弍
「皆〜、今日は来てくれてありがとう!」
ユイが来ると知らなかった来場者たちは皆驚きと感動の声をあげた。舞台挨拶は計3館にランダムでの突撃と公式から発表されていたのだが、皆まさかそれがここだとは思わなかったのだろう。
「私は今日しか此処には来れないけど、映画は明日も明後日も、まだまだ上映されているので是非是非またお越しくださいね! あ、今日私が此処にきたことはみんなと私だけの秘密だからね!」唇に手を持っていきしーっと合図をしてみせた。一瞬だけ彼女の目が染まる。しかしそれに気付いたものはいないように見えた。ただバイバイと手を振り舞台袖へと向かうユイに毒されていた。その根源であるユイは最後までファンサービスを忘れることなく完全に舞台から降りた。
私は携帯を開いてアユカにメッセージを送った。今日は一体なんて返事が来るのだろう。女優として御客さんに喜んでもらえるのは嬉しい。でもそれ以上にアユカの時間を独り占めできるこの瞬間が堪らなく好きだ。このままぼーっと返事を待つのも良いけれど、今回の評判をチェックするためSNSを開くことにした。しかし、その瞬間ユカリからメッセージが飛んでくる。ご丁寧に画像まで付与されていたので気になってSNSを捉えていた指先を上にずらした。
いつの日かのユカリとのやり取りと共に先程送られた写真が目に入る。
「なんで……!?」
【080-------】
そこに書かれていた電話番号と電話帳に書かれた電話番号を見比べる。同じだ。全て同じ数字だ。余りの衝撃に身体が耐えられなくなったのか私はばたりと膝をついてしまった。
「そうだ……電話!」意識をギリギリ保って電話をかけたものの無機質な音しか響かなかった。
「アユカっ……!」泣いていいのは私じゃない。(ごめんなさい、アユカ。私のせいで……)今度こそ意識を飛ばしたユイの手元で携帯がピコンと音を立てて光った。
「ユカリ。ユイが既読つけない」
「珍しいこともあるのね。アユカは今から出かけるんでしょ。それなら私から伝えておくから早く行きなよ」
「よろしく」




