む。
「その症例に関しては陛下が強い関心をお持ちでしたね」
「はい。いつもこの症例の報告は別途差し上げています。また数年前にはこの症例の遺体を直接解剖なさりました。
しかし今までのところ、陛下にとっても何も進展はないようです」
「そうですか。それでは症例の増加は確認できているということですから、今後は社会が反応し出すことに対する方策を考えていきましょう。保健大臣は引き続き、その症例の分析を進めてください。何か判明した場合には報告をお願いします」
総理はそのように話をまとめ、この話題を終わらせた。
「やはりここ数年の傾向通り、症例数が増え続けているな」
悠翔天皇は保健大臣からの報告書を読み、執務室で唸っていた。
「やはり止まらぬか。時間はどれほど残されていようか」
悠翔天皇は今日も人類の未来を考えていた。
今日は休日。咲坂家と優たちは、楽しみにしていた花見に来ていた。
「すごい桜だね。男性保護区にあったのよりも大きいよ」
「どれも百年以上前から生えているらしいからね。立派な木だよ」
優たちは幹が太くて大きく枝を広げた、立派な桜の木がいくつも生えている場所に来て、敷物を広げて昼ご飯を食べている。
「優、これもお食べよ」
「ありがとうございます、かなめさん。いただきます」
天気のいい花見日和のため、この広場には咲坂家のほか、村人がたくさん来ていた。
咲坂家の隣の畑の木下家も一緒に座っている。
「八弥もみんなといると元気だね。紅葉ちゃんと唯ちゃんが仲良しなのかな」
「あの子は大人しい子だからね。家では静かだけど学校ではよく遊んでいるんだよ」
八弥たちが舞い散る花びらを捕まえようと、はしゃいで駆け回って団子になっている。きゃあきゃあと声を上げて元気だ。
「くろは大人しいね」
「この子は大人だからね。いつもこうして静かに寝ているのさ」
木下りんが答える。
木下家には犬が住み着いている。その名の通り黒い犬だ。
今日も花見に勝手について来て、そばで寝ている。
この村では犬や猫が結構住み着いている。勝手に歩き回っているので、散歩をさせる必要がない。気に入った家に住み着いて、餌をもらっている。村人に対しては吠えたりもせず、村に溶け込んでいる。当然のことながら、こういう動物には伝染性の病気への処置はしてある。
優は家族や木下家、ほかの家からの差し入れを沢山食べて、満腹だ。
男性特有の銀髪なのは乙山竜蔵と優の二人だけなので、遠くからでもすぐわかる。
優を見るとみんな食べ物を持って食べさせに来るのだ。
「もう食べられないよ。どれもおいしかった」
「いっぱい食べたね。少し横になったらいいよ」
ユリばあさんに言われて、優はころりと寝転ぶ。
くろが片目を開けてちらりと見たが、すぐにまた寝てしまった。
のどかな時間。優は咲原に来て、日々を楽しんでいた。
外にいる時間が長く、前世でもできなかったことを沢山経験している。
優は少しずつ人生の経験を積み上げていた。




