S5:探検開始
◇第二拠点予定地
『やぁ』
『っ!?どこだゲス野郎!!どこにいる!!お前また私を通話拒否にしてただろ!!?』
『してたよ』
さて、今日私がおちょくるのは、βで私を殺りそこねた断罪者(笑)です。
貴様とかいってたあの痛い人ね。いつの時代の人だよっつーね。
ヒトデで通話ができる相手は『フレンド』だけだ。もちろん、それ以外のもっとゲームチックな方法。例えば電話とかでもいけるんだけど、利便性で言えば通話『魔法』が一番手っ取り早い。
そうそう、断罪者くんね、俺のフレンドなんだ。あくまでビジネス上のアレだからビフレと俺は分類しているが、それはともかく貴重なフレンド枠をお互いに潰してフレンド関係になっているのである。
奴は煽り耐性は低いがプレイヤースキルは光るものがある。それ以上にすごく執念深い。ちょっと狂気の領域に入ってるレベルだ。あの負けず嫌いの強さはアイツの強さの根幹なのかもしれない。
なんでかなぁ?序盤に騙して闇討ちしたからかな?思えばあそこから奴は俺を捕まえることにご執心のようであった。
最初はオンラインゲーム初心者丸出しのピュアピュアくんだったのに、気づいたら某野菜人ばりのスピードで成長したもんね。戦闘種族かよおめーってね。奴のことはいつもは通話拒否にしているのでフレンドだけどあっちから通話をかけることはできないのだが、こっちからかけると怒涛の勢いで喚き始める。正式版序盤も相まってが断罪者くんのテンションはいつもよりさらに高い。
俺は適当に煽り散らかしてほしい情報をさりげなく抜くと、通話を勝手に切って断罪者くんを再び通話拒否リストに入れておいた。ありがとう断罪者くん。君は永久に私のカモネギだ。いや、煽れば煽るだけ情報が出てくるガチャガチャみたいなもんかな?どうやらNo2b鯖にはγ鯖出身の割合が多いとのこと。なんでだろう。
ふむ、こうしてみるとぶさおはギャーギャー騒がないから悪くないと思えてきた。γ鯖のおさるさん達より知性を感じる目をしている気がする。
さて気分転換も済んだところで増築だ。
◇
ミニ地下要塞の建設は今のところ大きなトラブルのない状態で進行している。
地上部分は武骨な3階建ての砦タイプ。最初に木材壁で3階まで作り、1階から建材を石材にアップデートしていく。1階はダミー寝袋や加工台、窯などを置く場所で、2階が資材置き場、3階が物置兼狙撃ポイントだ。
これと言って特に面白みのない、初心者に毛の生えたプレイヤーが作りがちな豆腐建築である。あるいは縦長長方形のこのタイプの拠点を棺砦と呼ぶ。
βが始まって20日くらいの頃にはこの棺砦がニョキニョキとフィールドによく生えていたもんだ。
棺砦の良い所は利便性もさることながら、猿でも建てられるほどシンプルで、尚且つ拡張性があること。なにより美的センスが壊滅的な奴でもそれなりの物が建てられるのも利点の一つかもしれない。
しかし俺の棺砦は一味違う。棺はあくまでダミーで本命は地下だ。坑道に接する形で俺は根のように地下要塞を拡張している。まあ地上部分に出ている部分は最悪吹っ飛んでも問題ない部分なんだ。βだとカミカゼアタックされたりロケランで拠点が吹き飛ぶこともあったので、内装とかにガチで凝りだすのはもっと後の話だろう。
βでもγ以外の他の鯖では姫路城再現とか面白いことをやってらしいが、γは荒れすぎててそんな余裕はなかった。なので俺も含めてγ鯖の連中は対戦争用の拠点づくりには慣れていても、内装を凝ったりとかは二の次だったのでヒトデの建築のポテンシャルを良く知らないのだ。
………………なんか改めて考えるとγ鯖が可哀そうに思えてきたぞ。
◇
それはさておき、要塞拡張もちょっと飽きてきたので周囲のマッピングをしよう。
ヒトデでは初期の時点からプレイヤーはマップを持っており、自分から半径1.6㎞の航空写真が見れる。これはオートで実行されており、移動すればするほどマッピングは進んでいく。といってもあくまで航空写真程度なので、どういう地形なのかは蓋を開けてみないとわからない場合が暫しある。慣れてくると川の流れとかである程度予測もつくんだが、アテが外れることもなくはねぇってこった。
例えば俺たちが見つけた坑道とかは地図じゃ表示されない。自分でマーカーなりピンを刺して覚えるしかないのだ。
戦争やるのに周囲の地形が把握できてないんじゃお話にならんからな。坑道の方が絶対難易度高いし、とりま地上部分を散策しよう。
鞄(獣系の皮をクラフト。インベントリを拡張する)ヨシ!
水(飲まないと死ぬぞ)ヨシ!
携帯食料(獣系素材と木の実や種からクラフト。味はお察し)ヨシ!
