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S11:限界突破




「し、ししょ~」


「うわっ」


 初日から一夜明け。アサとブサオを残して周囲をフィールドワークしたり素材を集め、ビーたちと素材や情報交換。結局ロルの野郎は一度も顔出さなかったので夜に電話してみたらアイツ熱だして寝てたらしい。アホめ。腹だして寝てて風邪ひいたって小学生かよ。しかもうるさいから全管AI切ってたとか完全に自業自得である。


 起き上がれないけどお腹すいたとか何も食べてないとか面倒な事言い始めたので適当に食えそうな物を買って深夜に訪問。冷蔵庫見たら案の定酒とアイスしかない。

 ウチの家の教育方針では大人なら自炊ができて当たり前なので、全員料理は仕込まれている。雑炊程度簡単だ。卵入れろだのネギと紅しょうがが欲しいだの抜かしやがったが刻んで入れてやった。アイツの好みは言われんでも知ってるさ。ちゃんと買っておいた。


 結局夜に帰ってきたらいい時間だったので、今更寝るのもなんだしと思って家でできる仕事をいくつか片付けておけばもう朝だ。


 それから軽く仮眠をとってログインし、昨日集めた素材でせっせとクラフトしていると、亡霊の囁きの様な声が後ろから聞こえた。

 振り返ると目がガンギマリ状態になったアサが立っていた。怖いよ。素でビビったわ。


「どうした?徹夜でもしたのか?」


「えへへへ、初めて徹夜しちゃいました。徹夜するとこんな気分になるんですね〜」


 眠気を通り越してくるナチュラルハイモードか。本当に大丈夫か?別に寝てもいいんだぞ。特にログインを強制した覚えはない。


「ししょー、ちょっと見せたいものがあるんですよ〜。こっちきてもらっていいですか~?」


 ダメだ、頭が回ってないのか話を聞いてねぇ。

 何処へ行くのかと思い腰を上げれば、それを見てアサは昨日でっちあげた射撃練習場にフラフラと歩いていく。


「ちょっと待ってくださいねぇ〜」


 

 アサは昨日から貸しっぱなしのライフルを取り出すと3発適当に撃った。方向は的とも関係ないしフォームもあまりに適当だ。

 普通な首を傾げるところだが、アサは無駄な行動をするタイプとは思えない。もしかして感覚を調整したのか?


「いきますよ〜」


 ナチュラルハイなのか、非常に気の抜けたような、どこか調子外れな明るさの声でアサがライフルを構えた。立ちうち3発、しゃがみ2発、後転から1、横へ回転しつつ1、立ち上がりつつ1、最後に立ち撃ちから2発。計10発。判定は、5発は少し乱れたが、残り5発はど頭ど真ん中にキッチリ当ててやがる。


「あぁ………ダメだった………………」


 昨日は明らかにライフルを一度も持ったことがない様な酷い有様だった。それが僅か1日、いや、1日すら経ってない。しかし目の前の事実は変わらない。アサは誰もが初心者とは思えないレベルにキッチリ仕上げてきてる。仕上げてきてる様に見えてなお、『ダメだった』と言った。まだ上のクオリティを出せるってことか?


「アサ、これ…………」


「凄いですね〜あのソフトぉ。シショーが昨日おすすめしてくれたアレです。こう、一晩頑張ってみてですね、なんとか第一テストはクリアしましたよ〜。しょ、正直マグレっぽいところも多かったんですけど、クリアはしました」


「…………もしかして一晩中やってた?」


「はい!」


 ひょっとしてバケモンかコイツ?てかあのソフトって本当に高いんだけど、よくポンとそんな金を………。いや、やめよう。リアルを探るのはよくない。その末路を俺はよく知ってるので頭の片隅に置いておくだけにする。


 さて、ここでなんて声をかけるのが正解だろうか?

