S4:小指切断
アニキの大好きな ケジメです
ブサイクがムカつく顔でこちらを見ている。
ブサイクに顔を燃やされたことはムカつくが、少なくともさっきの謎の爆発の原因は大体わかった。コイツのせいだ。
こんなブサイクに構ってる場合じゃないと思った俺は適当にブサイクを地面に投げ(猫のように華麗に着地しやがった)、再び作業を始めた。拠点にはとにかく木材と石材が必要だ。たくさん蓄えておくに越したことはない。越したことはないのだが、ブサイクが不満を主張するようにブーブーうるさい。
適当に根っことか草とかを投げつけてみると、根っこに反応した。いや、根っこ周りの土をなめているのか?クラフトしたスコップで地面を掘って土を投げつけたら、くっちゃくっちゃと食べ始めた。
クチャラーかよお前。てか土食べるんだ。
コンクリートジャングルになってないこの世界だとある意味無敵な生態じゃないかと思わず観察していると、ブサイクは石までボリボリ食べ始めた。こわっ!石かみ砕くってヤバい顎の力じゃん。噛まれたら一たまりもねぇぞ。よく見たら嘴ってよりはスッポンのそれに近い気がしてきた。
しかし見れば見るほどふてぶてしい顔をしている。人生に諦めきったようなオッサンの哀愁を感じる顔にもみえてきた。と思ってたらいきなり自分の首に繋がれた縄をかじり始めた。まてぇい!!小賢しいブサイクめ!!
思わず手にした3輪丸鋸大鉈でひっぱたくわけにもいかず素手でビンタしたらガブッと噛みつかれた。
「イッテ!?なにすんだオマエ!?」
たぶん「なにすんだおまえ!」とこいつも言いたいだろうが、お互い様である。
小指噛みちぎられたんだけど、こわぁ………………。
ちなみに、初期のVRでは痛覚OFFが当たり前だったのだが、昨今では現実にある程度寄せて痛みを感じる。勿論国の定めた制限を超えた痛み(最大でタンスに小指をぶつけたくらいとされている)を感じさせることはできないが、痛い物は普通に痛い。
というのも、人間という生き物は予想よりアホだったらしくて、VRの痛みのない世界に慣れてしまうと現実でもそうであると錯覚するらしい。なので高所から飛び降りたり不注意な事故を起こしたりと、そう言ったことが社会問題になった。なのでアホな種族:人間に危機感を植え付けるためにVRでも痛みを感じる仕様になっている。
とりあえずそこら辺の草を包帯の代替アイテムとして巻いて止血しておく。このままだと組抜けたヤーさんみたいだしな。なんで俺がケジメつけなきゃいけねぇんだ。
と思ったらパラランと軽めのファンファーレ。ログを見るとテイムに成功したらしい。
嘘だろお前。小指が大好物か?いや、肉が好物だった思おう。もし人肉素材がテイム食材だとしたら俺はヒトデの製作陣の正気を疑う必要が出てくる。
しかし本当にテイムできたのか?恐る恐る手を伸ばしてみると予想外の跳躍力で俺の指に飛びついてきた。
あぶなぁ!?ざけんなテメェ!!俺の指はお前のジャーキーじゃねぇんだぞ!!
兎に角さっさとテイムを正式に完了させよう。ヒトデのモンスターは条件を満たす(だいたいは気絶させ、餌付け)とテイムのファンファーレが鳴る。ただしこれはあくまで仮みたいなもので、触れた状態で名付けて正式にテイムが完了する。俺は必死に手に噛みついてこようとするブサイクをうまくかわしながら首根っこを掴んだ。
「名前……『ああああ』…………いや呼びづらいな」
こういう時はビジュアルからシンプルに名付けよう。しかし見れば見るほどブサイクだな。愛嬌のないブサイクだ。
「よし、お前は『ぶさお』だ」
テンテレテーンと明るいSE。正式なテイム完了の合図だ。テイムが完了すると同時に、メニューにぶさおの情報の一部が開示された。
なんだと………………お前………………
『ぶさお(♂)』じゃなくて『ぶさ子(♀)』だったのか………………
◇
まあいいや。ネームタグをクラフトすれば再度名付けられるが今更変える気もない。てか今の素材じゃネームタグは作れない。ぶさおはぶさおだよ、うん。
テイムしてしまったし、逃げだす心配はなくなった。さあそこをどけ。お前を繋いでるその木が一番大物なんだ。ぶさおを縛っていた木の方の縄をほどくと、ぶさおが一瞬で俺の体によじ登ると俺のエルフ耳に噛みつこうとした。
何してんのお前!?てか重いんだよ!!
某マサ〇人代表の少年が肩に乗せてる電気ねずみさんは6㎏あるらしい。つまり2Lペットボトル3本分だ。よく平気な顔して肩に乗せてるんもんだと思っていたが、普通に重い!このデブ重い!!
