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14 世界の歴史

この話は人体改造などを連想させるのでR15です。

 今朝はやたらと寒い。朝目覚めてみると、外の雪景色が目に入った。


「怜良さん、雪だよ!」


 顔を洗うのもそこそこに、怜良さんに突撃した。

 雪!


「おはよう。昨日の夜から積もったみたいね。後で外に行ってみましょうか」

「うん! 行きたい!」


 我慢できずに急いで朝食を済ませ、防寒着でモコモコにされて、怜良さんの手を引いて表に出る。

 すると一面の雪だった。


「わあ、すごい! 真っ白だ!」


 誰も足跡をつけていない真っ白な雪の中に、もさもさ入っていく。

 跡がついて面白い。

 雪は腰の高さまで積もっていた。


「わーい!」


 ボフッ!

 雪の中にダイブ!

 全身が雪だらけになって楽しい。

 怜良さんがやってきた。


「さっそく雪だらけになったわね。雪だるまをつくりましょう」

「うん!」


 乳幼児施設で雪だるまを見たことがあるが、自分で作ったことはない。

 初めてだ!


 小さな雪の塊を作って、ころころ転がしていく。

 だんだん重くなってきて動かせないから、怜良さんが転がしてくれた。

 もう一つ作ってから怜良さんが上に重ねてくれる。怜良さんは力持ち。

 葉っぱで目を作って、枝を拾ってきて腕をつけて完成!


「すごい!」


 ほとんど自分で作ってないけど、嬉しかった。

 怜良さんも喜んでくれる。二人で作ったのがすごく嬉しい。

 

 次は雪の中をずんずん進んで、雪に埋もれる。時々怜良さんに救助されながら、またずんずん進む。怜良さんがついて来てくれて楽しい。

 手のひらで小さな雪だるまを二つ作って、並べておいた。僕と怜良さん。それを見て怜良さんが笑ってくれた。

 身体が濡れて冷えてきたので家に帰ったら、怜良さんがすぐにお風呂に入れてくれた。予め沸かしておいたんだって。朝から二人でお風呂に入ることになって、なんだか楽しかった。





「それじゃあ、今日は歴史の勉強をしましょう。この本に簡単にまとまっているから、自分で読んでごらんなさい。」


 その日の午後、水泳練習をしない日なので怜良さんは歴史の勉強を始めることにしたらしい。

 小さな絵本のようなものを渡される。少し厚みがある。


「うん、読んでみるね」


 未だ小さな優はこたつに入って、普段通り気楽に読み始めた。

 怜良はその様子を観察している。

 その姿は絵本を読む可愛らしい子供にしか見えなかった。


「かつて世界には数多くの国があり、互いの国は牽制し合い、それぞれの国が協調することもなく、人々は望むままに研究、開発、生産、消費を行っていた。社会制度は望む者のために形成され、人として守るべき道徳も自制も軽んじられていた。時に戦争、時に支配。当時の世界では力を手に入れた者は何をなすことも許された。


 およそ八百年前、人を複製する技術、クローン技術が開発され世界に急速に広まった。クローン技術の登場は、優秀な人間や見目のよい者のクローン人間を増やし、各国の権力者、富裕層だけでなく、中流階級までもがクローン人間を需要するようになり、クローン人間は欲望と都合のままに大量に生産されるようになった。


 クローン人間は、その生まれた時から必ず「役割」が与えられていた。目的のために生産されるクローン人間は、生み出した者の目的を外れて生きることは許されなかった。

 優れた知能、優れた肉体能力を持つ者のクローン人間は、その能力目的のためだけに生産されたが、実際には期待通りの能力を発揮できないことも多く、「失敗した」クローン人間は、次々と廃棄処分となった。

