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S2:団員集結(一名遅刻)



 友人の亡骸に挨拶をするために一度引き返し、俺が集合ポイントに到着してゲーム内のスレを開いてみると、めんどくさいスレが立っていた。


【奴を殺せ】急募:魔王討伐隊編成【英雄になれ】


 どうやらγ鯖で悪質なプレイヤーとして暴れ回った『魔王』と呼ばれるプレイヤーがこのNo2b鯖に出没したらしい。おおこわいこわい。

 なになに?No2b鯖で起きているβ狩りは間違いなく『魔王』による物。奴を狩らねばβ組に平穏はなし、と。

 スレには多くの被害者の書き込みがあったが、どう考えても被害者の数が多すぎる。サービス開始から30分で100人近く狩れるわけねぇだろバーロー。せいぜい20人くらいだよ。

 てかなーにが英雄だ。中二病も大概にせいよ。


 どう考えても噂にかこつけた模倣犯が多数いるようだ。なんなら他の鯖にまで被害報告がでているが鯖を飛び越えて分身できるわけねーだろ。確実に模倣犯だ。βの段階ではガチガチにキャラメイクをしている連中もいたが、割とサンプルアバターを適当にいじった連中もそこそこいた。斯くいう俺もその一人だ。故にβ組の連中と言ってもβの時とは姿形が違う可能性が大いにある。

 『魔王』とやらもアバターをまるっきり変えることでβの警戒網を潜り抜けていたようだ。何て卑怯な奴だろう。ゲーマーとしての誇りはないのか?


 かなり早く流れていくスレを見つつ、俺はありがたく頂戴したアイテムを整理していく。さっすがβ組だ。γ鯖以外にも色々な発展を迎えていただけあって、γ鯖では見たことがないアイテムも数多く集められた。インベントリが窮屈だな。はやくストレージボックスを作りたいところだ。


 スレで煽るように【くやしいのうwくやしいのうw。たった一人相手に雁首揃えてまごまごしてるんですかァ?】とレスをしてみたら、途端に顔真っ赤にして食いつかれた。なにが魔王登場だ。そんな奴は知らないね。γ鯖ってやっぱりアイツらの煽り耐性の低さが問題な気がする。



 そんなことをしていると、背後から急に冷たい物を押し付けられた。我ながら嫌になるが、ド頭に銃を突き付けられるのは慣れてるのでなんの銃かだいたいわかる。

 

 この光景の大きさ、頭に突きつけられたときのずっしりとした感じと重心位置からして、超大型リボルバーの【Agito-O8】あたりだろう。精密性も反動も酷いが一発の威力だけは保証されている所謂浪漫武器だ。


 俺の知り合いでこんな産廃を喜んで使っているのは一人しか心当たりがない。


「合言葉は?」


「………これやりたかっただけだろ?」


「よーしわたしの勝ち~!」

「おっふ、流石はビー氏ですな~。幼馴染の貫録をみせつけていくぅ~」

「確かに、一言一句間違ってなったのは凄いね」

「………………」


 後ろを振り返ると、そこには三人のプレイヤーがいた。

 一人は俺の頭に拳銃をいきなり突きつけてきたふてぇ野郎。見た目はピンクがかった亜麻色のサイドポニーのいかにも人を舐め腐ったギャルっぽい感じの可愛い女性だ。今を時めくカリスマ現役JKモデルなんてタイトルでなんかの雑誌の表紙を飾っていても違和感はない。


 そんなあざとさが服着て歩ているみたいなアバターに更に悪魔尻尾と蝙蝠羽耳(頭部に冠の如く生えており、ピコピコ動く)の追加外装まで付け加えている。サキュバスイメージかな?これは課金要素のはずだが、そこまでやるか。

 リアルとのリンク技術が向上した今、VRで使うアバターの美醜など些細なこだわりの差か性癖博覧会でしかないのだが、ここまでこだわっているとなるとある種芸術品のようにも思える。

 声までちゃんとほどよくアホ可愛い感じの高さに調整されており、このアバターに合う声を限界まで吟味していただろうと予測できる。コイツはそういう奴だ。コイツはリアルだとけっこう小柄な方だが、その身長が女性アバターだとかなりフィットした感じになる。


 基本的にテキトーだけど変なところで凝り性。そしてロマン大好き。APP18ギャルアバターを操るこいつの名は『3ee(ビー)』。俺の幼馴染かつ腐れ縁である。

 因みに男だ。ここ大事。コイツはロールプレイガチ勢なのでアバターに合わせてキッチリキャラを整えてくる。俳優でもやればいいんじゃないか?


