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S0:魔王断頭

はじめましての方は初めまして。ミニ丸語と申します。設定厨です。


ブクマ・感想・レビュー・評価点をいただけると非常にうれしいです。ということでゆるりとよろしくお願いいたします。






「我々は、遂にこの悪の権化、γ(ガンマ)鯖の腫瘍、『魔王』を捕らえた!」


 約50日にわたるβ.2(先行)テストプレイ最終日。たった50日という短い期間で、サーバー全体にその悪名を轟かせたプレイヤーがいた。


「この男が今までやってきた悪行は、このサーバーにいる諸君ならわかるだろう!」


 VRMMO系のゲームが当たり前に楽しまれている23世紀、主流と言えばやはり古き良きファンタジー系のゲーム。しかし、このゲームはファンタジーの要素も併せ持ちつつ、銃や車などの近代的な物が登場し、NPCもほとんど出てこない、街すらもない、ほとんどすべてをプレイヤーに丸投げしているようなゲームだった。

 自由度は非常に高い反面、その方向性はプレイヤーに委ねられており、たった50日の期間でも、4つのサーバーごとにその性質は大きく変わり、同じゲームにも関わらずサーバーを比べてみるとまるで他のゲームのようになっていた。


「家屋を破壊し、略奪を繰り返し、争いを引き起こし続け、この50日間、我らには平穏というものが存在しなかった!それを率先して行い続けた奴こそ、コイツだ!戦争で私腹を肥やし、鯖終了前記念戦争などというふざけたことを企画したのもコイツだ!!おかげでオレらは正式版でも引き継げるはずのアイテムまでボロボロだ!!」


 その4つのサーバーの中でも、頭抜けてギスギスし、常に争いが絶えず、完全な魔境と化していたサーバーがあった。その荒れ具合は他のサーバーのプレイヤー達の間でも話題になるほど。他のサーバーがまったり一次生産職シミュレーションや、シティ建設シミュレーション、ファンタジーアドベンチャー、拠点防衛戦などをやっている一方で、絶えずプレイヤー同士で激突し戦争を繰り返していたのがγサーバー組だ。


「よってこいつは、断罪しなければならない!このγ鯖の諸悪の根源は、ここで決別するのだ!!」


 そのγサーバーの連中は、βテスト終了を間近に、他のサーバーのプレイヤー達が仲良くなったプレイヤー同士でフレンド登録したり、正式版へ引き継ぐアイテムを選別している一方で、ボロボロになりながら硝煙とオゾンのような物が焼ける臭いが漂う黒焦げの戦地のど真ん中に集結していた。

 その戦地の中心にはクラフト能力で作り上げられた高台があり、高台の上には後ろ手に手錠を嵌められて跪かされ、頭に銃を突き付けられた一人の男が居た。


「無論、これは単なる私刑であることは承知の上だ!それでも、この男には罪を償ってもらうべきと考えた者達がこれだけ集まっていることから考えても、この男がやってきた事の悪辣さはここにいる全員が知り、尚且つその断罪に同意している物と考えている!」


 跪づく男の頭に銃を突き付けているプレイヤーが吼えるように、『魔王』と呼ばれた男の悪行はひどい物だった。といっても、たった一人の男の動きだけでサーバーが変わるということはない。その男の動きに感化され、乗ってしまったプレイヤーがいたのもまた事実。それが新たな犠牲者を生み、負のサイクルが始まり、γサーバーは罵詈雑言が飛び交い闘争と略奪が横行する世紀末状態に墜ちていった。

 そして『魔王』と呼ばれた男が、単に各地で争いを引きおこしていた迷惑プレイヤーだっただけでなく、サーバー全体の空気がそうなるように引っ掻き回し暗躍していたのもまた事実であり、尚且つその争いを利用し自分は着々と私腹を肥やしていた。そこで肥やした私腹を元に軍事力を強化し、それを他人に貸し出し更に戦争を激化させる。

 では彼の本拠地を落として報復をしようにも、何十にも張り巡らされたトラップと迎撃装置で数々の勇士たちは散っていく。

 いつしか彼は『魔王』と呼ばれ、γ鯖の悪性腫瘍として名を轟かせた。


「さぁ、お前がため込んだ財産を全て吐き出させる前に、最後に言いたいことはあるか!」


 このゲームでは、死んだ時点でプレイヤーが所有したアイテムを全て問答無用でドロップするという仕様がある。β参加得点として一部のアイテムを引き継げる仕様になっている以上、サーバー終了前にこの魔王がため込んだ数々のアイテムを吐き出させることには大きな意味があった。魔王はせっかく私腹を肥やしたのに、処刑されることでそれらのアイテムを失い、なにも引き継げないまま終わるのだ。


「貴様の解答は、無言ということでいいのか!?」


 屈辱的な終わり方を前に、彼は何を言うのか。

 断罪者代表はぐいとより強く銃を頭に押し当て、プレイヤー達は固唾をのんで見守る。


「貴様とかなにかっこつけたこっぱずかしい喋り方をグー!?」


 しかし、魔王は最後まで魔王だった。断罪者に対しおちょくるような発言をし、振りかぶられた渾身のグーパンチで頬を殴られる。ワッとプレイヤー達が歓声を上げる。それを鎮めるように断罪者が空に向けて銃を撃ち、銃声が歓声を押し返す。


