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S3:別居宣言




 ひとまず話が纏まった(気がする)ので俺たちは拠点を置く場所を探しに旅を始めた。

 

 もちろん、フィールドをえっちらおっちら移動していればエネミーMOBにも遭遇はするのだが。


「ッ………………」


 ちょっとご機嫌斜めっぽいイヤハ様がですね、ええ、荒らぶってるといいますか。

 深紅の雷光を纏った次の瞬間にはおよそ人間らしからぬ軌道とスピードで動いたかと思えば敵を切り刻みましてね。頼れるがちょっと怖い。そう、こう見えてもイヤハはうちの身内チームの中でもバリバリの戦闘マシーンなのだ。反応速度で言えば間違いなくうちの中で一番である。


 【Rizin (ライジン)Drive(ドライブ)

 深紅の雷光が特徴である、使用者に雷光を操る能力と運動性能の大幅な強化を齎すシンプルにして強力なアビリティ。使用者しだいではとことん強くなるが、イヤハのそれは多分その極地に近い。

 まぁイヤハはなにかあってもパフォーマンスが落ちたり周囲に被害を齎すタイプではないので一時放置しよう。


「集合場所の滝のところも結構いい気がしたんだけどね~」


 その点、イヤハの実兄であるビーは慣れたもので、イヤハはいないものとして話を始めた。


「ビーの言いたいことはわかるよ。あそこは高所が取れるし、水源も近いから資源も集めやすいし、滝の近くだから川の近くでも船から攻められたりするリスクが低い。ただ、立地が良すぎるってことは他の連中もそう考えている可能性が高いということで、安置山からも近いから便利ではあるが、近すぎるとゾンビアタックで攻め落とされるリスクがある」


 あと、安置山から近くて見栄えのいい場所は愉快犯とか全然関係ないプレイヤーまで寄ってきて余計なトラブルになるからなぁ。敵か味方かの区別が一瞬でできないというのはかなり面倒だ。γ鯖でもワザとだ事故だの論争でよくもめてた。アホらし。十中八九ワザとに決まってんだろ。

 

「ですなぁ。水源の近さは魅力的でござるが、寄ってたかられても困るでござる」


「となると、どこがいいんだろうね。γの時から立地は変わってますよね」


 やっぱりそれこそγ時と一緒で山岳部は強いだろうな。平地は序盤は強いが、武装が発達してくると攻めやすくなるからな。水源のある山岳部、これがベストだろ。あとは大胆に海岸沿いに第二拠点という形で拠点を作ってしまうってのもアリだとは思うぞ。序盤の維持費が面倒だけどな。

 坑道が有ればなおよし。


「あ、第二と言えば、お前は別居だからね」


「えっ?」


「いやイーヴァヘイト集めすぎなんだって。速攻で攻め落とされたらかなわんもん。だから本拠地とは別に第二拠点兼イーヴァの家を作るから、ふぁいと!」


 うそん。




 親愛なる身内より別居宣言がなされた。

 いいもん。1人でやるから。やりゃぁいんでしょ!


 ひどい奴らだぜ。まぁ軽くゴネたらイヤハとかガリちゃんはこっちの手伝いを申し出てくれたけど、2人は秘密兵器枠だから温存したいので泣く泣く断った。ありがとう。気持ちだけ受け取っておくぜベイビー。


 んでんで、こっちは第二拠点づくり。

 えっちらおっちらと立地条件を確かめつつ安住の地を巡ること1時間、クソMOBに追いかけ回されつつ迷路のような坑道を抜けた先にいい感じの山があった。山頂付近は程よく平らになっており、川もそこそこ近い場所を流れている。

 森林、河川、鉱山と全ての資源ポイントからいい感じの距離感の場所だ。俺たちはその小山に本拠点を置き、山の入り口、坑道の近くに第二拠点兼俺の家を置くことになった。囮としては申し分ない位置である。


 ヒトデに於いて、一般的なオンラインゲームに於ける『街』の様なものは存在していない。リスポーンポイントは自分でクラフトした寝袋とかになるし、アイテムなどを置いておける拠点とかも基本的に自分で一から作る。

 拠点の設営可能箇所は生物(一部例外あり)及び安置山、中立領域以外のほぼ全て。川におっ建てようが人様の家の上に建てようが地下に作ろうが、はたまたダンジョンの出入り口を塞ぐ様に建てたってルール上はアリなのだ。


 その代わり、どこにでも建てられるというメリットは諸刃の剣であり、拠点そのものは他のプレイヤーにも破壊ができる仕様となっている。ダンジョンの出入り口に関所の様に家を作るのは勝手だが、それを邪魔だと考えた他のプレイヤー達に破壊されても文句は言えないのだ。

 例えるなら、交差点のど真ん中でキャンプし始めたら追いやられるのと同じ理屈である。


 なので拠点の置く場所は非常に慎重に行う必要がある。重要なのは資源が採掘できる場所に近いこと。でないと一々移動して必要なものを取りに行くことになる。資源が特に必要な序盤は本当にめんどくさい。

 これは現実とそう変わりない。駅近コンビニスーパー近くの方が住みやすいに決まってる。いつでもどこでもお届けしてくれる密林さんはいないのだ。

 問題は現実と同様にそういう立地の良い場所は人が集まるので隣人ガチャが始まるという点にあるが、そこはもう天に任せるしかない。ダメだったら火をつけてお引越ししてもらうだけだ。

 キチガ○にはそれを上回るキ○ガイムーブで対抗。これが基本だ。


 カッコンカッコンバッキバキ〜

 カッコンカッコンバッキバキ〜

 ………………オラッ!早く折れるんだよ!