簡易低級包帯(草からクラフト。止血&HP回復)ヨシ!
縄ヨシ!
梯子ヨシ!
低級燃料(獣系の油からクラフト)ヨシ!
あとはβから持ち込んだ武器とかアイテムでなんとかなるだろう。万が一ロストするとヤバいもんだけ地下要塞のストレージボックスに鍵付きでおいておこう。
俺が梯子に足をかけて地上を出ようとすると、肩に重い物がのしかかる感触が。
「おまえくんの?」
『Bu』
「死んでもしらんからな」
イーヴァぎゃる★かわ探検隊にぶさお(かわいくない)が加わった。やったね()!
◇湖付近
親方、空から男の子が!!
あのシーンってすごいワクワクするよな。これから今までとは違う日常が始まるんだってことを見てる人にすぐにわからせてくる。いや、降ってきたのは女の子だっけ?
それはともかく。
「うわ゛あああああああああああ!?」
推定男の子が空から本当に落ちてきた。
見なかったことにしようかな。落としておいてなんだけど面倒ごとに匂いがする。
『Bu?』
見に行かないの?みたいな目で顔を覗き込んでくるなぶさお。リュックに戻ってろ。
◇第二拠点付近
空から男の子が降ってくる20分前。ちょっとフィールドワークしてくるとビーに一報入れた俺は探検にでかけたのだが、さっそくぶさおと揉めていた。
「お前やっぱり重い!降りろ!!」
『BUUU!!』
ただでさえこちとら胸に重り付けてセルフハンデつけてんだぞ!!クソっ!キャラメイクの時には気にしてなかったけどおっぱいが邪魔だ!!母上や姉上どもはこんな体でどうやって動いてんだ?やっぱりサラシでガチガチに固めるのがベスト………?
肩にのしかかるおっぱいとぶさおのウェイトで体感疲労は激上がり。しかしぶさおは俺の頭に爪を食い込ませて徹底抗戦の構えである。
「歩けデブ。野生を忘れるな!!」
『Buuuuu…………』
「なんだその不満げな声は。ひっぱたくっぞ」
『Gau!』
「おまっ、耳に噛みつこうとすんなアホ!」
『Buuuuuuuuu!!』
「ブルルルルルルルルアアアア!!」
飼い主に威嚇してきやがってのでこちらもキチゲ解放して威嚇しかえし隙をついてビンタしたらぶさおは「えぇ………(ドン引き)」みたいな目でこっちを見てきた。へんっ。地球の頂点捕食者人間様に逆らうからこうなるんだ。お前にはパッションが足りねぇ。今の俺はプリキ〇アにだって勝てるね。ファッションバトルでの勝者が女性バトルの勝者よ!URYYYYYYYYYYY!!
ふぅ、キチゲを吐き出してスッとしたぜ。
どうもぶさおは俺が思っているより賢い疑惑がある。
βの時に遭遇する生物と言えば、何考えてるかわからんネウタルのような微生物タイプ、メンメパースのような動物タイプ、異界とかから容赦なく殴りかかってくる『渡来種』のような機械タイプ、そして人型とか特殊MOBの人間タイプの4種の思考形態を持っていた。
ぶさおは見た感じ動見ても動物タイプなのだが、こちらのアクションに対する反応が動物のそれというよりは駄々っ子のそれに近い。
曰く、犬は人間で言うところの2歳から3歳程度の知能を持つらしいが、そのワンコより賢いとされるのが豚である。豚は結構賢いらしい。もしかしてぶさおのそのぶくぶく膨れたわがままボディは豚の暗示だった………………?
俺はぶさおの賢さを信じ説得を試みる。……………が、ダメ!まったく…………反応しない!
ぶさお………分かった上での、拒否っ!圧倒的、ブサイク…………!性格まで…ブス………!