 シンと再び静まりかえった焼け野原。スピカーに対し魔王はその口を開く。


「富、悪名、力、この世の全てを手にいれたγ魔王『ポテトスマッシャー』。彼が死に際に放った一言はブヘッツ!!」


「真面目にやれ!!」


「んだよめんどくせぇなぁ」


「お前がチャラチャラしてると真面目にやってるこっちの箔が落ちるだろ!」


「知らねぇよそんなん。アホクサ。なにが仲裁者だ中二病脱却できないマンどもめ。おっと、的確に顔面を狙ってくるのやめろ」


 顔面パンチで演説を遮られる魔王は、めんどくさそうに断罪者の方をみる。そのふてぶてしさは皆のよく知る彼の態度で、はやく殺っちまえー!というヤジまで飛び始めた。


「うるせーのうたりんどもー-!!お前達のマナーの悪さを俺に押し付けても、γ鯖の悪評はもうとりけせねーからなー!!正式版になってもお前たちは腫物扱いだー!ウハハハハハ!!」


「お前が言うなー!」

「もとはてめーのせーだろー!!」

「いつまでやってんだ!はやく殺せー!分配するまえに終わっちまうぞー!」

「殺せー!殺せーー!!」

「そいつをしゃべらせるな――!!延々としゃべり倒すぞー--!」


「おお、おお。御期待通りに演説してやろかー!?今更ね、こんなことやっても無駄だからね。おめぇーらはもう終わってんの!OK!?正式版になっても『お前何処鯖よ?』って聞かれて『γ』なんて言った日にはもう村八分よ!オレのせいにしようとしても無理だかんな!スレでもお前たちの悪評は丸めてかきこんどいたからな!!オレ達は腐ったみかんなんだよー金〇せんせー-!!」


「おまっ!ふざけんなー--!」

「テメェがばい菌そのものだろうがー-!」

「急げ!このまま喋りで引き延ばされて時間切れを狙ってるかもしれないぞ!!」


 集まったプレイヤー達を煽り倒し、魔王は嘲笑しながら吼える。プレイヤー達も対抗するように吼え、一部は俺が首を直接取ってやると言わんばかりに武器を構えるが、魔王捕縛部隊が再び銃声を鳴らし、空気をリセットしようとする。


「もういい!そこまでほざけば上等だろう!!お前の言う通り我らγ鯖が悪く言われようとも、それは今後払拭するだけのこと。そのためにも、諸悪の根源はここで殺す!!」


 一度話し始めれば再び空気がおかしくなる。そう感じた断罪者代表は再び銃を構え遂に『魔王』を殺そうとする。

 しかし、それと同時にプレイヤー達が見守る高台の後ろで唐突に爆発が起きる。かなり大規模な爆発。プレイヤー達が巻き込まれればひとたまりもない。高台の下が蜂の巣をつついたような騒ぎになる中、今度はプレイヤー達の背後から急に爆発が起き、それと同時に地面の下からキュルキュルというキャタピラ音を鳴らして戦車が出てきた。


「なんだアレ!?」

「迎撃しろー!」

「大型兵器だぞ!?どうやって持ってきた!?」

「あれ普通の戦車じゃねぇぞ!」

「フルカスタムだと!?」

「なんとでもなるはずだ!」

「やってみせろよマフぎゃー--!?」


 全身全霊をもって迎撃すれば、プレイヤー達でもその戦車を破壊はできた。しかし既にβテスト終了直前。アイテム引継ぎのために温存したいプレイヤー達にとって、自分だけが切り札を切って損はしたくない。爆発で大騒ぎになっている最中ではまともな判断ができるプレイヤーは少なく、今度は高台の土台が爆破され高台が崩された。

 更に瞬く強烈な閃光。誰かが投げたフッラシュグレネードが炸裂したのだ。


「くそ!『魔王』は!?」

「あれか!?」

「撃て撃て!!」

「逃がすな!」

「待て待てあの戦車完全にこっちをうぎゃー--!?」


 突如として起きた処刑場襲撃。戦車が放った砲弾がプレイヤー達をなぎ倒し、一部のプレイヤーが迎撃しようにもプレイヤー達は無秩序に逃げ始めたためにフレンドリーファイアが怖くてなかなか手が出せない。そんな僅かな躊躇いが命取りとなり再び爆撃が起きる。


「どこから攻撃されてる!?」

「ヤツはどこいった!?」


 再度起きるフラッシュバン。それと同時に上空からイラつく声が響き渡る。


『改めてこんちはー--!γ鯖のアホ共もとい同志諸君~~~!!』


 巨大な鳥からぶら下がった紐に掴まり、いつの間にか外れた手錠を足でクルクル回しながらメガホン越しに魔王は吼える。

 

『ひとまずあばよーー-!!正式版でもよろしくナァ!アイルビーバ~~~~ック!!ウハハハハハ!!』


「このクソッタレーーー!!覚えてろよーー!!」


 メガホンに反応した一部のプレイヤーは親の仇と言わんばかりの表情で空に向けて銃をぶっ放すが、響き渡るのは男の嘲笑のみ。γ鯖は最後の最後まで戦火が消えぬままその幕を閉じた。




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[一言] >やってみせろよ、マフ 版権砲でも喰らったかねw
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