 βから持ち込んだ3輪丸鋸大鉈ブレードくんだが、まさかの燃料持ち込み忘れという痛恨のミス。

 クソがッ。


 仕方がないので鉈モードで木をぶん殴ってるが、ここの木はアホみたいに硬い。

 βより強度が上がってるのか?それとも単純に木の種類が違うのか?

 …………嫌だなぁ。ビー達に燃料を借りに行けばいいんだが、ビーとかガリちゃんとか絶対煽ってくるもん。


『えっ、燃料持ち込み忘れとかそんなNoob丸出しおる〜?』

『もれなら恥ずかしくて表を歩けないでござるなぁ〜』


 想像しただけでイラッときたぞちくしょうめ。


 いいさ、別に急ぎでもないんだ。

 ガッといい感じに鉈が入った。メキメキという小気味良い音。あっ、ア〜ッ!?こっちに倒れてきたぞ〜!?

 アホかっ!


『Bugy!?』


 怒りのあまり適当にスイングしすぎたっぽい。慌てて飛び退くとドーン!と倒れて、バーン!と謎の爆発の後にすぐに8分割くらいにバラバラになった。

 ふむ、そこそこあるな。βだと一本あたり4つ木材が手に入ったが、正式版は8本。でも時間効率を見ればトントンか?てかさっきの爆発はなんだ?


 しかも何かの断末魔みたいな聞こえた気がするぞ、と思って木の倒れた方を見てみたら何かが潰れて気絶状態になっていた。ナニコレ?


 なんて言えばいいだろうか?太り過ぎた猫のボディに玉虫色の非常に柔らかな鱗を貼り付けて、頭部を出目金みたいに目が突き出た爬虫類系の感じにして、なおかつ口が鳥みたいな嘴なんだ。しかも頭にはキラキラした鶏冠みたいなのも生えてる。足は、鳥のそれに近いが水カキのような物もある。

 絶妙に可愛くない。なんとも間抜けな顔をしてる。キモカワ選手権に堂々と出場として第一試合で一瞬で落とされる感じの顔をしている。見れば見るほどかわいくない。

 うーん、少なくともβの時にはこんな奴はいなかったぞ?


 気絶しているせいか、頭の上にテイムマークが出ているので味方にできるモンスターなのだとは思うが…………本当に可愛くない。

 でもレアな可能性があるから一応捕まえておこう。


 適当に草を引っこ抜いて、根っこにクラフト技能を発動。低レアの縄を作り出すと気絶したブサイクモンスターの首につけて片方を木に括り付けておく。


 でも変だな?俺は後ろへの警戒は怠らない。木を切ってた時もこんな奴はいなかったはずなのに。いつの間に現れたんだ?まあいっか。後で考えよう。


 えんやこ~らえんやこ~ら。

 家を作るために必要な木材と石材を集めていく。いや、インベントリがいっぱいだ。邪魔くさい。

 とりあえず、まずアイテムの幾つかをインベントリから出し、木材と石材から下級加工台をクラフトする。加工台をクラフトしたら適当に設置して、そこらへんで適当にゲットした草木をクラフトして最下級寝袋を作って適当な大きめの岩の上に置いておく。これで万が一死んでも安置山から再スタートみたいなクソみたいなことにはならない。ならないよね?正式版の急な仕様変更はやめてくれよ?

 続いて下級加工台でストレージボックスを作って寝袋の横に置いておく。これで木材や石材をスタックできるぞ。


『Buuuuu!』


 そんなこんなで黙々と素材集めに勤しみにながら気まぐれに魔王討伐スレを煽っていると、これまた可愛らしくない泣き声がした。声の下方向に行ってみると、あの不細工モンスターが縄から逃れようとじたばたしていた。

 ………………動きまで可愛くない。どことなくふてぶてしさがある。ずんぐりむっくりしてるのに全体的に動きが機敏なのが嫌だ。なんだろう、ゴキブリみたいなアレだ。まあ今日日23世紀日本で生で野生のゴキちゃんに会うことはないんだけど、人間のDNAに不快害虫として刻まれた奴の動きは伊達ではない。


 俺はちょこまかと動き回るブサイクを何とか捕まえると、鱗の癖にスライムみたいにぐにょんと伸びる首根っこを捕まえてマジマジと観察する。


 改めて見ても鳥なのか爬虫類なのか哺乳類なのか魚類なのかよくわからん見た目をしている。何を食べるんだ?予測が付かない。

 俺はイベントリから適当に黄色のブルーベリーみたいな果実のくっ付いた枝を取り出し鼻先で揺らしてみる。

 食うか?食わんのか?


 テイムできるモンスターはこうして食べ物を口に近づけて好物を探るのだが、好物なら食いついてくるし嫌いなら顔を背けたり暴れたりする。しかし、このブサイクは死んだ魚の目のような目で枝を見つめるだけで反応が薄い。ちょっとイラっと来た俺は鼻先にぐいと身を押し付けてみた。すると


『Buuuuuk!!』

「アツッ!?」


 急にブサイクはクシャミをした。クシャミをするだけならまだいいのだが、ボンと口周りが軽く爆発した。

 油断していた俺は顔面に諸に爆炎をお見舞いされ、せっかくのキューティクルな髪がアフロになってしまった。いやギャグかよ。


 コイツほんとうに可愛くないぞ………………。




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