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気持ちの整理とかその他諸々してきなよ。1人でゆっくり考える時間も欲しいでしょ?その後は皆で笑顔でアップルパイを食べよう。昔みたいに。
そういって2人を自室に帰したアユカはこの場に残った母に話しかけた。
「女優さながらの演技だった。ずっと」
何とも言えない表情でアヤミに称賛を送るとアヤミも似たような表情で返した。家族と直ぐにわかる光景だ。
「アユカもお疲れ様。そしてありがとう」
「悲劇を終わらせてくれて」
「別に。それに私お父さんとのことまでは知らなかった。本当に。だから最後に真実を知れてよかった」
「それは私も同じ。信じたいけど信じたく無いって思いが渦巻いて、洗脳されて……」
だんだん声のトーンが下がっていくアヤミにアユカが気づかない筈がなかった。
「でも、自力で此方まで戻ってきた。それって愛がなきゃ出来ないと思う。物を投げる時も私に当たらないように工夫したり。全部気づいてたよ」
そっとフォローを入れ微笑むアユカはまさに天使だった。また、それに応えるかのようにふわりと微笑み返すアヤミも天使のように思えた。
「娘を傷つけるなんてそんなことできないもの」
「だからこそ、悪魔のままでいてくれたっていうのも知ってる。でも、まさか最後まで乗ってくれるとは思わなかったけど」
ジトっとした目線を送ると母は、焦りながら言葉を紡いだ。
「あれは、私が知りたかったから。真実を。だってアユカは彼のことを信じてたでしょ? だから私は彼のこともアユカのことも信じたかったの。でも力でその気持ちも薄れていって……けど今回チャンスだって思った。3人がまた仲良くしてるのを見て。別にアユカと2人で話し合ってもよかったんだけど。皆、全てを知りたそうにしてたから良い機会かなって」
あまりにも早口で思わず笑ってしまったアユカに今度はアヤミがジトっとした目線を送る。
「因みに、ユカリになんて伝えてたの」
さらっとその目線を無視してアユカはまた話し出す。
「アユカは1番最初に産まれた子だから嬉しくて1番愛情を注いだって言っちゃったわ……」
事実、アヤミは平等に子供を愛する事は出来なかったのだ。愛の矛先は1人に集中した。しかし他の2人に全く愛情を向けなかったわけではない。それよりちょっぴり少なかったが愛情自体はしっかりと向けていたのだ。
「そっか。じゃあ、あの2人が真実を知ったら今度こそ、この家庭は崩壊する」
「アユカ……? 仲直りしたんでしょう? 3人一緒じゃなきゃ意味がないの!」
不穏な空気を察知したアヤミが声を荒げるもアユカは、再度無視を決め込み語り始める。
でもねとアユカは続けて母の身体を抱き締めた。
「それでもお母さんは、やっぱり皆のことをしっかり愛してた」
「違う! 私は1番に愛情を注いでいたアユカにさえいつしか憎しみを……!」
「私」
そっと母から身体を離した。
アヤミはもう一度もう一度だけとアユカの身体を抱き締めようとしたがアザミは首を横に振りその行為を拒んだ。
「家出るね。初めからアユカなんて居なかったの」
あぁ、アユカはもう飛び立つのだろう。親鳥の元から。いつまでもこの場所にいられないと気がついたから。そして、これが大人になるということなのだろうか。否、そうではないだろう。しかし、そうしなければならなかった。それほどまでにまだアユカは幼かった。
「それは違うわアユカ!」
「本当は全部消せる」
そっとヘッドホンに手をかける。
「やめて、これじゃあ私の計画がっ!!!!」
先程の笑みはどこへ行ったのかと問いたくなる程の表情をして叫び散らすアヤミだったがアユカは至って冷静だった。
「私はみんなと違って負担もないから」
アユカの目は赤く染まっていた。
「それに、貴方にも負担は__」
「それじゃあ」
しかし数秒後、色を変えたのだった。




