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婚約者の愛が地味に重かった

作者: マオ

これを元にして新しい話作れんじゃね?ってくらいにざっくりです。

もっと細かい文が読みたい。誰か似たようなの書いてほしい。連載が読みたい。

 国内でも大きな力を持つ公爵家に生まれて、十二歳で二つ年上の王太子殿下との婚約が正式に整った。


「色々と大変だろうし、何かあったら遠慮なく相談してくれると嬉しいな。これからよろしく、リディリアナ嬢」

「王太子殿下の婚約者の名に恥じぬよう、精進していく所存でございます。よろしくお願いいたします、王太子殿下」


 お互い、十二歳と十四歳という、平民ならまだ子供と呼ばれる年代ではあるものの、貴族の教育を受けた者同士。

 この婚約は政略でありお互いの意思は関係ないし、婚約者であり将来一緒に国を支える間柄になる以上、それ相応の義務が発生することは分かっている。その上で、友好的な関係を築ければいいと双方が思っていたことは幸運であろう。


 透明な窓から差し込む光が柔らかく室内を照らす中、婚約者となる王太子殿下とにこやかに挨拶を交わし合い、スムーズに初めての顔合わせは進んでいった。

 王太子殿下には契約している聖獣様がおられるので、猫の姿をとった聖獣様、リリアと名付けられているらしい彼女とも顔合わせをしたのだが、ちらりとこちらに目を向けた後、すぐに王太子殿下の膝の上で丸まって眠り出した。

 苦笑した王太子殿下曰く、『少なくとも敵視してはいない』とのこと。そりゃあ、敵視していれば何かしらアクションは起こすだろうな……凄くもふもふそうな聖獣様を抱っこしている王太子殿下がちょっとだけ羨ましかったのは秘密である。


 王太子殿下の婚約者になれば危険も増える、ということで、お父様から譲り受けたのが市井の生まれである執事のジョームズ。長い黒髪を後ろで束ねた、理知的な雰囲気の青年である。お父様に忠誠を誓っているらしいし、私のことはその延長線上くらいの認識でいるかもしれないが、ある程度の敬意を払ってくれているのは確かだし、戦闘訓練も受けているらしいから頼りになりそうだ。


「ジョン、今日の予定を教えていただけますか?」

「はい。本日はご家族との朝食の後、王城で歴史と礼儀作法の授業を受けていただきます。それが終わりましたら、王妃様にお呼ばれしているお茶会への出席、その後は時間との折り合いをつけて、騎士団の訓練を見学するご予定です」


 ジョンから受けた予定の説明を頭の中で反芻して、寝起きでぼんやりしていたいのを堪えて笑顔を向けた。


「ありがとう。では、着替えは王妃様からいただいたネックレスに合うようなドレスを用意してください」

「かしこまりました。すぐに侍女達に伝えてまいります」


 恭しく頭を下げたジョームズ、本人から許しを得て呼んでいる愛称でのジョンを見送ることなく、ベッドに腰掛けたまま、誰も見てはいないものの令嬢として相応しい仕草を心がけて、目覚めの紅茶を飲み込む。これも一種の作業だ。

 作業、と言ってしまうと用意してくれている侍女に申し訳ないが、正直必要か必要ないかで言うと、冬場にはありがたいとはいえ暖かい春の日にはそこまで必要ない。喉が乾燥している訳でもないし、目覚めの紅茶と言っても実際のところそこまですっきり目覚められるかと言われれば目覚められないので。目が覚める時はそんなものがなくても自然に目は覚めるし、目が覚めない時はどれだけ紅茶を沢山飲んだところで、眠たいものは眠たいのである。

 侍女達によって長袖でたっぷりと使われた布によって膨らませずとも身体のシルエットはあまり見えないティーレングスドレスに着替えさせられ、ダイニングルームに向かうと既に家族は姉以外揃っていた。

 私の後、少し遅れて姉がやってきて、父の祈りの口上により食事が始まる。

 父と兄が政治のことについて話しているのを邪魔しないよう、静かに食事を口に運ぶ。

 どうしても食べるのが家族より遅くなってしまうので、微笑ましいと言いたげな視線を受け何となく気恥ずかしいものを覚えて、「申し訳ございません」と口にした。王太子妃教育では、殿方達を待たせないよう、殿方よりもゆっくりと、しかし時間は空け過ぎないように食べ終わりなさいと言われているので、これは少々矯正が必要な案件だ。