俺の好きな賭博漫画でイライラをごまかそうとしたが駄目だった。
しかたがないのでアイテムとしての特性を持たないただのリュックをクラフトし、そこにぶさおを入れておぶることにした。ぶさおも自分の居住地を与えらたことに満足したのかリュックにすぽりと入った。ジャストフィット!これでいつでも捨てて帰れる。冷静に考えて万が一の時役にも立たない6㎏のデブを肩にのせて逃げるとかアホのすることだからね。俺はやばくなったらぶさおを捨てるよ。ピカチ〇ウだってヤバい時はサ〇シの肩から降りて走るよな。でもこいつは絶対に走らないだろうという嫌な信頼がある。だからいつでも捨てられるようにする。
そんな感じでぶさおを背負って探検した。
はてさてここはどんなバイオームなんでしょう?建材を集めている途中に遭遇した獣どもはそこそこの強さだった。ノーマルメンメパースよりは確実に強い。初心者なら一瞬で狩られて終わりだが、β時代から引き継いだアイテム、スキルやトラップを駆使すればまだ迎撃できるレベルだ。
気候自体は穏やか。木材も多い。典型的な上級森林バイオームにも見えるが、坑道があるってことはただのバイオームではない可能性がある。
ヒトデの『坑道』ってのは本来の意味だけでなく、単純に地下通路って意味も持っているのだが、この行動が通るエリア付近は難易度が高いか何かしらが仕込まれているのか鉄則だった。
よく観察すると、茸が多いように見える。水気も濃いようだ。自然が豊かという事は、それを求めて生物も集まるという事。思わぬ強敵との遭遇も警戒しなければ。んおっ?これは人工物?崩れかけた野営地跡を発見。プレイヤーによる物ではないだろう。プレイヤーが作ったにしては風化が早すぎる。
お宝の気配がするぞ。
『Bu』
そうか、お前もそう思うかぶさお。
ヒトデの世界観はいまいちわからないが、こうして旧時代の文明を感じさせるオブジェクトが散見される。坑道もその名残だろうと黒田さんは言っていた。
ただ、この手の遺跡系は本当にピンキリだ。無論、だいたいは攻略難度と報酬は釣り合っているケースが多いのだが、偶にとんでもない地雷が置いてあったりクソみたいな報酬しか出ない時もあるし、逆にこうしてあっさり発見できるのにとんでもないお宝が眠っていることもある。
銅箱、いや、銀箱以上が望ましいが………………。
喜び勇んで野営地に突撃し漁りを始める。そんなこんなで偶に見つけたアイテムに対し寄越せとぶさおがごねるのを押し込めながら(高レア程反応するのがクソ)暫し、『Bu!』とぶさおが鳴いた。
またアイテムを寄越せというのか?いい加減にしろよと思いトサカをまた引っ張ってやろうとすると、ぶさおの視線が此方に向いてないことに気づく。後ろ?いや上か?
野営できるだけあってその場所は少し拓かれており、空を見ることができる。ぶさおが一体何に反応したのかと双眼鏡を向けると、ぶさおの視線の方向に何かが飛翔していた。
「……………ヘルメスルニス?しかもEタイプか?」
スラッとした蛇のようなボディに2対の翼。そのうち一対は腕と同化しているが、それとは別に第二前腕と脚を持っている独特の体。頭部は鷹と龍を混ぜたような感じ。色は薄い銀色だが、その体が仄かに青色の光で点滅しているということは上位個体のエリートタイプだろう。
体長は2m程度と龍タイプの中では小型だが、速度と逃げ足に特化しており、βでは『略奪者』とも呼ばれていた。そのあだ名からお察しの通り、奴はでっかい図体して盗みに特化してるクソなのだ。大物から小物まで価値のありそうな物は何でも盗む。ただ、ヘルメスルニスは個体ごとに「何に価値があるか?」が違うようで、かならずしも高レアばかり狙うわけではない。その点、高レアのアイテムを見つけるごとに騒ぐぶさおよりはつつましいのかもしれない。
問題はヘルメスルニスのもう一つの特徴。奴は人も容赦なく食うのだが、たまに捕まえてそのまま巣へ持ち帰ろうとする。この習性をうまく利用すると遠くのバイオームへ一気に移動もできるのだが、初心者や初めての人はパニックになっても仕方がない。
「いやああああああああああああ!!?」
なるほど、ぶさおはアイツの声に反応したのか。双眼鏡から自家製フルカスタム対龍ライフルに切り替えてスコープを覗き込むと、ヘルメスルニスの腕から一人のプレイヤーが吊り下げられていた。明らかに初心者装備で完全にパニックになってじたばたしているが、人間の膂力で振り切れるほど奴のパワーは低くない。盗み特化の癖にまともに殴り合っちゃいけない程度には奴は強い。
チャンスは一回だな。
飛行方向から推察するにおそらくこのラインで飛ぶはず。目標座標修正。風はない。おっぱいとぶさおが邪魔くさい。くそっ。
セット。よーく狙って………………
『貴方は少し早めに引き金を引く癖がある。反射で弾くと照準がそれだけブレる。冷静に、ベストのタイミングを探って』
わかってますとも母上。射撃の師である母上の教えを思い出し心を落ち着ける。イケる。やれる。俺はヤレる。なんならプレイヤー諸共ヤる。それがベスト。
アビリティ【HeavyMoon】起動。
効果は重力操作・溜撃。重力操作で体を地面に固定し、弾丸にチャージ開始。威力を更に引き上げる。
3,2,1
偏差込みで引き金を弾く。家が崩れるほどの轟音と共に弾丸が空を割く。強烈な反動がおっぱいをぶったたくがある程度衝撃を吸収してくれた。なんだ、おっぱいも役に立つな。おっぱいに感謝。
ヘッショをかまされたヘルメスルニスの頭が吹っ飛ぶ。表示されるOverkill!!の文字。一発で仕留めることに成功したようだ。
「うわ゛あああああああああああ!?」
ただ、流石にプレイヤーまでは同時に射抜けず、ヘルメスルニスに捕まってたプレイヤーは落っこちていった。