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ショーウィンドウのプリンセス

作者: 朝川はやと

 ファッションデザイナー。世間では華やかな職業だと思われているらしいが、実際はそうでもない。意外と単調な毎日の繰り返しだ。


 僕がデザインするのは専ら女性の服。ドレスやスカート、ワンピース。小さい頃から、僕は女性の服に妙に心が惹きつけられた。と言っても、別に自分が着たいわけではない。男性に比べて自由で豊富な色彩やデザイン、ふわりと広がるスカートをはじめとしたシルエットの美しさをじっくりと眺める時間が幸せだった。


 小学校の低学年の頃から、空想のドレスやスカートのデザインをノートに描くようになった。男の子が女の子の服を描くことは変だと幼心に思っていた。我が家は母子家庭で、ある時、母さんにノートを見られてしまった。僕は恥ずかしくてたまらなかった。けれど、母さんは、「すごい。これダイちゃんが描いたの?将来この服お母さんに着させてね。約束よ。」と言って何も気にしていない様子だった。

 その後、特に仲の良い何人かの友達に勇気を持ってノートを見せたこともあった。すると男の子も女の子も、「男なのに」なんて言うことはなく、デザインを褒めてくれたり、着てみたい服のイメージを教えてくれたりした。

 僕は本当に、素敵な人たちに囲まれて成長できたのだと、今になって思う。環境に恵まれ、ファッションデザイナーになる夢を叶えることができた。夢みた世界と現実はちがうと、思い知らされることも多い。けれど、自分でデザインした服を母さんに着てもらう約束を実現できたことが何よりも嬉しい。


 5月の心地よい晴天の朝、僕は事務所へと向かって歩いていた。そのルート上に、1軒のアパレルショップがある。ガラスのショーウィンドウには顔立ちのとても美しいマネキンが1体置かれている。凛とした微笑み顔でポージングをしている。マネキンと呼ぶより、彼女と呼んだ方が相応しく感じる。月に1回、衣替えが行われる。彼女の美しさが相まって、着ている服も一段と輝いて見える。毎月の新しい服を見ることと、彼女に会うことが通勤途中の楽しみだ。


 しかし、月が変わってしばらく経つのに、今月は一向に衣替えが行われない。僕は初めて店内に入った。木のデザインを基調としたオシャレな店内だが、そこに服は並べられておらず、雑貨だけが並べられていた。店主の老紳士になぜ服が無いのか聞くと、もともとアパレルと雑貨の両方を扱う店であったが、アパレル部門の売上が芳しくなく、先月より雑貨専門店となったらしい。ショーウィンドウのマネキンは店のトレードマークとして客や近隣住民に認識されているため、そのまま置くことになったとのこと。

 店を出て再びショーウィンドウを眺めると、彼女はいつも通りの笑顔でそこに立っている。けれど僕には、心なしか彼女が悲しい顔をしているような気がした。

 

 その日の夕方、僕は再び雑貨店に赴き、店主に名刺を渡し、自分がデザインした服を毎月ショーウィンドウのマネキン(彼女)に着せてくれないかお願いした。道行く人が注目してくれて集客になるからと、店主は快諾してくれた。


 1週間後、僕は1着のワンピースをお店に送った。翌朝、ショーウィンドウへ足を運ぶと、彼女は僕がデザインした空色のワンピースを麗しく着こなしていた。


 心なしか、彼女がいつも以上に笑っているような気がした。


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