「リディったら、そんなに気にしなくていいのよ?少し食べる速さが違うくらい、成長すれば自然に変わるのだから」


 くすくすと上品に笑うお母様に言われて、それもそうかと納得し、笑みを浮かべた。口を開けて笑うなんてことは、間違ってもしてはいけない。微笑みまでなら見せても大丈夫。ただ、おかしい、面白い、と相槌として笑うのであれば、扇で口元を隠すのが礼儀である。社交用の微笑みは見せるもの、笑う表情は隠すもの、といったところか。


 食事を終え、先日王妃様からいただいた、王太子殿下にも引き継がれている瞳の色とよく似たアメジストが使われている、繊細な銀色の鎖と宝石の周りの銀細工が美しいネックレスに合うよう、セレストブルーの胸下に切り替えのリボンがついた、成人済みの貴族女性が着る物よりも丈の短い、それでもふくらはぎまではしっかりと隠すドレスに着替えさせられ、貴族社会で褒めそやされる金髪は清楚さを優先したのかハーフアップに結ばれて、ドレスと同色のリボンを結び目に結い、耳飾りにはアメジストを使ったイヤリングが着けられた。さっと紅が引かれればメイクも終わりである。


 王太子殿下の婚約者ではあるものの、まだ十二歳、デビュタント前の子供だということを踏まえ、愛らしさだとかを前面に押し出していくのも悪くはないだろう、とはジョンの談。私としても、行動が無礼でなければありだと思う。


 歴史と礼儀作法を学ぶ授業が終わり、講師が教科書をジョンから受け取ったところで王太子殿下が現れた。

 お茶会に行く際にエスコートするという先触れは出されていたので、特に慌てることなくカーテシーで迎え入れる。

 すぐに楽にしていいと片手を上げられたので、実は女性だとかなりきつい中腰の体勢からは解放された。

 これが第二王子殿下や王妃様であればまだいいのだが、国王陛下と王太子殿下に対しては最上礼でないといけない。

 面倒臭いが、これが貴族社会の常識である。きっと貴族女性の誰しもが一度は最上礼の辛さを嘆くことだろう。

 完璧な淑女と称されるお母様でさえもが、最上礼とキセリンのワルツは鬼門だと遠い目をしていたくらいなので。


 キセリンのワルツ、とは、ダンスの中で一番難しいとされている、それでも国内では一番メジャーなワルツである。

 大抵の人はキセリンのワルツを完璧に踊りこなすことはできず、アレンジだったり簡略した踊りになるものなのだが。

 ……王族の場合、それは許されない。王族の婚約者である私もまた然り。キセリンのワルツの練習は五日後から開始されるとのことなので、今からとても気が重い。当然令嬢として、そんな感情を表に出す訳にはいかないが。


「普段は綺麗だという印象が先立つけど、そのドレスはとても可愛らしいね。今までの中で一番好きかもしれない」

「っ、あ、ありがとうございます、王太子殿下。お褒めいただき光栄です」


 ……血流コントロールとか、できないだろうか。

 光り輝くような透き通ったブロンドに、高貴さを漂わせる紫の瞳を持った王太子殿下は、美男美女な国王陛下夫妻の血を引き継いで天使と見紛うばかりの美少年なのである。それが柔らかい表情で微笑みかけてくる破壊力たるや。

 赤くなる頬を自覚して持たされた子供用の扇で隠したら、何故かとんっと壁に肘をつき、壁際に追い詰められた。

 自分の目線からだと王太子殿下の口元までしか見えなくて、見上げようとする前に彼の方が背を屈める。

 顔を隠していた扇を取り上げられ、何をするのかと抗議の視線を送り。

 目が合った王太子殿下は、「真っ赤で可愛い」と楽しそうに、甘く目元を緩めて、私の頬に手を添えた。


「っ……、!」


 今なら火も吹けそうだと思うくらいに顔中が熱くて、綺麗な顔立ちが近づくのに、ぎゅっと目を瞑る。

 涙の浮かんだ目尻に、柔らかくて今の私にはひんやりとした感触が触れ、すぐに離れて。

 おそるおそる目を開けると、いつも通りの表情で微笑む王太子殿下に手を差し出された。


「……恐れ多いですが王太子殿下、人目のあるところでこんなこと、はしたのうございます」


 感情を制御できなくて王太子殿下を睨みつけて紡いだ言葉は、エスコートの為腕を組む殿下にはしっかりと届き。


「人目のないところであれば、またキスしてもいいということ?」


 いけしゃあしゃあと告げられる内容に、落ち着きかけていた頬の熱がまた上がった。


「……結婚する以上いつかはすることですが、是非ともお控えいただきたく存じ上げます」


 絞り出すような返答に王太子殿下が肩を震わせ、口元に拳を当てる。

 笑われていることに気がついて、さっきから振り回されている感情の制御が最早全く効かず、高ぶった羞恥と怒りのままに王太子殿下の胸元を叩いてから、公爵令嬢とはいえ不敬罪に当たるかもしれないことに気づいて青ざめた。