 そのサキュバスみたいな見た目の横にいるのに全くインパクト負けしないアバターをしているのが『ガリハラP』ことガリちゃん。見た目の印象はThe古のオタク。そんじょそこらのレベルではない。古生代級オタクだ。口調までしっかりとオタク黎明期のオタクをリスペクトしており、ノリも掲示板の奴らのそれに近い。

 基本的に愉快犯ポジで悪ノリも多いが、友人としてはきちっとしているし礼儀正しくていい奴である。たぶん育ちがいいんだろうな。高い教養もあって時々それが透けて見える。その上意外と顔をよく見てみると『ちゃんと服を整えて痩せればカッコいい』という評価が得られそうな程度には整っており、ガリちゃんのキャラメイクのこだわりが見える。ガリちゃんはゲームを変えても基本的にこのアバターを使っており、俺が出会った時からこのアバターだ。昔よりもアバターが少し大人っぽくみえるあたり本当にこのアバターを大事にしているのかもしれない。



 その後ろで少し悔しそうに後頭部をポリポリ搔いているのはロマンスグレーなイケオジアタバーを使う『黒田』さん。見た目は60付近。ふるーいカフェのバーテンダーとかをやってるのがよく似合いそうだ。実年齢は知らんけど、非常に落ち着いた性格をしているし、裏方とかコツコツとやる作業が好きだ。知識の幅の広さから40以上ではないかと俺は予測している。


 そういえばさっきはなにが勝ったのかと聞いてみると、どうやらビーとガリちゃんと黒田さんで、俺が頭に拳銃突きつけられ時の第一声を予測して賭けていたらしい。不謹慎すぎる。まあそんな感じで、落ち着いてはいるが黒田さんも案外おちゃめなところがある。


 そんな3人の後ろで静かにニコニコしている黒髪セミロングの10代後半くらいの見た目の女性が『18F1(イヤハ)』だ。見た目はリアルから殆ど弄ってない硬派なタイプで、身長は170近くと女性としてはやや高めである。ビーの実妹であり、俺ともリアルで面識がある。というかお気に入りの人形を抱きしめて俺たちの後ろを黙々とついて歩いてくるようなタイプだった。それは今でもあまり変わっておらず、俺たちがゲームをメインに動き始めると当然の如くついてきた。

 性格は………………なんて言えばいいんだろうか。まあ基本的に本当に無口で、俺でも声を聞く機会は限られていたりするのだが、筆まめなのでSNSで会話したりすると怒涛の文章を送り付けてくる。静かだし基本的に自己主張とかはしないので影は怖ろしいほどに薄いけど、うちに秘めたる物は多いブラックボックスみたいな女の子である。あと怒らせるといっちゃん怖い。


 この4人は色んなゲームでもつるんでいるいわば身内枠だが、この4人以外にもあと1人ほどよく行動を共にする奴がいる。それが『L-01(ロル)』なのだが、アイツは元から時間に超ルーズなタイプなのでよくわからん。奴はもう集合に遅れるものとして俺もビーも慣れてしまっているので連絡を取る気にもならない。俺とビーとロルと3人でリアルで遊ぶぞー!ってなっても途中合流ザラだしな。


「よし、じゃあ拠点をどこにするか「ちょー--っと待てよ!!」なに?」


 ロル以外のイツメンはそろったのでいよいよ本格的に活動をしようと思った矢先、急にビーが大きな声を上げた。


「ツッコミ待ちでござるか『IVβ@d09(イーヴァ)』氏ぃ~?」

「そうそう、通話で後回しにしたんだから今してよ」

「ボクもその見た目については気になるかな、イーヴァくん」

「………………」


 めんどくさいから後回しでいいかなって思ったけどダメだった。

 いやこわっ。なにその目!

 俺こと『IVβ@d09(イーヴァ)』は3人の背後から眼力で圧をかけてくるイヤハと目が合い抵抗を諦めた。イヤハちゃんがなぜかご機嫌斜めでござる………………。因みにIVβ@d09の正しい読み方は別にあるのだがそれは今はどうでもいい。とにかく俺は基本的にイーヴァって名前で通している。


 で、なに?この見た目と声のこと?


「そう。ガチガチのギャルじゃん。いやエルフ?いやまぁ、それもあるんだけど……………そのアバターどっから用意してきたん?」


 これかい?


 金髪のロングで毛先はややアッシュグレーよりに、ハイライト加工もプラスで全体的には明るめ。エクステ加工で先の方をゆるふわヘアーな感じにし、メイクは当然オタク君大好き、というか世の男子の殆どが好きと思われるナチュメ。ナチュメをベースにゆるくギャルによせて青カラコンINに二重がっつりつけまは軽く。スタイルもヌードモデルも裸足で逃げだすパーペキプロモーションよ。それでいて作り物ではないリアルさを兼ね備えているというね。

 ………………まぁ、実は身内が俺のデバイスを勝手に使った時に残ってたボディーデータをちょっといじくりまわしたものだからリアルさがあるのは当たり前だ。バレたらどうなるだろうか。うん、お互いさまだしいいよな。バレへんバレへん。リアルだとギャルとはかけ離れてる見た目だしね。こっちはオタク殺しセーターを着て目線を隠せば#裏垢JKのタグが似合いそうな感じになるけど、モノホンは狂犬だし似ても似つかない。まあそれだけボディーデータを借用した身内のポテンシャルが高いってことでもあるんだけど。