 別に弟子にすると言った覚えはついぞないのだが、コイツはししょーししょーと言い続けいてる。まあ弟子のつもりなのだろう。


 ガンギマリしてるせいで少し霞んでいるが、投げてきたフリスビーを取って戻ってきたうちのグーリーによく似た目をしている。グーリーってのはウチで飼ってるゴールデンレトリーバーだ。まあグーリー以外にも色々いるんだけど、グーリーはそんなかでも一番キラキラ目をしてる。褒めてやると本当にうれしそうな顔するんだ。最近はおじいちゃんになっちゃったから静かだけど、目は相変わらずキラキラしてる。多分性格的にも一番ピュアな奴なんだろう。いつもはことさら物静かでいい子なんだけどね。


 そっか。みょーにアサに対して敵愾心がわかないのはそのせいか?


 ともかく、ペットが何かを成し遂げた時、どうやって褒めるかはその子の今後に大きく関わってくる。

 いや、アサは犬じゃないんだが、人間も近いところはある。


 こういう時人心をよーく理解し仕事にしてる人が近くにいるので聞いてみたいところなんだが、まあいいや。ともかく、褒める時に大事なのは3つあると言っていた。

 一つ目は『成果を認める』こと。最初はプラスからいくのが大事。


「すごいな。昨日からここまで仕上げたのか?しかもテストモードもか。フォームもよくなってるし、なにより体全体で衝撃を逃がす動きがかなり様になってるな」


「はい!」


 2つ目は『課題点を上げる』こと。プラスの感情を与え心を開かせたところで、相手の体勢が此方の話に耳を傾けている状態にしたところで、次のステップの話をする。


「ただ、やはり動きが混じるタイプはまだ苦手っぽいな。ド真ン中5発は全て立撃ちで、外したのは動きを入れた後の撃ちばかりだ。あと動いてる途中の目線、フォームが、単純に動きを入れることに集中してて実践向きになってない。だからブレる。てかステップが重いんだな。モーション補正と実際の動きが喧嘩してる。銃の位置込みの重心の位置がまだ頭で理解できてない」


「はぃ………」


 3つ目は『課題点を受け入れさせたうえで、プラスの方向をへ顔を向けること』。1の時点で精神が+10だとすると、2の時点でだいたい-15くらいになるらしい。せっかく頑張ったのに差し引き-5だ。これは宜しくない。頑張ったのに精神的効用がマイナスになっている。なのでこの3つ目が一番重要になる。


「ただ、俺が今指摘したのは本来上級者のお話だ。昨日始めたひよっこに対して言うポイントじゃないんだ。つまり、今のアサは俺から見ても凄い勢いで成長してる。だから敢えて指摘した。アサならできるようになると思ったから言った。ただ、今指摘されたポイントは、多分半分以上は頭ではわかっても体では理解できないと思う。気になるなら教えてやるから、一度軽く寝てストレッチとかしてきな。筺体ゲーじゃなぇんだ。リアルの体をいたわれない奴はVRでも勝てねぇぞ。まあ、その………よく頑張ったな。マジですごいよ。正直びっくりしたわ」


「あ、ありがとうございます!」


 うーん、こんな感じだったかな?他人の受け売りではあるが、正直ビジネス書とかでも使い古されたやり方だし、結局は個々人に一番あったやり方が大事だ。見た感じ今のやり方でアサは良さそうだけど、というか目がキラキラを通り越してギラギラし始めてる。ナチュラルハイを超えてだんだん活力が低下し始めた目に再びエネルギーを強引に注入したような危うさがある。


「その、いい感じの“波”が来てる気がするので、今少しだけコツを教えてもらっても………いいですか?あ、えっと、タイミングが宜しく中れば後回しで全然かまわないので、その」


 いや寝ろよ。

 と、言いたいしそれが多分正しいのだが、人間には学習に適したタイミングってのがある。勉学もそうだが、頭に入らない時は全く入らないし、逆にスルスル入ってくる時もある。そしてそのいい感じに集中できるフォームへ入るために一番強い因子が『好奇心』だ。

 今のアサの言う波ってのは、集中力の波の事だろう。それが現在最高点にあって、体が勝手に動きを覚えてくれるのだ。そのタイミングを逃したくないのだろう。


「わかった。30分だけな。その30分でとりあえず詰め込める物全部体に叩き込むから覚悟しろよ」 


「は、はい!」


 40分後、ボロボロになったアサは気絶するように寝袋に倒れ込みログアウトした。


 …………やりすぎたか?

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