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「どうしてあんたは、いつもっ……!!」
ガチャン__。
スタンドライトを投げ発狂する女はアユカの母のアヤミだ。アヤミの焦点は合っておらず目に光は宿っていない。そして、そんな彼女をじっと見つめるアユカに更に怒りを覚えた様子だった。
「なんなのよ……その目は?? あの男と同じ目じゃない……!ふざけるな、ふざけるな!!!」
ひとつ、ふたつとアユカに近寄る影。後1歩で、アユカの目の前に及ぶ。
__ガチャリ。
2人は振り返って扉に目線を移す。みっつと数え終わる前にここに辿り着いたのは、ユカリとユイだった。
「お母さんとアユカ……!?」
喫驚した顔で飛び出していったユイを横目に見た後ユカリは辺りを見回した。
部屋の隅にスタンドライトの破片らしきものが床に散らばっている。それらを踏まないように気を付けながらゆっくりと膝を折る。
そしてその破片に手を伸ばし、回収しようとした。その刹那__。
「駄目よ!!」
アヤミの甲高い声が耳を劈く。驚愕した眼差しで彼女を見つめたのはユカリとユイだった。
「母さん……?」ユカリは手を止めて母の元へと向かう。
「ご、ごめんなさいね……。急に大声あげて。でも心配だったから……ね?」その言葉を聞いても尚、アユカは相変わらず冷やかな目でアヤミを見つめていたがユカリとユイは、それに気がつくことは無かった。
「アユカ、駄目じゃ無い。スタンドライトなんて投げちゃ……。」憂顔を浮かべてアユカの側へ歩みを進めてくるアヤミに対し、アユカは1歩、1歩と着実に後退していく。やがて後ろが壁となって逃げ場を無くしたアユカの頭をぽんぽんっと軽く撫でたアヤミはアユカを抱きしめてこう言ったのだ。
「私のせいで、ごめんなさいと謝れ。さもなくばあの2人の命は無いと思え」
悪魔が乗り移ったかのような微笑みを見せる姿に本当に自分の母なのだろうかと動揺した時もあったが、アユカにとってそれはもう遠い昔の話だ。母は、悪魔に乗り移られたのでは無い。悪魔が母になった。アユカからしたらたったそれだけなのだ。
「ごめんなさい、お母さん」
しゅんとした表情をして、許しを請う。
女優宛らの優しさを秘めた微笑で許しを与えたアヤミにありがとうお母さんとアユカは2度嘘を重ねた。勿論、この会話の不自然さに気付くものは当の本人以外誰も居ないように見えた。
「凄い音がしたから何事かって思ってあの部屋に行ったけど、怪我する前で本当に良かった。何かあったら言いなね?」とユカリはアユカの頬をぷにっと抓んだ。
それに続いて、ユイはアユカの手をぎゅっと握りしめながら涙を堪えて大声で話し出した。
「本当だよー! 怪我してたらどうしようかと思った……!!」
アユカに喋る隙を与えず一方的につらつらつらつらと1人舞台を繰り広げるユイにユカリは呆れていた。そしてすぐ様止めに入ろうとしたユカリだったがアユカの口元が緩んでいることを観取し取り止めた。
「心配かけてごめん。ちょっと色々溜め込んだ」アユカはそっとユイを引き離し、ぺこりと頭を下げる。すると、ユカリとユイは呆然とした顔で流れるような一連を見つめていた。その後、はっと意識を取り戻したユイが言った。
「そんな、頭なんか下げないでよ!?」
「そうそう、アユカも反省してるみたいだし、それにちゃんと怒ったり泣いたりしてるみたいで安心した」
微笑んだ後、ゴホゴホとユカリは咳き込む。
「……ごめん」
「だから、2度謝らなくても……!」
「……じゃあ」
「アユカ!?」
ユイは慌てて、アユカを引き留めようとするもユカリによって阻止された。再度慌てた様子でそれに対しての理由をユイが訊ねる前にそれらしい言葉を並べられた。
「今は1人にしてあげた方が良いと思うけど。ね?」有無を言わさず態度でユカリはユイの手を力強く引っ張っていく。
そして、扉は閉ざされた。