「ふふっ……、大丈夫だよ、リディリアナ嬢。婚約者からのスキンシップくらい、受け入れるのが当然でしょう?」

「で、ですが、王太子殿下に暴力など……」

「痛くもなかったし、気にしないでいいのに……ああ、そうだ。気になるなら、私のことは名前で呼んでくれないかな」

「?……なまえ、ですか?」

「そう。愛称でもいいよ。これから長い付き合いになるんだし、私もずっと王太子でいる訳ではないからね。いずれ家族になるのだから、今は婚約者だけど名前で呼ぶくらいはいいでしょう?私も君のこと、愛称で呼んでもいいかな?」


 戸惑いつつ、こくりと頷いた。その程度のこと……というか、人によっては滂沱の涙を流して喜び勇んで受け入れるような提案でさっきのことを気にしないでよくなるなら、断る理由はどこにもない。

 ……嬉しそうに「リディ」と呼ばれて、美しく凛と響く声が自分の愛称を呼ぶのが妙に照れ臭くて少し後悔したが。


「ねえ、リディ。私の名前も呼んで?」

「っ、セ、セシリオ殿下……、?」

「……うん。なぁに?リディ」


 いやあの、あなたが呼べと言ったから呼んだだけなのですが……?

 心底嬉しそうな殿下にそんなことを言う度胸は持ち合わせておらず、結局何度か名前で呼ぶことを求められて赤面状態から抜け出せないまま、微笑ましい表情をする王妃様の元まで王太子殿下にエスコートされたのであった。



 セシリオ殿下との婚約が結ばれ、数ヶ月。本日はセシリオ殿下の誕生日である。

 朝から家の使用人総出で磨き上げられ、セシリオ殿下の髪と目の色に合わせた、紫色のプリンセスラインのドレスに金色の刺繍が入った服をメインに、普段はあまりすることのないお化粧も念入りに行われ、髪型はふわふわに巻かれて普通にしているよりも豪華なハーフアップに、セシリオ殿下から事前に送られた、紫色の薔薇の葉っぱ部分が金色で、柔らかな黄色のレースがあしらわれた髪飾りをセットして、セシリオ殿下に散々揶揄われた王妃様とのお茶会の時にも着けたネックレスを着け、数日前に国王陛下から直接いただいた、フルール・ド・リスの紋章、代々の国王陛下だけが使える、王家の権威とも言える紋章を模してカットされたアメジストのイヤリングも、価値を考えると公爵家とは言えども遠い目になるものの、王妃様と王太子殿下から贈られた物を着けておいて国王陛下からの貰い物は着けないというのも問題なので、気になることは諦めて何も考えず綺麗な耳飾りだとして受け入れておくことにし

た。


「……綺麗だし可愛いし、幻想的で妖精か精霊のお姫様みたいだけど、あまりにも美しいから心配になるよ。まだデビュタント前だから変なことを考える輩は少ないだろうけど、パーティーの間はあまり私から離れないでね?」

「……お褒めいただきありがとうございます、セシリオ殿下。殿下の方こそ、会場に咲く今宵限りの美しい花々を霞ませてしまう程、女神様のご寵愛を受けたと言われても納得できてしまうくらいにお綺麗ですのに……」

