超特別短編小説
【夏はキライ】
夏は嫌いだ。
暑くて嫌になる。
夏生まれなのに嫌い。ホント無理。
夏だけ、冷房完備の会社以外、仕事は休みにすればいいと思う。
暑くてイライラする人が多くなるのも嫌だ。
そんな夏が大嫌いなわたしにあることが起きた。
そんなお話です。
わたしは、夏はキライ(何度も言う)
だから、朝とか夜に大好きなバイクを走らせて気分転換をしている。
わたしの愛車はCB-1。
父から譲り受けたものだ。
バイクで大気を切り裂く感じが堪らない。
ヘルメットに当たり、たまになる風切り音も好きだ。
わたしは風に打たれているのが好きらしい。
海沿いを走っていたら、ある光景に目が止まる。
まだ浅瀬付近だが、誰かがポツンと立っていた。
わたしは焦った。
バイクを止められる場所をすぐサーチして止め、そのままポイントに向かっていく。
息苦しくなったので、ヘルメットは途中でとり、スピードアップした。
砂浜で走りにくいのは気にせずに。
ポイントに近づくにつれてわかることが多くなる。
海の中に立っている人は女性で髪が風に揺られていた。
「おはよーございます!」とわたしは言ってしまった。
この時は朝だったのもある。でも、それがよかったかはわからなかった。
それでも、女性は振り向いてくれた。
髪はセミロングで青みを帯びていた。
淡いピンクのワンピースがよく似合っていた。
わたしは振り向いたその子に「冷えてないですか?」と聞いた。
夏の朝、海に入ってるとはいえ、冷えてない‥はどうだったんだろう?
そう思ったけど、女性が微笑んでくれたので、その不安は消えた。
「ありがとう」小さな声で女性はお礼を言ってくれた。
わたしはここで本題にトライした。
「何をされていたんですか?」
ど真ん中のストライク球に女性はまた笑みを浮かべる。
「わたしね、夏が大好きなの‥」といいながら、こちらを見た。
(夏が好きって、わたしと真逆じゃん!)
「だからね、こうやって海に入るのも大好きなの」
(わたしは海すら入りたくないのに‥)
「あら、どうして?夏がキライなのにバイクには乗るの?」
(え?なんで夏がキライってわかったの?)
「ふふっ、そんなにびっくりしないで」微笑みながら女性は言った。
「なぜ、わかったんですか?」
わたしはストレートに聞いてみた。
「ん?それはね‥言っていいのかしら‥うーん‥」何やら悩んでいるようだ。
「わたしの母も夏がキライだったから」そう笑いながら話してくれた。
「わたしの母は、夏がキライだったのに、わたしを夏に産んだの。おかしいでしょ?」クスクス笑う彼女。
「でも、わたしを産んだことで見方が、ううん、違うわ考え方が変わったみたい」彼女は優しい顔で話している。
「わたしに夏生と名付けたくらいだし‥」彼女は懐かしそうな顔をしていた。
「そんな母も、夏がキライだった母も真夏に人助けをして命をおとしました」
その言葉に、わたしは彼女に返答できず、口を思わず手で覆ってしまった。
「だからといって、わたしは夏を、海を、救助した人を憎んではいません」
ただ‥といい会話が途切れた。
長く感じたその瞬間も終わり、彼女がまた話し出した。
「わたしは、もっと母と一緒にいたかった。そしてここに来ると母に会えるような気がして、つい来てしまったんです」
水面をみて、右足を少し動かす彼女。
「なんか、色々ごめんなさい‥」と思わずわたしは彼女に言ってしまった。
彼女をみると笑顔でこたえてくれた。
「でも、ここへ来るのも今日が最後です」と彼女が今度は左足を動かして、小さな波をつくる。
「え?なんでですか?」とわたしは彼女に尋ねた。知り合ったばかりの人に図々しいかもしれないけど‥。
彼女は笑顔でこちらをみていたが、目から朝露が滴るように涙が流れていた。
「今日、やっとあえて助けることができましから‥」そういう彼女の涙は止まらない。
(会えた?助けた?え?)わたしはプチパニックを起こしていた。
「ど、どう言う‥こ、こ‥」わたしはまともに会話もできなくなっていた。
笑顔のまま、涙を流したまま、彼女は続けて話す。
「わたしの母は、ここで人を助けてなくなりました。ですが、わたしが母が助けるはずだった人を助けたのです」
彼女の話を聞いてさらに混乱するわたし。
「ですから、母はなくなりません。あとはわたしが母と会えさえすれば目的達成です。そして母と会えたのです」
そう言ってわたしを見つめる彼女。
「え!まさか⁈」
わたしの問いに頷く彼女。
「お母さん‥」そう言ってわたしにハグしてきた彼女。
わたしは黙ってハグにハグ返しをした。
そこに言葉はいらなかった。
信じられないが、信じるしかない。
目の前に、娘が、未来の娘がいるのだから。
「お母さん、夏生って呼んでくれる?」と言われて戸惑ってしまった自分がそこにはいた。
「う、うん。な、夏生‥」名前を呼びながら頭をポンポンした。
「お母さん‥」夏生はわたしをみて更に涙が溢れていた。
「お母さんはお母さんだ!よくポンポンしてくれたもん‥」
わたしは覚えているわけもないが、それはわたし特有の癖だったのだろう。
わたしは夏生をハグする力をさらに込めた。
‥と、その瞬間、夏生が透けていくように見えた。
「夏生?」
「お母さん‥もう時間みたい‥」
夏生の涙は止まらない。
「どういうこと?」わたしは動揺していた。
「お母さん、簡単な事だよ!夏生がお母さんを助けたから、未来が変わったんだよ!」
その言葉聞いた途端、わたしの涙は洪水かのように流れていた。
夏生は自分の存在よりも、母と会うこと、助けることを選んだ。
「夏生-!!」わたしはさらに激しくハグをした。
しかし、夏生の体はもう肩から下は透明になっていた。
「お母さん、会えてよかった!わたし、またお母さんの子供になりたい!また夏に生まれて、夏生って名前で呼ばれたい!」
そう言って夏生は消えた。
浜辺にはひとり跪き佇むわたしがいた。
これを境に、わたしは夏が好きになった‥。
夏をイキイキと生きよう!あの時溢れる涙と共にそう心に決めたから‥。
-おしまいー
日頃、こんなわたしの小説を読んでくださる方々に感謝を込めて、昨日作りました。
短編ですが、読んでいただければ幸いです。
いつもありがとうございます。
みやびあい