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拾った子供が実は魔王だったけど、とりあえず一緒に逃げようか  作者: 京々
第3章 二つの村の経由道

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第58話 魔王とは②


 女将さんに挨拶をして、宿を出た。

 もう日はすっかりと登っていて、村の人々はみんな働いている真っ最中な様子。


 そんな中を、俺たちはゆうゆうと歩いて、村を出ていく。村の人々はそれを「おかしな奴らだな」という目で見てゆく。実際におかしな奴であることは否定できないので、俺たちはそれらを流して歩いた。

 アジャはそれよりも、俺が朝食の時に話したことを気にしているようだった。


 だから俺は、ある程度歩いて、村から離れて、人が全く見えなくなってから、それを切り出した。


 竜の峡谷と違って人里の領域に入ったこの辺りは、広大な大地の中に随分と植物が増えている。


[とりあえずざっくり話してみた。でも、あんまり有益な情報はなかったな。当然というか、魔王を実際に見たことがある人なんかいないから、俺でも知ってるようなふわっとした話しかなかった]

[……そっか]


 アジャは神妙に頷いた。


[ま、大きな町とかに行けばもっと何か分かるかもしれない。あの村には教会がなかったし、やっぱり教会が狙い目かな]

[……うん]


 そんな適当な話でお茶を濁してから、俺は実に軽い調子で気になっていることを振ってみた。


 アジャも、多分俺が本当は振りたい話があることを分かっていたのだろう。ライムグリーンの瞳がそっと俺を見上げている。


[……ちなみに、なんか、魔王って理性ないらしいんだが。アジャ公はあるよな。というか、これから無くなってくとかそういうことあったりする?]

[ない、と思う]


 アジャは変わらず神妙に首を振った。ふむ、やっぱりか。


 なんらかの作用によって、魔王になったら徐々に理性が失われるのではないか、という可能性は考えられたが、そういったことはないらしい。


 アジャがゆらゆらと尻尾を揺らしながら考える様子を見せた。


[……俺も、他の覚醒者のことはよく分からない。会ったことないし]

[だよな]

[今まで現れた魔王には、理性がなかった?]

[あるいは、もしかしたら、『理性がない』と人間に思わせる共通点が魔王にはあった、ってことかもしれないな。単純に考えるとだけど……]


 俺の言葉に、アジャがはたと顔をあげる。ライムグリーンがぱちぱちと鮮やかに瞬いた。


[……そうかも、しれない]

[というと?]

[言葉、通じないし。話ができないから、理性がないと思われた、のかも]


 俺はなるほどと頷く。その説が正しいのであれば、確かにアジャも当てはまる。竜の言葉が人間には普及していないのであれば、アジャがゼロからコミュニケーションを取ろうとするのは困難だ。

 自惚れじゃなく、アジャが人間の領域にいられるのは俺が通訳しているからである。


 ライムグリーンがピカピカと怪しく光る。


[それに、ハチと会わなかったら、俺、多分人間が来たのを全部殺そうとしてたと思う]

[え? マジ?]

[……だって、殺されるって思うから。誰か一人でも生きて帰すと情報が敵に渡って苦しくなる。残らず殺すよ]

[……合理的だけど怖いこと言うね、お前]


 なるほどな。確かにそれは理性がないと思われても仕方がないかもしれない。会った人間は残らず殺しにくるのだから。


 それに、人間側としても殺すことの正当性は欲しいだろう。

 理性がなく人間を殺しに来る。……実に分かりやすい敵だ。殺すのもやむなしだな。


「……」


 でもどうなんだろう。覚醒する奴が全員そうなのかと言われると、首を傾げざるを得ない。


 アジャの場合はオババさんから[人間が殺しにくる]という情報を得ているのもあってそういう頑なな態度になってしまうだろうし、言葉が通じないのもたまたまアジャがマイナーな言葉を喋る文化に生まれたからだ。

 覚醒がどれくらいの事例で起こってるのか知らないが、一人くらいいるだろ? 大陸言語を喋る覚醒者だって。まさか一人もいないのか? 話者が一番多そうなのに?


 それにアジャが喋る言葉だってさ、誰か喋れるだろ。話者がいるから言葉があるんだぞ。

 人間側に誰か喋れる奴いないの? エルフもドワーフも獣人もドラゴニュートも人間と仲良くしてるんだから、誰か竜の言葉を喋れてもいいじゃん。


 そこまで考えて、一旦俺は考えるのを止めた。ただの妄想だ。結局、もっと情報を集めないと確実なことは言えない。


 俺はぽんとアジャの頭を撫でる。


[とりあえず、他の覚醒者の事例について調べてみるか。あと、ボネモハの町には教会があるらしい。魔王が現れた時に教会が頼りにされるらしいし、あの少女の話からしても、教会はなんかあるだろ。調べてみるぞ]

[ん……]

[あ、でも調べるだけじゃないからな!]

[え?]


 そもそもなんでボネモハの町に行くかって、祭りがあるからだ。

 楽しまなければ勿体ない。


[調べ物は俺にどーんと任せて、祭りを楽しもうぜ]


 俺の言葉に、ライムグリーンはキョトンと毒気を抜かれた色になった。俺は続ける。


[どこ行く? ていうか、何があるんだろうな? 俺の知る祭りだと、定番はやっぱり出店だ。美味いものが色々売ってる。多分。あとは祭りのイベントがあったりな。楽器演奏とか、ダンスとか……?]

[……全部、知らない……]

[そっか。じゃあきっと楽しいぞ。まあ今話したのは俺の知る祭りだから、ボネモハの町の祭りはどんな感じなのか俺も分からない。楽しみだな!]


 ぐりぐりと頭を撫で回して、俺はこの話をおしまいにした。

 アジャは自分の頭をゆっくりと後を追うように撫で、俺を見上げる。


[……ねえハチ]

[どうした?]

[……ありがとう]

[ああ、どういたしまして。まあ祭りの前に次の村があるけどな。そこでも俺が情報収集するから、安心しろよ]

[……うん]


 しかし、次の村でも目ぼしい情報はなく、俺たちは順調に歩いて、次の日にはボネモハの町に着くこととなる。



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