 見目のよい者のクローン人間は、そのほとんどが享楽目的としてのみ生存を許され、その目的を終えると廃棄処分となった。

 クローン人間は、建前上は人間であったが、実際には道具であり、廃棄処分となったクローン人間は専門業者により特定区画に集められ、劣悪な環境の中、数か月で命を失った。


 どの国でもクローン人間が制限なく生産され、需要の高い者の体細胞は高額で取引され、培養され、死後においても取引の対象となった。やがて道具としてだけでなく、ついには人々は相続人として自らの成功したクローン人間を指定することも常態化した。さらにクローン人間との子も多数生まれ、社会には「能力のある者」「見目のよい者」の子孫が多数を占めるようになった。

 こうして当時八十億人に達した世界人口のうち、一割が「成功した」クローン人間となり、クローン人間との子孫も数え切れないほどになっていた。


 それは突然のことだった。

 五百年前、クローン技術で生まれた細胞が突如、活動を停止しはじめた。原因は全く不明だった。それは世界中で一斉に起こり、次々とクローン人間の体細胞が活動を停止し、クローン人間は死亡した。新しく生産されるクローン人間も、発生の途中で細胞活動が停止した。どのクローン技術を用いても同じだった。

 そうして一年も経たないうちにクローン人間は世界から消滅した。


 各国は大混乱に陥った。クローン人間の子孫には影響が現われなかったものの、クローン人間自体は権力者、富裕層に広く浸透し、クローン人間の絶滅は各国の権力構造に深刻な影響を及ぼした。

 しかし変化はそれだけにとどまらなかった。


 クローン人間絶滅の翌年、世界中で男児の出生率が減少を始めた。原因が全く分からないまま、それはその後十年間で女児に比して一割に減少し、その後合わせて百年間で一パーセントにまで減少した。世界の人々は男児の出生率はさらに減少するかと恐れたが、その後は男児の出生率の減少は止まった。

 これらの過程で世界の人口は八十億人から三十臆人に減少し、国の数は二百から百になった。


 こうして人々はクローン人間の絶滅と男児の出生率の減少を「神の罰」と呼ぶようになった。そして神の罰の前の世界を「前世界」と呼び、それ以後の世界を「現世界」と呼ぶことにした。」


 宗教画のような背景の絵に、こんな文章が書き連ねられていた。

 

「ふーん」


 クローン人間かあ。前世でもあったよね。小説とかにもなってたよね。

 それをそのまま実体化するなんて、ここはすごい世界だったんだな。倫理の枷がなければそうなるのも不思議じゃないよね。

 まあ、前世では倫理の問題を回避しつつ、医療上の要請から臓器の複製には本腰を入れて取り組んでいたよね。

 まあ、前世のパラレルワールドといった感じもするかな。違いも大きいけど、基本的な部分はさほど違わないようだし。

 もしクローン技術の使用に倫理の枷をつけていたら、前世の世界とはあまり変わらない気がする。

 この世界は前世の未来かなと思うこともあったけど、やっぱり違う世界なんだね。

 まあ、どっちでもいいんだけど。僕のおかれた状況は変わらないし、怜良さんがいるからそれ以外のことは別に関心ないしね。


 それにしても「神の罰」かあ。まあ、状況を見ると神様の仕業と思うよね。

 僕がこの世界に転生したのも神業としか思えないから、別に不思議じゃないしね。

 とりあえず五百年前に大きな出来事があったのはわかったよ。


 僕がそんなことを思っていると、怜良さんが問いかけてきた。


「どうだったかしら」


 どうだったかと言われても、特にないよね。


「うーん。大変な過去があったんだね」


 僕が素直に答えると


「……他に何か感想はないかしら」


 と怜良さんが聞いてくる。感想かあ。まるで小説の話みたいだから、現実味がないというか。昔の人は好き勝手やったんだな、と言う感じかな。前世の歴史も酷いものがあったし、下層階級が苦労したのは同じだよね。


「前世界と現世界で大きな違いがあることはわかったよ。神の罰のことはともかく、その後の世界でこの国がきちんと安定してこうして怜良さんと過ごせて、咲坂家が楽しそうに生活できているのはすごいことだと思うよ。今の時代に生まれて本当によかった」


 僕が改めて気持ちのまま答えると、怜良さんは呆けた顔をしたあと、微笑んで言った。


「優くんは変わった子ね」


 失敬な。変わった子なのはその通りだよ。だって前世の記憶があるからね。変わっていることには自信があるよ!