「その褒め言葉、私が喜ばないってわかってて使ってるよね」


 ふっと目を逸らして窓の外の景色を見てはみるものの、きらきらと輝かしい笑顔を浮かべた殿下には通用せず。

 首筋に口づけを落とされて、敏感な箇所に触れる柔らかい感触にびくりと肩が跳ねた。


「っや、ご、ごめんなさい……っ!もう言いません、からっ……それ、やめてください……っ、」

「……しょうがないな、可愛い婚約者の頼みだから……今はここまで、ね」


 今はって何ですか。

 実に危険な匂いのする発言に突っ込む間もなく、伝令役がそろそろ出番だというのを伝えに来て。

 涙目で殿下を睨みつけるのを止めて、グレーのスーツに包まれた片腕に自分の手を緩く絡ませた。


 セシリオ殿下のエスコートで初めて足を踏み入れた夜会は、とても賑やかしくきらきらと煌めいて。

 この裏に権謀術数が渦巻いてるんだなぁ、と思ってうんざりするのを、微笑みの裏にきっちりと鍵をかけて隠した。

 次々に挨拶にくる貴族の中には、純粋に殿下を慕いお祝いする者も、腹の中に何か抱えていそうな人も、あからさまな敵意を私に向けてくる御令嬢とその親もいたりしたけど、概ね問題なく全てに対応できたと思う。

 が、一つだけ、セシリオ殿下の手を煩わせてしまう事態が発生した。


 セシリオ殿下に憧れていると思わしき伯爵家の令嬢が、「私の方がセシリオ殿下に相応しい」と叫び、目の前で魔力を暴走させたのだ。驚いて足が竦んで何もできなくて、気がついたらセシリオ殿下の腕の中で抱きしめられていた。

 聖獣であるリリア様が伯爵令嬢に体当たりして、尻餅をついた伯爵令嬢の額には『罪人』の烙印が浮かんでいた。


 聖獣が認めた、契約者の伴侶になる者。それを傷つけようとした者、傷つけた者には聖獣によって罰が下される、というのはそれなりに有名な話だ。今回の場合、下手をしていれば私だけでなく周囲の命も危なかったということもあって当の伯爵令嬢には生涯北の土地にある修道院での幽閉が、彼女の父親である伯爵家当主には隠居の名が下された。

 それだけでなく、王太子殿下のデビュタントを兼ねた誕生日パーティーでの騒ぎという面も踏まえて、伯爵家は一部の領地を没収、今の当主の孫の代まで王宮への出入りを禁止するという処分も科されたのであった。


 私からすればそれは当然のことであり、聖獣の機嫌を損ねる訳にいかないという意味で処分を追加したのは、王太子妃教育を受けている身としては多大に理解できる。聖獣様の機嫌を損ねて国が破壊されたら堪ったもんじゃない。


 一番衝撃を受けたのは、襲撃されて何も対応できなかったことと、セシリオ殿下に迷惑をかけてしまったことである。

 襲撃直後呆然と立ち尽くしていたのを知っているから、パーティーの続きに出席することも心配されて。

 セシリオ殿下と話したい貴族達は沢山いるだろうに、ダンスを一曲踊った後すぐに退場してしまわれた。


 殿下だけでも会場に戻った方がいいのではないかと諭そうとするも、セシリオ殿下の私室に着いて、人払いをしたセシリオ殿下に抱きしめられてしまえば、混乱して説得どころじゃなくなって。


「せし、」

「無事で良かった。間に合わなかったらきっと私は、リリアの力を使って伯爵家の人間を皆殺しにしてた。リディが死んで尚楽しそうに生きる無関係の人間まで恨んだかもしれない。もしもリディがいなくなったらなんて、考えたくもないことが現実に起こってしまうかと思った。怖い思いをさせてごめん。助けるのが間に合って、本当に安心した……」


 私を抱きしめたまま、震える声で胸の内を吐き出すセシリオ殿下が、そこまで私のことを気にかけているとは、正直思っていなかった。ある程度の好意を持って接されてはいる筈だと思っていたが、無関係の他人を恨むレベルとは……

 愛情深いという、王家に伝わる竜種の血が原因だろうか。確かセシリオ殿下も、竜の加護を受けていた筈。


 家族に対して愛情深い、竜の血族。つまりセシリオ殿下にとって私は家族の範囲に入っている、ということだろうか。

 だとしたら嬉しいけど、王太子殿下が伯爵家の人間を殺すというのは……どうなんだろう。確実によろしくはない。

セシリオ殿下の立場が悪くなるのは嫌だ。それが私のせいでとか尚更嫌だ。普通に死にたくないのもあるが。


「……生きておりますよ」

「……わかってる。生きててくれてありがとう、リディ……」


 目が合って、透き通った紫色の奥に、溶かされてしまいそうな甘い熱が宿り。


 パーティー前には首筋に触れた柔らかな感触が、ゆっくりと紅を引かれた唇に重なった。

キセリンって何なんだろう……ワセリンとキセノンが混ざったのか?

ワルツだのダンスだのとは一切関係ないです。ダンスに関しての知識は皆無です。読み流してください。

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