暫し無言の争い。肩からおろそうとする俺の手に噛みつこうとするぶさおVS俺だ。
やがて適当に俺が目立つトサカをむんずと掴んで引っ張ってみると『Bu!』とおならみたいな可愛くない鳴き声を上げてぶさおはおとなしくなった。それでも肩にしっかり爪を食い込ませて降りようとしなかったので俺も諦めた。
しかし片方に重心が寄るのは予想以上に動き辛い。再び無言の抵抗。やがてぶさおも妥協したのか、俺の首に跨る形で落ち着いた。肩車というには、頭にしっかりしがみついてるのでちょっと違う気がする。
「お前その状態でクソとか屁とかしたら許さんからな」
『Bu~?』
もういいよ、こいつは性格までぶさおだ。なかなかいい性格してやがる。
『Buuukk!』
再びぶさおがクシャミをすると俺の頭が燃えた。お前やっぱ降りろ!!
◇
結局ぶさおは降りなかったのでそのまま木こりを続けた。強引に引きはがしたら頭皮ごと持ってかれそうな予感がしたので仕方がない。自由かコイツ。頭が焦げ臭いんだけど。てか髪をかじるな!
俺はぶさおを頭にのせたまま適当に地面に図面を書いてみる。
えーっと、坑道がこう走ってるから、大体こんな感じにダミーを作って、坑道側も拠点の一部にしてしまおう。維持費が嵩むが必要経費だ。
俺はまずスコップを坑道から真上に続く梯子通路の近くにサクッと刺す。一回、二回…………五回目で俺の視界上で青くマーカーで記された場所がボコっと1.6㎥ぐらいのブロック状に凹み、そのブッロク越しに土が積みあがった。するとあれだけおろそうとしても降りなかったぶさおが下りて土の山はくちゃくちゃと食べ始めた。
もういいやコイツは。いないものとして扱おう。
ヒトデのクラフトやビルドは結構直感思考でサクサクできる。基本単位が1.6mで、地面を掘ったり木を伐採したりできる。ただし、これはクラフト台で作成したアイテムに適用されるルールであって、手作業でコツコツ作ることも可能だ。クラフト台で作ったスコップとか斧とかでも、メニューから設定を切り替えれば現実のスコップや斧と同じようにも使える。
車でいうところの、オートとマニュアルの切り替えみたいなもんだろうか?
『そっちはどう?』
こつこつ地面を掘りミニ地下要塞を建築していると、俺を追い出した野郎からいきなり連絡が来た。定時連絡だ。
『一人でも順調さ。途中でわけわからん生き物をテイムしたけど。『ブスガオラプトル』って生き物らしい。具体的な生態はまだ接触レベルがたりないせいかよくわからん。そっちは?』
ブスガオラプトル。ぶさおの種族名らしい。
もはや公式公認のブサイクなのか?絶対製作陣遊んでるだろ。
今のところ雑食で土を好んで食う事と、クシャミすると爆炎を吐くことはわかってるんだが、それ以外がよくわからん奴だ。
『テイムってマジ?まあそれはあとで見るとして、こっちは順調だよ。やっぱり4人といると早いね』
『イヤミか貴様ッッ』
『いやんっ。やさしくしてっ』
野郎…………完全に揶揄ってやがる。
まあβ時代も俺が囮になることで常に安定した戦い方ができていたのだからこのスタイルに落ち着くのは仕方がないのだが、絶対にビーは面白がってる。隠してるようだが声音でわかる。
『あっ、そういえばこっち『ネウタル』捕まえたよ』
『はやっ!やっぱ水源近いからか?』
『だろうね~。しかも純正種。さっさと繁殖させとくよ』
『頼むわ』
ネウタルは、一言で言ってしまうとクラゲみたいなモンスターだ。基本的に無害で子供でも倒せるレベルである。
見た目はプルプルの透明の玉ねぎ、あるいはキノコに、芋虫のような短い足を何本も生やしたような見た目をしている。その小さい足を縮めてはピョンピョンと小さくジャンプしたり這って動くのだ。
基本種、純正種とよばれる一番シンプルな形態は透明で、大きさは直径約50㎝程度。この世界のそこら中に生息していて、探せばすぐに見つかるレベルなのだが、ネウタルはプレイヤー達の心強い味方だ。というのもこいつは本当に突然変異を起こしやすく、育て方次第で様々な能力を獲得する。レアなやつで金属をたべることで異常な打たれ強さをもってメタルネウタルとか、火の中で適応したファイアネウタルとか、本当に様々だ。変わり種でトサカの生えた希少の荒いギャングネウタルとか、ダジャレを言うと全力でタックルしてくるトマトネウタルとかもいる。生育環境や餌で変幻自在にネウタルは育つのだ。β時代だけでも30種類以上のネウタルが確認されている。
あ奴もネウタルのエサにしてやろうか。
穴の上からこちらを見下ろすぶさおをみると、ぶさおは『Buuk!』と可愛くないクシャミをして爆炎を再び放射した。