「この後の歴史はまた今度ね。お茶にしましょうか」


 そう言って怜良さんはおやつの準備をしに行った。まだ四歳だから、おやつを食べてお昼寝をするのです。大事な仕事なのです。楽しみだな。





「今日の午後、予定通り優くんに前世界と神の罰の本を読ませました。読み聞かせではなく、中学生用の一般教本を自分で読んでもらいました」

「……そうか。反応はどうだった」


 六勝はモニターの向こうで緊張した表情で聞いてきた。


「それが、全く表情を変えず、最後まで淡々と読み終わりました。ページをめくる速度も変わりませんでした。読み終わったあと、「ふーん」と言ったので、感想を聞いたら「大変な過去があったんだね」「その後の世界でこの国が安定しているのはすごい」と言っていました」


 六勝はそれを聞いて啞然とした。


「それだけか? なんだそれは。まだ現世界の歴史も教えていないんだろう?」

「はい、それだけです。そのあとすぐにいつも通りおやつにしましたが、いつも通りに上機嫌でたくさん食べて、その後すぐにぐっすり昼寝で眠っていました。目覚めたあともすっきりした顔で元気に夕飯を食べていました。まあ、好物のハンバーグだったこともあるのでしょうが」


 それを聞いて六勝は腕を組んでうなった。


「ハンバーグはともかく、食欲も落ちず、ぐっすり眠ったなら疑いようがないな。彼は全く衝撃も受けず、恐怖も抱かなかったということか」

「はい、そうなります。驚きました」


 通常の中学生は、この歴史を学ぶと過去の世界の非人道的行為に怒り、また神の罰と神の存在に恐怖する。そしてそれらが現実であり、自分たちがおそらくそのクローン人間の子孫であることを自覚し、数か月にわたり情緒が安定しなくなることも多い。中にはいつまでも過去の現実が受け入れられない者もいる。だから心理的サポートを準備して歴史の情報開示をするようになっている。歴史の授業が小学校には配分されていない理由である。


「これは分析にかなり時間が必要になるな。陛下もさぞや驚かれるだろう。少しでも手がかりがあればと思っていたが、それどころじゃないな。君の話では、彼は神の存在や罰に畏怖や恐怖を全く抱いていないようだ。非人道的行為にも理解があるとしか思えない。クローン人間の子孫であることに戸惑いもないのは、どうしたことだろうか」


 六勝には優の反応が全く理解できなかった。そもそも人間を複製するなどということに対して戸惑うことから反応が始まるのが普通だった。普通の子供は、人間の複製と聞いてもそこから社会的意味を理解するまでにかなり時間がかかり、その後のクローン人間の拡大と社会矛盾の発生の理解に到達するのは中学生の終わりになることも珍しくない。


「私自身の経験からも、二等三等男性保護官時代の経験からも、優くんの反応は予想できませんでした。前に顧問は我々が気づかない現実を優くんが気づく可能性をおっしゃいましたが、そもそも見ている世界が全く違うんじゃないでしょうか」


 怜良の発言を聞いて、六勝はまさにその通りだと思った。

 特殊行動の報告書に書かれていた歌の件では一応の考慮をしたものの、実際にはあまりにも現実離れしていてほとんど考慮しなかった可能性、つまり彼が別世界の住人だったのではないかという考え。

 六勝はここに至ってその可能性を考えざるを得なかった。

 そして悠翔天皇がなぜ彼に執着しているのか、その可能性を本気で信じているのではないかと思い至った。


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