 追加外装でちょっと課金して耳とかをエルフに寄せているけど、ガチじゃないしね。エルフはぺったんこだろjkなんてエルフ過激派じゃあるまいし、トー〇キン大先生が草葉の陰でブチギレてないことを祈るのみだ。

 声はネットに転がってたサンプルボイスを加工したから適当だけど存外気に入っている。ちゃんとβの時のボイスデータも課金して残してるから切り替えも自由だ。今頃スレの連中は存在しない男を追いかけて野原を駆けているだろう。そのためにわざわざ一回声を元に戻してフレンドをコロコロ(殺)してきたのだ。

 

 いやね、βの時の奴はもともと使い捨てのつもりだったけどさ、今回本格的にバチッてるじゃん?だからあえて元の見た目はガッチリ違う見た目を作ってしばらくの偽装工作とヘイト下げを目論んだわけですよ。

 スポーツ化が進んだゲームと言えど、やはりその人口は男の方が多い。特にこの手のバチバチに殴り合う系のジャンルは男が多いので、女アバターを使うことはそれだけも意味があるって寸法よ。

 

 たぶん俺のリアル側に詳しいビーとイヤハは俺のアバターのモデルがわかっているので、それも含めての「なぜ?」なのだろうが、そこははぐらかして俺は適当に説明した。まあガチめに怒られたらおとなしく課金して別のアバターを用意するさ。だからチクんないんでねイヤハちゃん。頼むよ。


 よし、説明終わり!!見た目変わった程度で今更ギャーギャー言うんでないよ。ビーだっていつもコロコロ変えてんだろ。てかガリちゃんも反応がいつもとちゃうじゃん。なに?このボディにガチ恋したった?


「そ、そんなことはないでござるよっ!イーヴァしやめてくれめんすぅ」


 三次元はクソ、二次元こそ至高なりぃ!!って叫んでたガリちゃんが?まさかの?その反応はギルティでは?この見た目ドストライク疑惑?


 俺はビーに視線を送ると、ビーもこくりと頷いた。流石ビー、考えていることは同じか。


 俺とビーはサッとガリちゃんを挟むと腕を掴み、耳元で生ASMRした。



「(二次元しか愛せないっていってたのにぃ?ざこすぎじゃなぁ~い?)」

「(ざーこ❤ざーこ❤)」

「(ニジ嫁に申し訳ないと思わないのぉ?やっぱりエッチなリアルが好きなんだぁ?)」

「(やっぱ三次元がいいんだ?あんだけいってたのに?ウケる~❤)」

「(ウチらの方がいいだ?だよね~❤やっぱり綺麗な子に近寄られるとドキドキしちゃうクソ雑魚ハートだもんね❤)」

「(なかみがおとこでもかわいければいいだ~?うわきものだ~❤)」


「お、おっふ、イーヴァ氏、ビー氏、や、やめるでござるよっ。こ、これはですね、ただの脊髄反射みたいなものであって、我が至高のマイメモリーフォルダのメリヌンたんの前にはその程度、の」


 きいてるきいてる。フツーに効いてる。

 俺たちはパッと離れるとパーンッとハイタッチした。この程度の連携なら会話せずともビーは合わせてくる。てかほんとうにガリちゃん雑魚くない?中身完全に男だぞ?いいのかそれで?

 試しにさりげなくスカートのすそをチラッと上げてみると、明らかにギュンっとガリちゃんの視線が焼け付くほどに太ももに刺さった。いや違う。その後ろにいるイヤハの目が怖い。なんか背後から黒いオーラが湧き出てる。


 ちがっ、ちがうんです、誤解なんです!けっして身内のいじったら予想以上に出来が良すぎたアバターの戦闘力を試そうとしていたわけではなくてですね。


 鎮まりたまえ~鎮まりたまえ~。ほら、気になってる言ってたカフェの新作プリンさ、今度おごるから、ね?ね?


 このまま放置はマズイと直感した俺はターゲットをすぐにイヤハに変え、小声で宥めすかすと、黒いオーラがしぼんだ。でもまだ若干残ってる気がする?なぜぇ?

 イヤハは無口だけどいつもニコニコしてるのがデフォルトなのに、そこに陰りがある。


 しかしリアルにかかわる奴かもしれないのでここは一度スルー。俺たちは本格的に拠点を置く場所を探し始めた。



 因みに、ゲームをおちた後SNSで色々と探ってみたところ、どうやらイヤハは素で俺のアバターが身内のモデルデータを弄ったものだと気づいてなかったらしい。てっきりそれについてご不満なのかと思ったけど、逆にそれを知ったら機嫌が直った模様。なぜだ?


 



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― 新着の感想 ―
[一言] ほう、これはアレか、いつもの片思いヤンデレ妹ポジw
[良い点] 更新ありがとうございます [一言] ビーとイヤハとイーヴァが子供世代だと思うのだが⋯⋯ 誰なのかがわからん
[一言] 大変申し訳ございません 毎秒更新すみませんよろしくお願いします すみません
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