2・家族との会話
そうこう考えているうちに、準備が終わった。先程は好奇心と期待に満ちていると言ったが、流石に五日間も眠っていたならば心配をかけていると理解しているので、少し会うのが怖い。次こそ本当に説教をされてしまうのではないか。
「なぁ、父上と母上は怒っていたか。」
「それは会ってからご確認すれば良いかと。」
確かにその通りだが。
「御坊ちゃま。準備できましたでしょうか。」
メイド長のライラだ。母の従者でもある。記憶の方の世界はわからないがこの世界での従者は基本的にどこにでも付き添い主人が何をしてほしいか察し、他のメイドに指示を出したり、前もって準備したりする。だがこのライラは従者といってもずっと母に付き添っている訳ではない。メイド長の仕事もあるし、母には他にも従者がいるからだ。あと僕の事を坊っちゃまと呼ぶのはこの人ともう一人くらいしかいない。従者をつけるのは何歳からと言うのは決まってはいないが、基本的に十一歳から学校に入るのでその時につける。
「今行く。」
おそらく会うのは三階の執務室になるだろう。城は一番上の階が主人夫妻、その一つ下が領主家族、そこには側室やその子供入る。使用人は一番下の階に住んでいる。例外になるのが従者で、主の隣の小さい部屋に住んでいる。小さいといっても使用人用の部屋よりは広いが。三階には主人夫妻の私室の他に先ほどの執務室、会議室、第一食堂、台所がなどがある。第一食堂は主人一族が揃って食事をする所で、台所もそのために存在する。使用人は一階にある第二食堂やその台所で食べる。主人夫妻が最上階にいる理由は身分が上なものは上にいるべきでという至極ありきたりな理由だ。したがって僕がいた所は2階にある自室なので三階に上がるまで時間がかかる。その間に気になることを聞いておく。
「ライラ。」
「いかがなさいましたか。」
「父上と母上は、怒っていらっしゃるだろうか。」
両親と付き合いが長いライラなら二人の感情を正確に読み取れるだろう。
「珍しく気にするのですね。」
ライラはこちらを揶揄うように笑みを浮かべ、続けた。
「御坊ちゃまは今まで何度も同じようなことをやっていらしたでしょう。」
「父上と母上が僕の事を愛してくれてるのは身をもって理解している。今までも最初に言われた言葉は僕のことを案じる言葉ばかりだ。だからこそ、」
「そこまでわかっているなら大丈夫でしょう。さぁ、しっかり謝って来てください。着きますよ。」
執務室に着いた。3回ノックして扉を開ける。そこには意外な人物がいた。
「失礼します。父上、母上。珍しいねレティシア。」
妹だ。いつもはしっかり目を開いて前をまっすぐ見つめてる瞳が少し下がって寂しそうに見える。
「体調は大丈夫か。」
「心配かけて申し訳ありません。」
「もぅ!本当にそうよ…。どれだけ心配したか…。」
母がいつもより顔を歪ませている。目も潤んでいる。怖いのがこれがある程度計算であることだろう。僕が罪悪感を感じる表情をわざと造っているふしがある。
「申し訳ありません。」
「お前の突飛な行動には慣れてるし、それを否定するつもりはない。だが自身は大切にしてくれ。お前は貴族家の長男だ。それを抜きにしてもお前の事が大切だ。」
父の言葉がいつもより感情的だ。それだけ心配させたのだと苦しくなる。
「お兄様。」
レティシアだ。先程の辛そうな顔は鳴りを潜め気迫に満ちる顔に変化している。
「どうしたの、レティシア。」
この返答は意地悪だと思う。レティシアが言いたいこともなんとなく分かる。
「どうしたもこうもありません!いいですか、これからお兄様が危険な事をしようとしたら、私もそれに参加いたします。」
男勝りなレティシアが僕の事を羨ましく思っていたのは知っていた。
「いきなり何を言い出すの、そもそも僕は危険な事にわざわざ手を出してるわけじゃないよ。」
「それならば五日間も目覚めない訳ありません!」
「それくらいにしない。レティシア。」
父は落ち着きを取り戻している。先程も別に慌てていたわけではないが。そして何か考え込んでいる様にも見える。
「お前は危険な事に手を出していないといったが、結果五日間眠っていた。それは本当に危険な事ではなかったのか?」
「えぇ。普通だったら少し刺激が来るだけです。」
「普通とは何だ?今回が初めての実験だっただろう?」
やらかした。流石だ。父は本当に侮れない。八歳が何かを隠そうと思っても無駄な気がするが。
「そうねぇ。なんというかいつもより、愛想がいいわね。ちゃんと申し訳なさそうな顔をしてるわ。いつもは表情動かさないのに。」
母も侮れなかった。というか自分でも気づかないところを指摘されてしまった。
「私は特に違和感を感じなかったのですが…お父様とお母様が言うならそうなのでしょうね。つまりお父様とお母様が言いたいことは、
あなた、本当にお兄様でいらっしゃるの?」
レティシアは本当に5歳なのか?
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