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2人はアヤミとユカリと離れ園内のベンチに座っていた。
「ユカリ……最近変なの」
ユイは何かを決心したかのような顔でアユカに告げた。そして、アユカの返答を真剣な瞳で待っている。アユカは自分が期待されていると感じるのにそう時間は掛からなかったようだ。すーっと呼吸を整え、そっとヘッドホンをなぞる。アユカは今日初めて実感したのだった。目は口ほどに物を言うとはこういうものなのだと。しかしアユカはそれについて別に嬉しくも悲しくもなんとも思っていないように見える。何故ならアユカの口から出た言葉はこれだけだったからだ。
「そっか」これ以上話す事はないと遠回しに伝えるために立ち上がったアユカをユイが無理矢理椅子に戻し、声を荒げた。
「嘘でしょ……!? ねぇ、それだけ?」どんなに訴えてもアユカの心にその声が刺さる事は無い。それでもユイが引き下がらなかったためか、アユカは酷く冷たい声で言ってしまった。
「覚悟、ある?」
其の言葉を耳にしたユイは分かりやすく顔を歪めた。
「半端な覚悟で来られても迷惑なの。分かるでしょ。貴方が1番自由がきく身なのも。それなのにフラフラして、自分の立場だけ守れれば良いって思ってるんじゃないの。本当は1番……いや、なんでもない」最後の言葉をぐっと堪えて飲み込んだ。酷く傷付いた顔をした後唇に手を当てたユイがふらりと倒れそうになるのを支える。アユカの声はユイにダイレクトに響いたようだ。
「……ねぇ、もっと私のこと好きになって……大事にして!! うんって言ってよ!!!」ヘッドホンさえ貫通してくるそれはやはりキョウキと言わざるを得ない。
「……どうして効かないの!?」
耳元で大声を出すなんてどんな教育を受けているんだ。親の顔が見てみたいなんてアユカも目で全てを教えてくれていた。皮肉な事に本人もそれを分かって訴えているのだ。しかし数秒後、額に手を当て首を振り始める。その動作はまるでそれは違うと反省しているように思えた。
「何が? それより休めば」本当に体調悪くなるなんてついてないねなんて適当な台詞を吐いて今度こそアユカは立ち去った。
「待ってよ!!」
其の可憐な声に反応したのはアユカではなかった。
「ねぇ、あそこに座ってるのって元女優のユイちゃんじゃない!?」
アユカはヘッドホンを軽く2回叩いた。